省型旧形国電の残影を求めて

戦前型旧形国電および鉄道と変褪色フィルム写真を中心とした写真補正編集の話題を扱います。他のサイトでは得られない、筆者独自開発の写真補正ツールや補正技法についても情報提供しています。写真補正技法への質問はコメント欄へどうぞ

リアルに分かるということ

 ガンマ補正の概念がよくわからなくて、ネット上のサイトをあちらこちら読みまくったり、カラーマネジメントについて書かれた書籍を見たりしていました。ようやく、あっ、こういうことかと分かって (分かったつもりかもしれませんが...)、もう一回ネット上の記述を見ていくと、確かに、明らかに半可通レベルの内容を書いているケースもあります。その一方で、良く良くロジカルに追っていくと結果的に正しいことを書いているのですが、非常に分かりにくくて誤解を生みかねない記述が書かれているケースも目立ちます。

 今回「ガンマ補正理解メモ」という記事を書いたのも、上記のような記事を読んで迷宮に入る方に対し、少しは助けになるのではないかと考え書きました。

 特にこの後者のケースですが、もちろんそのサイトの記述者は正しい知識を持っている (しかし、説明の仕方が下手な) 場合もあると思います。その一方で、表面的な、字面レベルで理解はしている (あるいは、しているつもりになっている) ものの、実は実感を持ってリアルにどういうことなのか理解していない、というケースもあるのではないか、という気がしてきました。そのような場合、参考にしている文献等が正しい内容なので、確かにロジカルに追っていくと結果的に正しいことを書いているものの、筆者が実はピンと来ていない、というケースも少なくないのではないかと思いました。

 

 例えば、例として取り上げて申し訳ないのですが、ガンマ補正について一所懸命解説している、下記のような記事があります。

tech.cygames.co.jp 私もガンマ補正がよくわかっていないときに、読みました。率直に言ってこの記事を読んで正しい認識に至ったとは言い難いです。そしてガンマ補正に関して、こういうことかと理解した後に、再度この記事を読みました。そしてこれは典型的な半可通記事ではないかと思いました。ですが、一応エンジニアの方が書かれている記事です。本当に半可通なのだろうか、なぜ半可通なことを書かれているのだろうかと再々度読み返しました。すると、丁寧にロジックを追っていくと、結果的には、正しいことを書いていたことが分かりました。

 しかし、私がこの記事を一旦「半可通記事」だと思ったことには根拠があります。そして、この記事は結果的には正しいことが書かれているものの、仮にガンマ補正に関して理解していない人がこの記事を読んでも正しい理解には絶対に至らないと思います。ただ、すでに理解している人が読めば、この記述が正しいと解釈可能、という記事の典型かと思います*1

 ではこの記事どこが誤解を誘うのでしょうか?まず、最初に出てくるグラデーションスケールの話、正しいですし、分かりやすいです。そしてディスプレイガンマの話もおおむね問題ありません。但し、一カ所問題があります。

 

「減衰を打ち消すためには逆スケールをかければ良いです。この逆スケールのことを通称デガンマとも呼びます」

 

 CRTディスプレイの信号減衰を打ち消すために、画像信号に逆スケール(1/2.2)を掛けてCRTに送信する、というのは正しいです。しかし、この逆スケールのガンマを掛けることを「デガンマ」と呼ぶ、と書いているのは大いに問題です。この逆スケールを掛けることを、英語では通常 gamma compression と表記します。そして私の記事ではガンマ・エンコーディングと表記しました。つまりリニアな画像信号を、逆スケールのガンマ補正が掛かった画像信号に変換することです(通常、ガンマ補正と言われるプロセスです)。

 「デガンマ」という言葉は、ガンマ解除という意味です。つまりガンマがかかった画像をリニアな画像に戻すことを意味します。それなのに、画像信号に逆スケールであってもガンマ補正を掛けることに「デガンマ」という用語を当てることはどう考えてもおかしいですし違和感がぬぐえません。どうしても「デガンマ」という言葉を使いたいなら、信号のガンマ補正にではなく、モニタの信号減衰を「デガンマ」と呼ぶべきです。モニタの信号減衰の結果、モニタの表示上はリニアな画像に戻るわけですので。*2

 このように「デガンマ」という言葉に対し、違和感ありまくりの使い方をしているので、私は「半可通記事」と判断したのでした。しかし、よく読んでみるとこの違和感のある用語の使い方を前提として考えると、実はこの記事は論理的には正しいことを述べています。

 この記事の最後にリニア色空間とsRGB色空間の画像の比較が出ています。でここで述べられている「デガンマ」をその本来の意味である「ガンマ補正の解除」だと読むと、ここの記述は完全に間違っています。しかし「デガンマ」を私の記事の中で言う「ガンマ・エンコーディング」の意味で使っている (違和感ありまくりの使い方ですが...) との前提で読めば、正しいことを言っています。これこそが、この記事が、ロジカルに追っていけば正しいことを言っているけれども、事情が分からない人がこの記事を読んでも正しい理解が得られない理由です。

