省型旧形国電の残影を求めて

戦前型旧形国電および鉄道と変褪色フィルム写真を中心とした写真補正編集の話題を扱います。他のサイトでは得られない、筆者独自開発の写真補正ツールや補正技法についても情報提供しています。写真補正技法への質問はコメント欄へどうぞ

なぜネガカラーフィルムのスキャンにRGB LED光源を使うべきなのか?

本記事は、以下の記事の続編です。

yasuo-ssi.hatenablog.com--------------

 さて、上記記事で、Alexi Maschas氏のRGB LED光源でR, G, B別々にネガカラーフィルムをスキャンし、それを合成すべきという議論を紹介しました。その中で、なぜ波長の帯域幅の狭いLED光源を使うべき理由についてやや説明不足とも指摘しました。しかし以下のネット上のオンラインディスカッションで、その詳しい理由が説明されています。

discuss.pixls.us この議論を開始した方(Damir Kudeljan氏)は、RGB別に取り込んだTIFF画像を1枚のDNGファイルにまとめる方法はないかということで質問していますが (結局その方法への決定的な答えは得られていませんが)、この議論の中でいろいろと非常に重要な内容が指摘されています。以下の図はこのディスカッション (Nate Weatherly*1の投稿) からの引用です。

 以下は、典型的なカラー印画紙のRGBスペクトラム感度です。

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印画紙のスペクトラム感度カーブ

 なお、RGBの出力の最大値は1.0になるように標準化されています。ちなみにネガフィルムですのでRはフィルムのシアン発色層、Gはマゼンタ発色層、Bは黄色発色層を通った光によって反応します。

 ところがデジタルカメラのRGBセンサーとネガフィルムの印画紙の感度反応パターンが異なります。

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デジタルカメラのセンサーと印画紙の感度の違い

 センサーの感度曲線(細線)はソニーのα7のものですが、他のデジタルカメラもほぼ同様です。そして太めの線が、印画紙の感度曲線です。問題はフィルムに比べてカメラセンサーの方が、R,G,Bの反応が重複する部分が大きいことです。特に問題なのは、印画紙ではGとRの重複が極めて小さいのにもかかわらず、カメラセンサーは重複が大きくなっています。これがフィルムをスキャンしたときのマゼンタ被りの主たる原因になっているものと思われます。

 更にカメラセンサーの感度、各ネガフィルムの発色層に対する印画紙の感度、3色RGBを使ったカメラによるスキャンの感度を合わせた図です。

 

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カメラセンサー、印画紙、3色LEDスキャンの反応の比較

 黒い線がフィルムの各発色層(黄色、マゼンタ、シアン)に対する印画紙(Kodak)の感度反応曲線(黄色発色層→Bチャンネル、マゼンタ発色層→Gチャンネル、シアン発色層→Rチャンネル)、R,G,Bの細い線がカメラの反応曲線、そして、薄く塗りつぶされた部分が、3色LEDを使ってネガフィルムを透過させた時の反応曲線です。印画紙はネガフィルムのオレンジマスクの感度が低いのが分かります。そして3色LEDも、オレンジマスクの部分を避けた形になりますので、オレンジマスクの調整が必要ありません。一方、カメラのRセンサーはピークがオレンジマスクとかぶりますので、白色光で取り込むとかなりオレンジマスクの影響を受けますし、またGセンサーもオレンジマスクとかなり被ります。さらにGとRのセンサーの範囲の被りも激しいです。3色LEDを使うとオレンジマスク部分の波長がないので、センサーの感度が被ったとしても、くっきり区分けできます。なおディスカッションでも指摘されていますが、当然ながらRを撮ったRawファイルからはRチャンネルのみを、Gを撮ったファイルからはGチャンネルのみを、そしてBを撮ったファイルからはBチャンネルのみを取り出して使う必要があります。

 印画紙もカメラセンサーもBとGチャンネルの重複はそこそこありますので、そこはそんなに大きな問題ではないかもしれません。やはりRとGの重複、あるいはデジタルカメラのRセンサーとフィルムのRのピークのずれが大きな問題です。そしておそらくネガカラーフィルムをスキャンするとマゼンタ被りになる傾向は、これに起因するのではないかと思います。

 光の波長がどうRGB値に変換されるのか私自身今一つ分かっていないので、デジタルカメラセンサーのRとGの感度の重複やデジタルカメラのRセンサーとフィルムのRのピークのずれがネガカラーフィルムスキャン時にマゼンタ被りを生むという解釈が正しいかどうか分かりません。しかし仮に正しいとすると、GチャンネルにRチャンネルをミックスするとこのマゼンタ被りが改善するというのは至極当然です。マゼンタはR値が高くG値が低いですから、G値にR値を混入することで、マゼンタに寄っている分G値が上昇してマゼンタ被りが改善する訳です。ただ、RとG値の差があるのはマゼンタだけではなく赤も同様です。ですので、一律にGチャンネルにRチャンネルをミックスするとマゼンタ被りが改善するだけでなく赤も濁ってきます。マゼンタか赤かを決めるのはBの値ですのでそこをコントロールする必要があります。

 因みに拙作の相対RGB色マスク作成ツールを使うと、各ピクセルのR,B値がともに高くG値との差が大きい場合ほどマゼンタ度が高い=透過度が高いマスクを作りますので、この辺り適切にスクリーニングできると思います。特定色域を指定したマスクを作れる機能を持つ画像編集ファイルはいくつもありますが、原色/補色の相対値に基づくマスクを作れるツールは拙作のツールが世界唯一だと思います。

 逆に、Bに関しては3色LEDを使うと印画紙よりもBとGの重複部分が少なくなりすぎるような気もします。この図ではBのLEDのピークが440nmになっていますが、前に紹介した、Alexi Maschas氏が460nmにピークが来る青色LEDを使っているのは、印画紙のBとG部分の重複をある程度再現するということが理由だったようです。
 なおカメラのRセンサーのピークと赤色LEDを使った場合のピークがかなりずれますので、当然ながら、3色LEDを使ってデジタルカメラでフィルムスキャンを行う場合はかなりRのレベルを増幅させる必要があるはずです。

 なお、このディスカッションの終わりの方で、Alexi Maschas氏も顔を出していますが、3色LED別の取り込みを行わなくても、Rawファイルでピクセル単位でデータを扱うことができるなら白色LEDを使った取り込み結果を補正することは可能とは言っています。

*1:この方は、おそらく家族写真を専門とするカメラマンの方のようです。