コロナ19感染拡大第4波を受けて、東京・大阪等大都市圏に緊急事態宣言が発令されました。どこかに出かける予定だったのを中止して、仕方なく自宅で過ごされている方も多いと思います。この機会に写真の編集や整理を行って過ごすのも一興ではないでしょうか。そのような方々に向けて、このゴールデンウィーク期間、写真補正関連記事をいつもより間隔を詰めてアップしてみようと思います。
さて今まで、多くの人が気付いていなかったと思われる、GIMPの平滑化機能 (ヒストグラム平坦化) の赤変褪色ポジフィルム補正能力を他のツールと比較しながら紹介してきましたが、今回はGIMPの平滑化を使った後、より良い色に補正することを試みたいと思います。
サンプルとして取り上げるのはやはり先日GIMPの平滑化機能とVuescanの退色復元機能の赤変ポジ復元能力比較の際取り上げたこちらのフィルムです。ハーフサイズのリバーサルフィルム・スライドをカメラで取り込んだものです。
まず、全体のワークフローを確認しましょう。
1) スライドを、Nikon ES-1等を用いデジタルカメラで複写 (スライドデュープ) する。
2) スライドを複写したデジタルカメラのRawファイルを、Raw現像ソフトで16bit TIFFファイルに変換する。
3) TIFFファイルをGIMPに読み込み、[色]→[自動補正]→[平滑化]を掛ける。
4) 平滑化を掛けた画像を見てファイルの補正方針を決める。
5) トーンジャンプを補正するため一旦 RawTherapee または darktableに読み込ませ16bit TIFFファイルとして保存しなおす。
6) 拙作の汎用色チャンネルマスク作成ツールを使ってマスク原稿用画像ファイルを作成する。
7) GIMP上で、平滑化に掛けた画像ファイルのレイヤーを、補正レイヤー作成分複写し、6) で作成したマスク原稿ファイルをマスクとして掛ける。
8) 必要に応じてマスク編集を行う。
9) マスクを掛けたレイヤーに対し、RGBトーンカーブやレベル補正等を用いてR, G, B値の調整を行う。
10) 調整が終了したら最後に全体に対しトーンカーブ等でコントラストを補正して、レイヤーを統合してファイル出力して終了。
以下の説明は上のワークフローの 3) から出発します。その前にオリジナルファイルを提示します。
元の色が推測できるぎりぎりのところまで褪色しています。そして前にもお見せしましたが、下がGIMPの平滑化を掛けたところです。
コントラストが下がっていますが、Vuescanより元の色が再現されていました。とはいえこのままではインパクトが弱いです。結局この画像の問題は何でしょうか。
そこでこの画像のRGB値を取ってみました。これで分かることは、やはりRGB値が近接していることです。特に、GとBが接近していることが分かります。ということは、ちょうど黄変ネガカラー写真にBチャンネル再建法を掛けたのと似たような状況が発生していることが分かります。結局、Gに対するBやRの値をどう乖離させていくか、ということがより良い色の再現に必要だ、ということです。
という訳でここからは、汎用色チャンネルマスク作成ツールをフル活用して色の調整を図ります。タオルケットのバラの花の色が今一つさえないのは、R値を上げるかあるいはG値を下げたほうが良さそうです。そしてバラの花の葉の色がくすんでいるのはB値を下げたほうが良さそうです。これはマットレスの緑色についても言えそうです。そのあたりを補正方針として立てておきます。
そこでまず、平滑化に掛けたファイルを、トーンジャンプを補完するために、一旦RawTherapee (darktableでも可) に通して16bit TIFFファイルに保存しなおします。そのファイルを元に、汎用色チャンネルマスク作成ツールでマスクを作成していきます。
なお、色の閾値は目安として -30~+30とダイアログボックスに書いてありますが、実はそれを超えても動作します。上のマスクの場合G +40にしています。緑っぽくないところも含めていじりたいのでそのようにしています。
緑透過マスクはタオルケットやマットレスの緑の描画がなるべく残るよう輝度範囲を設定しました。
