Nikon純正現像ソフトをNX Studioに変えてから、いろいろと比較現像などを行っていますが、どうも最近のCapture NX-DやNX Studioは思った以上に高性能なのではないか、という気がしてきました。そこで、次は、ネットなどに書かれているカメラメーカー純正ソフトはノイズ低減がダメ、という噂は本当なのかを検証してみます。ファイルは以前アップした夜のお菓子屋さんの写真です。撮影はNikon D5500です。
まずRawTherapeeでニュートラルで現像してみます。デモザイクはデフォルトのAMaZEです。isoの高い暗い画像に適した現像方法ではありませんが...これが最も素に近い画像になると思います。
拡大してみると盛大にノイズ、というか粒子がはっきり出ています。
次に、NX Studioで読み込んでデフォルトの状態でそのまま現像したものが下です。ファイルから諸設定を読み込んで、様々な補正が自動適用済みになっています。
色も良い感じに補正できていますし、粒子もかなり目立たなくなっています。かと言っても、そこそこディテールは残っています。敢えて言うなら碍子はややぼやけすぎと言えるかもしれませんが、しょせん周辺部分ですし... かなりいい感じではないかと思います。しかもデフォルトでこの絵です。
因みにノイズリダクションは、デフォルトで[高画質2013]がかかります。デフォルトの適応量は53、シャープネスは40になります。因みに、ただの[高画質]や[高速]だと確かにかなりダメです。なお、最新のピクチャーコントロール(Expeed6相当)で現像しています。
このデフォルトの設定値はカメラの撮影時の設定が反映されるようです。つまりカメラが撮影条件から自動的にどんな補正を適用するか判断した結果が反映されているのです。[高画質2013]はExpeed4から搭載されているので、Expeed3以前のカメラではこれは手動で適用しなければなりません。
次はdarktable3.4です。
こちらは、filmicRGBのデフォルト設定が掛かっています。もう少し明るい部分を明るくした方が良かったかもしれません。さらにノイズを減らすために、以下のモジュールをいじりました。darktable3.4ではRawファイルに記録されたプロファイルを見て、自動的にモジュールを適用するという機能はないようですので...
lens correction
denoise (profiled)
haze removal
defringe
hot pixels
とくに、denoiseはなるべくナチュラルにするためパラメータをいろいろいじりました。
以下細部の拡大です。
ほぼノイズ縮減のレベルはNX Studioと互角のようですが、ノイズをぼかしたテクスチュアはNX Studioの方が一歩上のような気がします。一方、暖簾の横の植物はしっかり表現されています。ただ、darktableはいろいろモジュールをオンにしてパラメータを動かして調節する手間がかかりましたが、NX Studioは、デフォルトであの水準です。
次はRawTherapeeです。実はRawTherapeeでの調整に一番手こずりました。まずDCPプロファイルはD5500のカメラ固有の特性をエミュレートしたものを一旦適用します。その後に気づいたのは、デモザイクの方法を変えると色が変わってしまうことです。darktableではデモザイクの方法を変えると色が変わるということはなかったのですが... ネットでの情報を見るとLMMSEかIGVが適切との書き込みがありましたので、LMMSEを採用してみました。
AMaZEだとやや赤紫がかります。
LMMSEだと色が落ち着きます。IGVを適用すると、全般にコントラストが低くやや明るくなりいかにも露光不足のネガをプリントしたような感じになってしまいます。
この段階では全然ノイズが取れておらず、かつ全般に明るくてあまり雰囲気がでません。一旦トーンカーブで暗部を若干沈み込ませ、さらに露光量、黒レベルも調整しました。
ノイズ低減関連で以下のパラメータを使ってみました。
他にシャープニングをオンにしてハロ抑制にチェック、また霞除去をオンにして弱く掛けています。
もうちょっとパラメータを追い込めば何とかなるのかもしれませんが、テクスチャの均一感が今一つでやや荒れた感じです。一番気になるのは空の不均質感です。全体像でもはっきり分かります。なお、RawTherapeeの5.9開発途上バージョンでは、ノイズ低減機能が強化されているようです。ローカル調整が追加されそこにもノイズ除去があるようで、それも併用するととよりうまくいくかもしれません*1。ノイズ処理が今一つなのは5.8のせいである可能性があります。
RawPedia 「ノイズ低減」
https://rawpedia.rawtherapee.com/Noise_Reduction/jp
そこでART / RawTherapeeを使ってみました。以前ちょっと言及しましたが、RawTherapeeの派生バージョンです。RawTherapeeからあまり使われないようなモジュールを省くとともに、より一般向きに使いやすくアレンジしています。もう一つの特徴として、開発版の5.9の中から、比較的安定しているモジュールを選んで搭載し、安定板として公開している点です。ローカル補正が搭載されていますし、トーンカーブ機能も動作が改良されています。残念ながら日本語化はされていません。こちらを使うとこんな感じです。
