省型旧形国電の残影を求めて

戦前型旧形国電および鉄道と変褪色フィルム写真を中心とした写真補正編集の話題を扱います。他のサイトでは得られない、筆者独自開発の写真補正ツールや補正技法についても情報提供しています。写真補正技法への質問はコメント欄へどうぞ

鉄道色のリファレンス(2): 横須賀線色

 さて、写真補正のための鉄道色の色のリファレンスを掲示する記事、2回目です。今回は、筆者が大好きな横須賀線色です。湘南色は、もちろん発祥の地と由来の深い蜜柑を象徴した東海道線に使われるのは構わないと思うのですが、個人的にはどこかけばけばしくて、直流区間はどこもかしこも湘南色... というのはちょっとどうかなぁ、と思っていました。しかし青15号とクリーム1号の横須賀線色は落ち着きがあって、海でも山でも日本の景色にとても良くなじむ色彩です。今は、しなの鉄道リバイバルカラーで残っている編成しか現存しておらず、その活躍も今夏までというのが非常に残念です。山スカ71一統の影響か、スカ色の70系の配属先周辺の旧型国電にも良く採用されていた(飯田線身延線、高崎周辺ローカル、日光線信越線)なじみ深い色彩です。新性能車では、横須賀・総武線113系中央東線115系に限定されていました。スカ色の70系が運用されていた路線でも、新性能車置き換え後は必ずしもスカ色が維持されませんでした。

 またスカ色の元祖70系も、80系がどこに転出しても湘南色を維持したのに対し、必ずしもスカ色を維持したわけではありませんでした。例えば京阪神緩行線に投入された70系は従来の旧型国電に合わせてチョコレート色でしたし、新潟地区は、当初チョコレート色のち新潟色に転じました。

 なお1950年に最初に登場したときは青2号とクリーム2号の組み合わせだったようで、青がもうちょっと緑がかっていたようですが、1962年の塗色標準化以降青15号+クリーム1号の組み合わせに変更になったようです。これは111系の投入とは関係なく、横須賀線に投入された111系は当初湘南色だったようですが、1965年以降塗色がスカ色に変更になったようです。また、現在の横須賀・総武線の塗色は、2007年以降に実施されたE217系の制御機器等更新(GTOIGBT)時にクリーム1号+青色20号に変えられてしまい、本来のスカ色ではなくなっています。

 

 因みに青15号のRGB値はWikipediaによると(35, 64, 89) [13.7, 25.1, 34.9%]、クリーム1号は(214, 188, 150) [83.9, 73.7, 58.8%]とされています。

 今回はWikiから写真を拾ってくるのを止め、筆者手持ちの写真からお示しします。

 

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サンプル1

 サンプル1は身延線のクモハ51850です。元々はクモハ43008でしたが横須賀線時代に3扉に改造され、さらに身延線転出時に低屋根に改造された車両です。主に4両編成の中間に挟まれて使用されていました。フィルムはエクタクロームで色にその癖が乗っていると思います。青15号に関しては、Rが多めです。GはBの7割程度ですがこれは妥当かと思われます。Bが最も高く、やや下がってG、そしてGより若干Rが低くなっている傾向で、GとRの差が詰まっている、つまりRが高めに出るのがフィルム特性のようです。線路の鉄錆色もRが高めの印象です。一方、クリーム1号はR, G, Bの差が詰まっています。これは、褪色や快晴の天候効果のためだと思われます。

 なお、先日アップした記事には、このRを若干補正した写真を載せています。やはりRを若干下げた方がナチュラルになるようです。

  

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サンプル2

 こちらはやはり身延線のクハ47003です。フィルムはコダクロームですが、ごく薄いライトブルーのフィルターを掛けて撮影しました。コダクロームは赤みがかるのでそれを嫌ってフィルターを掛けて使っていました。そのため色温度が多少冷たい方向に傾いているようです。上は青15号に関して赤みが強く出ていますが、下はフィルターのため赤みが低くなっており、また、GとBの間の差も広がっています。当然ながらやや青みが強く出ていると言えます。クリーム1号は、やはり晴天の効果かR, G, Bの間隔が詰まっていますが、フィルター効果か、Bがやや高くなっています。

