darktable の次期クリスマスリリースバージョンから(おそらく今回もクリスマスイブにリリースされると思われます)、新しいシグモイド・ディスプレイ変換モジュールが追加される予定です。このモジュールは現行、シーン参照データからディスプレイ参照データへのトーンマッピングを担うフィルミックrgbの実験的な代替モジュールとなり、darktableユーザは、トーンマッピングの際、フィルミックrgbを使うか、もしくはシグモイド・ディスプレイ変換モジュールを使うか選択することになるようです。本モジュールの概要は作者のJakob Andrén氏による下記のGithubサイトの記述をご覧ください。
また以下のスレッドも
もともとは、以下のスレッドにおける議論から実装に至ったようですが、このスレッドは非常に長くなっています。
基本的には、フィルミックrgb とシグモイド・ディスプレイ変換の違いは、適用されるトーン曲線の違いになるようです。下図をご参照ください。
シグモイド・モジュールは、対数ロジスティック / 中ーラシュトン曲線に基づいて計算されているということです(フィルミックはスプライン曲線)。そしてフィルミックrgbはブラックポイントとホワイトポイントに依存していますが、シグモイドは、中間グレー点からの相対的距離に基づいて計算しているということです。両方ともS字カーブになっているのは同じですが、シグモイドの方が全般に変化が緩やかになっています。但し、シャドウ部の立ち上がりはフィルミックの方が緩やかです。
基本的にはミッドトーンに関してはあまり変わりがないとは思いますが、シャドウ域、ハイライト域では差が出ると思います。
なお、シグモイド・モジュールは当初フィルミックとの統合(オプションとしての実装)を目指していたようですが、計算の仕方が大きく違うため断念したということです。そう考えると、フィルミックrgbはトーンマッピングやS字補正等の変数間の調整にある程度長い期間を掛けてきましたが、シグモイドは、これからそのあたりの調整に時間を掛ける必要があるかもしれません。
さらに、Jakob Andrén氏は、シグモイドモジュールの長所として、どのRGBデータ(正負符号なし)に対してもきちんと定義され得るので頑健である、常に単調である、非常にスムーズである、カーブの形をコントロールするのに2つのパラメータ(コントラストと曲がり[Skew])を設定するだけで済み、シンプル、またコントラストと曲がりは直交する (お互いに影響を与え合わない)等を指摘しています。
一方、このせいかどうか分かりませんが、フィルミックrgbの開発者である、Aurélien Pierre氏は 今年の6月からdarktable の派生バージョンに従事しており、今月に入って名称を Ansel という名前を付けたようです。Ansel Adams にちなんだ名前のようです。現在工事中ですが以下のサイトです。
また GitHubのサイトは以下です。
以下にディスカッションのスレッドがあります。
おそらく、RawTherapeeからARTが分かれたように、今後は darktable とは別の道を行くものと思われます。
なお、先日ARTで使えるAgx LUTが公開されているという記事を書きました。これもこのdarktableのフィルミックかシグモイドかという議論と関連するかもしれません。というのは、ARTの作者、Griggio氏が、darktableとARTのトーンマッピングの方式の違いに関して以下のように論じています。
discuss.pixls.us トーンマッピングのアイディア自体はACESから来ていますが、ARTとdarktableのトーンマッピングの仕方は異なっており、darktableはスプライン曲線 (によるS字カーブ) を使ってトーンマッピングを行っているが、ARTはリニアにトーンマッピングを行っている点が違うと述べています。従ってARTはS字カーブをどう掛けるかはユーザに任されています。ART上でS字カーブを掛ける方法としてはトーンイコライザーを使うか、あるいはトーンカーブを使うことになりますが、LUTを使うこともできます(OCIO対応LUTはシーン参照のリニアRGBで動作します。この点同じLUTでも、HaldCLUTとは画像処理パイプライン上の処理位置が異なります)。従ってトーンマッピングのために Agx のLUTを使うこともできるわけです。
仮に、darktableの フィルミックrgb がACESのアイディアに忠実なため、スプライン曲線を使ってトーンマッピングを使っているとすれば、AgX の問題意識は、今回のdarktableに対するシグモイド変換の提案の問題意識と共通することになります。