RawTherapee5.8よりも確かにスムーズです。碍子部分の空の均質感は今一つですがRawTherapeeよりましです。それ以外の部分はかなりスムーズになっています。いじったモジュールは下記のとおりです。
Rawタブから、プリプロセッシング(前処理)のホット/デッドピクセルフィルターおよびDynamic row noise filter、色収差補正(自動)
ディテールタブから、ノイズ低減、インパルスノイズ低減、ファイナル・スムージング
ローカル編集タブから、スムージングを使っています。
ディテールタブのファイナル・スムージングおよびローカル編集タブは、RawTherapee5.8にはないモジュールです。結構効果が大きいのはローカル編集タブのスムーシングで、半径をやや大きくし、ディテール復元をマイナスに持ってくることでかなり粒子がスムーズになります。ただローカル編集タブのスムージングの効果だけでなく、そもそものノイズ低減モジュールのアルゴリズムも改善されているような気がします。デモザイクの方法の変更による色変わりも程度が軽減しています。
最後はLuminar3です。ノイズ低減を思いっきり振りました。また画像のデフォルトの傾向がややRawTherapeeに似て、ちょっと明るめなので、トーンカーブで弱いS字カーブを掛けています。
気になるのは、空が暗めで分かりにくいですが、空にやや不均質感がある点です。粒子の均質性はNX Studioやdarktableに劣るようです。ただ、投光器部分や暖簾部分はかなりスムーズで一長一短です。また、スムーズすぎると評価される方もいるでしょう。ただこれはノイズ低減の適用量をすべてマックスに振り切っているためで、NX Studioの方はデフォルト値でマックスまで上げていません。もっともマックスまで振り切っても破綻が少ないという点がLuminarの特徴かもしれません。
高感度撮影のノイズ低減処理に関しては、NX Studio / Luminar3 / ART > darktable > RawTherapeeの順になりました。NX Studio / Luminar3 / ARTは空の均一感は、NX Studioですが、投光器や暖簾部分の粒状感は一長一短かと思います。ただdarktable, RawTherapeeはもう少しパラメータを追い込めばどうかなるかもしれませんので決めつけられません。とはいえ、手間/効果比を考えるとNX Studioの圧勝です。
とにかく、NX Studioのノイズ低減処理の[高画質2013]の効果は非常に高いです。darktableの[denoise (profiled)]もかなり効果は高いです。こればdarktableのマニュアルによれば、カメラのセンサー毎、iso毎の特性を調べて、それに対応したノイズ低減アルゴリズムを適用しているということで、300機種以上のカメラに対応しているということです。おそらく[高画質2013]も同様なことをやっていると思います。しかも自社カメラに限定されますので、darktable以上にかなりきめ細かいアルゴリズム調整ができるのではないでしょうか。つまりセンサーごと、感度ごとのプロファイルに対応したノイズ低減は非常に有効である、ということです。
それに対してRawTherapeeは汎用的に適応されるアルゴリズムだけなので、アルゴリズム効果自体はそれなりに高いと思いますが、センサーごとのチューニングまで出来ていないのでこの結果となっているのかと思います。ただNX Studioの[高画質]より良い結果であることは間違いありません。
なお、当然ながら[高画質2013]はRawファイルしか使えません(単なる[高画質], [高速]はRawファイルでなくても有効です)。また、Expeed3対応のD3200のRawファイルにも手動で掛ける必要はありますが、有効であることを確認しました。どこまで古いカメラのセンサーに対応しているかは不明です。
ともあれNikon純正ソフトのノイズ処理はいまいち、というのももはや過去の話であり、現在ではもっと積極的に選択されてよいと思います。しかも、カメラでの設定に応じてですが、多くの場合必要ならばデフォルトでかかるので、手間もかかりません。Expeed4以前のRawファイルでExpeed6相当の処理ができるのも大きな利点です。Lightroomなどサードパーティー製のRaw現像ソフトを使うのがハイ・アマチュアやプロの定石というのも見直して良いのではないでしょうか。ベース処理は純正ソフトに任せ、それで足りない場合だけサードパーティ製ソフトを使うというのでも良いのではないかと思います。
なお、Expeed6から新たに回析補正という機能が追加されています。しかしNX Studioでは、Expeed6非対応のカメラのRawファイルでは有効になりません。NikonのサイトでもView NX-iのヘルプには、対応カメラのRawファイルでのみ有効とありました(NX Studioのヘルプには記載なし)。おそらくNX Studioでも、この機能は、もともと対応カメラのRawファイルでないと使えないようです。