 

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サンプル3

 こちらは八トタ末期の115系で、クモハ115-315です。カメラはオリンパスを使っています。青2号の値の傾向は、サンプル1に似ていますが、わずかにサンプル1より赤と緑の差が開いており、さらにクリーム1号のR,G,B比は、WikipediaのRGBに比べRとGの間隔が多少大きく、それに比べGとBの差が少なくなっています。ややクリーム2号に似ているようです。そのため、クリームがサンプル1, 2よりやや暖色系に傾いています。Bが高めなのは影になっているためかもしれません。因みに八トタの115系は、2014年12月9月に一気に運用離脱してしまい、非常に残念に思ったことを思い出します。

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サンプル4

 こちらも八トタ末期の115系で、クモハ115-309です。クリーム1号はサンプル3と似ていますが、ややBが低めで微妙に黄色がかった印象です。GとBの比はほぼWikipediaの値と同様ですが、Rが若干高めで、やはりやや赤みがかった印象があります。青15号もサンプル3と似ていますが、Rがサンプル3より低めでより青っぽい印象です。ただおおむねWikipediaに出ている青15号のRGB比に似ています。

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サンプル5

 これは長ナノの6両編成、クハ115-1123です。長ナノの6両編成運用はもともと長モト所属でしたが長ナノに移管され、その後第2次長野色に塗り替えられました。しかし中央線115系末期になってイベント的に1編成だけスカ色に塗り替えられたのがこの編成です。JRで最後まで残った営業用スカ色編成となりました*1。八トタの115系の塗装は大宮工場→大宮車両センターで施行されていましたが、長ナノの塗り替え編成は長野車両センターで施行されました。そのせいか、同じスカ色でも微妙に塗色が違うようで、八トタの編成に比べて青2号が明るいように感じられました。実際にRGB値を見ても、青15号のRの比が、他のサンプルに比べて、対G,B値に対しかなり低めに出ています。一方G, B値はやや高めです。サンプル2の青15号のRの比をちょっと高くしたような感じです。RGBのそれぞれの値の差が大きいということは彩度が高いということです。クリーム1号のR, G, B比はほぼWikipediaの値通りの比のようです。カメラはニコンでサンプル3, 4とは異なりますが、そのせいではないように思います。

 因みに国鉄末期 (70年代末~80年代半ば) にスカ色を施行していた工場は、横須賀・総武線(南フナ, 千マリ)、身延・御殿場線(静ヌマ)を担当していた大船工場、上越信越・吾妻・両毛線 (高タカ一)を担当していた大井工場、飯田線(静トヨ, 静チウ, 静ママ)を担当していた浜松工場、信越篠ノ井線(長モト)を担当していた長野工場、阪和線(天オト)→福塩線(広フチ)を担当していた吹田工場がありました。中央東線(西ミツ)の71グループや日光線(北ヤマ)の40系は、現車を確認していないので分かりませんがおそらく大井工場だったのではないでしょうか。71グループは広島に移ってからは幡生工場が施行していたのでしょうか?当時工場による微妙な塗色の差があったのかどうかは分かりません。

 

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サンプル6

 こちらは高尾駅に佇む115系です。M8編成クモハ115-311です。色の傾向はサンプル3と同様です。

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サンプル7

 こちらも長ナノのイベント塗り替え編成、モハ115-1065です。やや暗い条件のサンプルとして持ってきました。青15号ですが、明るいところでは、やはりRの比の低さがサンプル5と同様目立ちます。暗い場所では、R, G, Bの違いが狭まっている(→彩度低下)のが分かります。クリーム1号に関しては、やはりサンプル5と同様、Wikipediaの値とほぼ同様です。八トタの車より若干黄色っぽく感じられます。これも現車通りだったように記憶しています。

