省型旧形国電の残影を求めて

戦前型旧形国電および鉄道と変褪色フィルム写真を中心とした写真補正編集の話題を扱います。他のサイトでは得られない、筆者独自開発の写真補正ツールや補正技法についても情報提供しています。写真補正技法への質問はコメント欄へどうぞ

白色ライトでネガカラーフィルムをデジカメ・スキャンすると色が悪くなる!?

 最近ネガカラーフィルムの色補正について検索をしていたところ、貴重なWeb記事を見つけました。ネガカラーフィルムのスキャニングをする際に知っておくべき非常に重要な情報と思われますが、しかし少なくとも日本語ではネット上で得られない情報です。それが以下です。

Alexi Maschas, 2020, "Tri-Color Scanning, Color Negative Film & Color Spaces"

medium.com

 この記事の筆者 Alexi Maschas氏はハイ・アマチュアの方のようです(本業はプログラマーのようです)。この記事の指摘によれば、最近ネットでデジタルカメラでネガカラーの取り込みを行う際、赤、緑、青のLEDライトを使って別々に3枚の画像を作成し、それを3原色合成したほうが、白色LEDライトを使って1枚の画像を取り込むより、よりよい色で取り込めるということが話題になっているそうで、この方は、その理由について説明しています。
 とはいえ、日本語のネット記事では、ネガカラーフィルムをデジタルカメラを使ってデジタル化する際に、R, G, Bチャンネルごとに分割して取り込むなどという話は見つかりません。それはともかく...
 Alexi Maschas氏も、実際にRGB分割取り込みをやってみたところ確かに良い結果が得られると述べています。ただその理由が分からなかったため、コロナ禍で浮いた時間に専門書やweb記事を読んでその理由を探ったそうです。
 詳しい内容は原記事にあたっていただければと思いますが、簡単に要約するとこういうことです。カラーネガフィルムはCMY感光層がそれぞれ感光することで色を発色させますが、その際に完全に赤 R, 緑 G, 青 Bの光のスペクトラムをスクリーニングできるわけではなく、他の感光層に不要なスペクトラムが漏れて、悪影響を与えるということです。
 例えばシアン発色層はRをブロックする一方、GとBを透過させなければならないのですが、それ以外に若干余計にGをブロックします(→マゼンタが強まる)。マゼンタ発色層は、Gの光をブロックしBとRの光を透過させなければならないのですが、若干余計に青い光をブロックします(→黄色が強まる)。黄色感光層にはこのような問題は生じません。
 そこで、それぞれの層のスペクトラムの漏れを修正するために、悪影響をキャンセルするマスクとして働く感光層を入れて、印画紙上ではうまく発色するようにできているようです。シアン発色層の漏れに対してはマゼンタの漏れをブロックするマスクとなる発色層を導入し減ったG分を補償するとともに、同様にマゼンタ発色層に対しては黄色の漏れをブロックするマスクとなる発色層を導入し減ったB分を補償します。これにより緑、青を一定のレベルに維持します。
 もともとCMYの感光層自体の感度が異なりますので、透過するRGBのレベルは異なりますが、下図のようにRGBの色のレベルのカーブは平行状態になります。これをオレンジベースと、カラー印画紙のRGBの感度の違いで調整することで、印画紙上でRGBの中間グレー点のレベルが物理的に一致するよう調整され、色のカーブがそろった正しいカラー画像が再現されます(以下の図はAlexi Maschas氏のサイトからの引用です)。

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Graph of log light exposure vs density of color dye layers in a color negative. When the color offsets are applied by white balancing on middle grey the color channels all line up, resulting in accurate colors in the positive.

 

 しかし、その色の調整はCMY色空間を前提としています。しかしデジタルカメラのセンサーは、RGBセンサーであり、このキャンセル効果がうまく働きません。RGBセンサーにおける、R, G, Bのそれぞれのセンサーの反応特性はフィルム上で調整されたCMYの範囲にそのまま対応するわけではなく、上で述べたものと同様な別の「漏れ」が生じます。しかし、その漏れはデジタルカメラ上で調整されるわけではありません。
 キャンセル効果がうまく働かないと、ホワイトバランスを調整しても、基準となる中間グレー点ではレベルが一致しても、他の場所では一致せず下図のようにバラバラになります。つまり、調整前のR, G, Bの値は平行に並ばず傾きがそれぞれバラバラなので、ホワイトバランスを調整しても、本来の色カーブを再現できないのです。

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Graph of log light exposure vs density of color dye layers in a color negative scanned with broad-spectrum white light. When the color offsets are applied by white balancing on middle grey, all of the other tones experience color shifts.