赤透過マスクは、赤ちゃんの顔、タオルケットのクリーム色の地の部分、バラの花の模様がなるべく残るよう輝度範囲を設定しました。
以上のマスクをレイヤーに掛けるには、拙作の画像をレイヤーマスクとして掛けるGIMP用プラグインを使用しますと、簡単に掛けられます。
以下、具体的にマスクを掛けたレイヤーに対する編集過程です。
緑透過マスクでは、今回マスク編集を行わずそのままマスクとして使い、緑色がややはっきりするようB値を下げG値を若干上げる方向に調整しました。
赤透過マスクは、そのまま使わずに、一旦マットレスや赤ちゃんの寝間着を外し顔やタオルケットが残るようマスクを編集します。
このマスクを使って主にB値を下げます。ただこれだけだと顔が若干生気がありません。そこで顔補正用レイヤーを増やし、顔補正マスクを赤補正マスクを元に編集して作って掛けます。
顔補正マスクを掛けたレイヤーのR値を上げ、B値をさらに下げます。すると顔に生気がつきます。
さらに赤カビをマスクを使ったり、スタンプツールを使ったりして補正します。
最後に明るさに対し、全体に緩いS字のトーンカーブを掛けコントラストを調整します。
以上で一応完成です。再度オリジナルファイルと見比べてみてください。かなりいい感じに仕上がったのではないかと思います。
今回、拙作の汎用色チャンネルマスク作成ツールがフル回転してくれました。自画自賛ですが、我ながら、かなり傑作な写真補正ツールに仕上がったのではないかと思っています。GIMPの平滑化機能+拙作の汎用色チャンネルマスク作成ツール(& ImageJ)で、Photoshopなどを使うよりはるかに良い結果が、しかも無料かつ相対的に短時間で得られるのではないかと思います。
因みに手抜きで、GIMPで平滑化を掛けたファイルを、RawTherapeeに読み込んで霞除去+トーンカーブによるコントラスト補正を掛けると以下のような結果に。
今一つ眠い印象ですが、GIMP 平滑化の結果がまずまず良いので、これでもまぁまぁいけます。Vuescanを使って褪色ポジの補正を行うなら、やはり汎用色チャンネルマスク作成ツールによる補正は必至となるでしょう。
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因みに例えば下記のサイト
blog.goo.ne.jp このケースですが、このサイトの筆者の方はいくら頑張っても元通りにならないと書かれておられます。ここで紹介されている写真は、おそらくPhotoshopの自動カラー補正に掛けて終わりになっていると思いますが、このようなケースでも、当記事で紹介した手法を使えば、十分救済可能です。... そこで終わりにしていたら、あぁもったいない。
以上で昨年8月から模索していたフリーソフトを用いた赤変褪色ポジスライドの補正手順はほぼ到達点に達したかと思います。個人的にはこの手順がフリーソフトを使った赤変ポジ補正の決定版だと思っております。またGIMPの代わりにPhotoshopを使うことも可能です。おそらく他のレイヤーマスク編集をサポートしたフォトレタッチソフトも同様でしょう。
なお、ポジフィルムはネガカラーのように不均等に変褪色するというケースがないようですので、褪色に関しては、ここまでの探求で十分かと思います。GIMPの平滑化を使うと中間でトーンジャンプが発生するのがどうしても気になるという場合は、以前示したように、Geoff Daniell氏のフリーのGIMP用補正プラグインを使用するというのもありかと思います。またフィルムの褪色状況によってはGeoff Daniell氏のプラグインの方が効果的な場合もあります。プラグインを掛けた後の調整補正に関しては、こちらの手順がそのまま使えると思います。
また、GチャンネルとBチャンネルのヒストグラムがほぼ同じになるほどまで褪色してしまった場合 (褪色したフィルムを見ても、元の色がほぼ推測不能の場合) は、もはや「補正」の領域ではなく「着色」を考えなければならないと思います。これについては今後の課題として、また別途考えてみたいと思います。