 しなの鉄道のスカ色リバイバル車は現車を見ていませんが、どうも長ナノのイベント塗り替え編成と同じ色ではないかと思われます。

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サンプル8

 こちらは八トタ クモハ115-356で、カメラはニコンです。逆光の写真を補正しています。クリーム2号がやや青っぽくなっていてBの値がGに近いところまで上がっていますが(快晴下の影の光線効果と思われます)、青15号はオリンパスで写した豊田車と傾向は似ています。

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サンプル9

 こちらは試運転中の八トタの115系です。かなり明るい光線下、青15号が明るめ、彩度高めに写っており、長ナノのイベント塗り替え編成の値に近くなっています。またクリーム1号は、快晴の天候のためか、サンプル1, 2と同様、R, G, B値の間隔が狭まっています。結果的に他の八トタの車の写真より赤みが少なく見えています。快晴の天候のため、全般的にB値の上昇効果があったと言えそうです。トーンカーブを使ってB値を若干引き下げると、本来の色に近くなるかもしれませんが、快晴の光線下で撮ったようには見えなくなる可能性があります。光線状態によっては見え方がかなり変わる様子が分かります。

 

 以上をまとめてみると、青15号に関しては、Bの値を10割とすると、Gの値は6~7割前後、Rの値はGの5割前後というあたりがレファレンス値になりそうです。Wikipediaの青15号のRGB比もほぼその通りで、妥当なようです。但し、長ナノのイベント塗り替え車は、Gの割合が5割台、Rの割合が2割前後と明らかに低くなっています。このようにR, G, Bの差が大きいことが青が軽く見える (彩度が高い) 原因と思われます。

 フィルムで撮った写真は、エクタクロームの特性としてRの感度が上がるようで、その分を差し引いて考えるとほぼ上のリファレンス値の範囲に収まります。またコダクロームにごく薄いブルーのフィルターをつけて撮った写真は、やはりその分、Rを引き上げ、Bを引き下げて考えると、ほぼレファレンス値に近づきます。

 また、暗いところでは、R, G, B値の差が狭まるのも確認できました。

 例えば以下の Youtube に掲載されている、JR最後の営業用スカ色編成となった長ナノイベント塗り替え編成 (C1)の、2015年10月28日の運用離脱日のビデオですが、

www.youtube.com 色としては、八トタ編成とあまり変わらないように写っています。これは、夜間に撮影されたため、R, G, B値の差が狭まっている (彩度が下がっている) 効果だと考えられます。またサンプル5, 7が塗り替えからさほど時間が経っていない時点で撮影されたことやセンサーの特性も考えられるかもしれません。

 またクリーム1号ですが、Rを10割とすると、Gが9割前後、そしてBが6~7割程度というのがレファレンス値になると思います。ただクリームは褪色が進むと場合は、RとGの幅が狭まっていくことが考えられます(赤みが減退)。またBも上昇し白っぽくなるかもしれません(B値が下がると黄色味が増す)。また光線状態によってB値の値がどうも大きく変わるようです。それによって白(青)っぽく見えたり、黄色っぽく見えたり変動幅が大きそうです。ただ、大宮車セ施行のクリーム1号は、Wikipediaで掲載されているクリーム1号のRGB値 [83.9, 73.7, 58.8%] より、ややRとBが高めのような気がします。長野車セのクリーム1号はWikipedia掲載のRGB値にかなり近いようです。ただこれらの違いは、光線の加減による変化の範囲内なので、実際にどの程度の差があったのかははっきりとは分かりません色は光線条件や周囲の色との関係で大きく左右されます。たとえ同じRGB値の色であっても周囲の色との関係で見え方が大きく変わるということもあります。何が「客観的」な色なのかを確定することは非常に難しいです。


 

*1:事業用だとクモユニ143-1が最後まで残ったスカ色だったと思われます。