 しかし、R, G, Bを別々に取り込むと、フィルムのぞれぞれの感光層の「漏れ」が他の感光層に与える悪影響がなくなりますので、R, G, Bの値が平行になる画像を得られます。これを合成することできれいなカラーが再現できる、ということのようです。

 Alexi Maschas氏は、Photoshopの有料プラグインであるNegative Lab Proを使うと非常に良いネガポジ転換ができるのはNegative Lab Proが、それぞれのフィルムのRGBカーブが平行にならないのを、R,G,Bそれぞれに別々のガンマ補正値を与え平行になるよう調整してから合成しているからではないかと指摘しています。

 そうだったのか! 非常に納得のいく議論です。

 なお、 Alexi Maschas氏はNikon Coolscanの一部の機種を調べてみたところ、Coolscanでは、R, G, Bおよび赤外線のLEDが光源として別々にあって、つまり、RGB画像を別々に取り込んでいると述べています。また富士フィルムのデジタルミニラボ用の業務用フィルムスキャナ、フロンティアSP3000も同様だと述べています。つまりこれらのフィルムスキャナはきれいなカラーの再現が可能ということです。Coolscanの取り込み画質の評判の高さの秘密はここにあったわけです。

 そういえば、私も、コニカミノルタDimage Scan 5400IIを使ったネガカラーフィルム取り込み結果について、純正ドライバよりもVuescanのほうがはるかに良い結果が得られるのを経験していますが、一方ポジに関してはそこまで大きな差はみられません。Kodachromeに関してはVuescanのほうが良いのは確かですが、他の内式リバーサルフィルムでは好みの差はあっても優劣の差はありません。これも、VuescanがNegative Lab Proと同様のアルゴリズムを内包しているという理由であるかもしれません。

 ということはコニカミノルタDimage ScanでVuescanと純正ドライバでネガカラーフィルムの取り込み結果にかなり差が出るのは、Dimage Scanの光源が白色LEDだから...? と思って説明書を見ると、なんとその通りでした! なお、そこそこまともなフィルムスキャナとして現在唯一入手可能な台湾のPlustek製フィルムスキャナも、Webページの仕様案内を見ると白色LEDを使っています。おそらくコンシューマー用フィルムスキャナとしては、RGB別取り込みをやっていたのは、Nikon Coolscanシリーズが唯一だったのではないかと思います。
 ということは、同様な問題はやはり白色LEDを光源として使っているフィルム対応のフラットヘッドスキャナ EPSONのGT-X980でも起こりうるはずです。もっともドライバがR, G, Bそれぞれのカーブを調整する最適化アルゴリズムを含んでいれば (おそらくNegative Lab ProやVuescanのように) 問題は少ないはずですが、実際のところどうなのでしょうか。
 またネガカラーフィルムをスキャンするとマゼンタがかる傾向にあるという話も*1ひょっとするとここに原因がある可能性が大です。街の短時間現像ラボにフィルムを出すとマゼンタがかるプリントができる話も、ひょっとしてRGB別の取り込みを行うフジカラーのフロンティアシリーズではなく、白色LEDを使った業務用フィルムスキャナを使ったラボであったのかもしれません(ちなみにミニラボ用の業務用フィルムスキャナは富士フィルム以外にノーリツ剛機(現ノーリツプレシジョン)も供給していたようです)。

 目から鱗です!

 もちろん、Alexi Maschas氏は自分は専門家ではないので間違っているかもしれない、と言っています。しかし、Alexi Maschas氏の仮説に立って考えてみると、他にも思い当たることがあります。すでに私のブログの記事の中で、ネガカラーのマゼンタ被りの補正にGチャンネルにRチャンネルの情報を混入することが有効だと指摘しました。この理由も説明できます。つまりGチャンネルにRチャンネル情報を混入することで、GとRのカーブを疑似的に平行に近く補正する効果があると考えられます。但し混入量が多すぎると、GとRのカーブはより平行になる一方、あるべきGとRの差が少なくなりすぎる(→彩度が過剰に落ちる)ため逆効果になる、ということでしょう。但し、値が非常に低い部分(=シャドウ~ブラック域)では、もともと彩度が低いので、混入量がかなり多くても問題ない(むしろ望ましい)ということになります。さらに、まだ試していませんがGへのRへの混入と同時に、YへRを多少混入させるとより効果的かもしれません。ただしおおむねYとRの相関はやや低いのでやりすぎると逆効果になる可能性があります

 また、ネガのマゼンタ被り以外にポジフィルムの色被りでもGチャンネルへのRチャンネル情報の混入が有効とも書きましたが、これも同様の理由で説明がつきそうです。
 また、Gチャンネルに対する人間の目の感度が他のチャンネルに比べて非常に大きいので、Gチャンネルに対し補正をかけることが最も効果があるということかと思います。

 とはいえ、この記事に対し、疑問を呈するコメントがついていますが、筆者からのコメントはありません。コメントの一つは3色でスキャンした時と白色光でスキャンしたときの違いを示す画像データを見せて欲しいというもの。もう一つは波長幅の狭いLED光で取り込まなければ効果的でないいうのは本当なのか、という疑問。また、ネガはどう調整するのが適切なのかは画像によって異なり、決まった正解(R,G,Bが平行になるという)はないのでは... という疑問が呈されています。

 ただ、個人的にはこの筆者の主張はかなり説得力があり、少なくとも試してみる価値はあるように思います。

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追記: この記事には以下の続編があります。

yasuo-ssi.hatenablog.com

yasuo-ssi.hatenablog.com

 

*1:私の以下の記事をご覧ください。

yasuo-ssi.hatenablog.com