 これは私の推測ですが、この記事の筆者の方は、すでに述べたように、字面で理解していてもリアルに理解していないのではないかと思います。「輝度=電圧出力率1/2.2」と書かれたすぐ上の図の右側を見れば、モニタでディスプレイされている出力がリニアな画像になっていることが示されています。この記事の筆者の方はここまで書いておきながら、それにもかかわらず、一般的に私たちがモニタで見ている画像はリニアな画像である (あるいは本来リニアな画像であるべき) ということをリアルに実感を持って理解していないのではないでしょうか?自ら正しい図を掲げつつ、その図の意味を理解していないとしか思えません。おそらく参考文献等にそう書いてあったのでそのまま写してきたものの、その意味をちゃんと理解していない... そうでない限り、リニアな画像に対し、逆スケールとは言え、ガンマ補正を掛けることに「デガンマ」などという言葉を充てるはずがありません。これこそが表面的に理解してもリアルに理解していない、ということの意味です。

 このような場合、実は本人はちゃんと理解していないにもかかわらず、本人の書いたものや発言を、周囲の分かっている人が読んだり聞いたりしている限り、分かっているという文脈で解釈可能なので、それが見過ごされてしまうのです。

 これはやはり、Windows PCのモニタ上で、カラーマネジメントがしっかり行われていないソフトを使うと、リニアな画像が薄暗く表示されてしまうという事実に大きく引きずられて、この記事の筆者はリアルな理解がちゃんとできていないという可能性は高いです。このため本来ならばリニアな画像は、モニタ上でリニアに表示されるべきなのに、CRTモニタの信号減衰によってリニアに表示できないので、便宜上の策としてガンマ・エンコーディングをして信号を持ち上げ、リニアに表示させている、という理解が飛んでいるのです。さらに言うと、本来は保存されている画像データがどんな色空間、どんなガンマを使っていようが、モニタ(ディスプレイ)上ではリニアに表示されるのがスタンダードであるべきである(そして、そのためにカラーマネジメントがある)、という理解が欠如しているように思われます。もちろん、変則として、敢えてモニタに写る画像の明るさを変えるためのモニタへの送出出力画像のガンマを変えるという選択肢はありうるのですが...

 で、どうやらネットに転がっている記事は、このレベルの解説記事がかなり多いように思います。もちろん中には分かっていて、説明を省略して書いている場合もあるとは思いますが、そうではないケースも多いのではないでしょうか。これが、ネットに転がっているガンマ補正の解説記事をいくら読んでも良く分からない主たる原因のように思います。

 で、この話、決してガンマ補正の解説にかかわるだけではないと思います。例えば、先日とある自民党の総理大臣が、Go Toトラベルとコロナ感染拡大の関連性について「エビデンスがない」と発言しました。「エビデンスがない」という言葉、それって皆さん本当にどういう意味か分かっているのでしょうか?

 もちろん、表面的には「科学的証拠がない」という意味ですが、同じ「エビデンスがない」であっても、大きく分けて二つに分けられます。そもそもデータをちゃんととっていて分析したけれど関連が有意でなくて「エビデンスがない」と、データすら取ってなくて「エビデンスがない」とでは、意味が大きく違います。そもそもGo Toトラベルで利用者から感染状況についてちゃんとデータを取っているのでしょうか?Go Toトラベルの利用者から、感染状況の報告を義務化しようと思えばできたはずですが、そんなことは何もやっていません。

 前者の「エビデンスがない」なら関連がない、悪影響がない、と解釈しても良いかもしれませんが、そもそもデータが取れてなくて「エビデンスがない」なら言語道断です。対策不足で何もかも五里霧中、全く分からない、と言っているに過ぎません。話にもなりません。はっきり言ってデータが取れてないことを「エビデンスがない」と言いくるめようとする人は「私は何もやっていません、私はバカです」と公言しているのに等しいと思います。要は話にもならない不作為を「悪影響がない」という意味に誤解させて、正当化しようとする、とんでもないマジックワードとして使われているのです。

 でも世の中この手の「エビデンスがない」発言で、即「悪影響がない」に誘導しようとしているケースは多くありませんか?例えば原発とか... しかし、それが許されてしまうとすれば、まさに「エビデンスがない」が表面的に理解されている、ということです。皆、分かったつもりになって、実はちゃんと分かっていないのです。

 こんな「エビデンスがない」の横行を許していると、そのうち他人から文句をつけられないために、そもそもデータを取らない、ということが横行するようになります。データすら取らない... とはまさに目隠しをしながら運転するような国の運営を許すことになってしまいます。

 

*1:一方、こちらの記事はモニタ上の表示がガンマ1.0になると正しく理解した上で書かれています。

cycles.wiki.fc2.com

 但し、知覚効果については内容は不十分ですし理解も今一つのようです。

*2:少なくとも、ネットを検索した限り、「デガンマ」という言葉は、この記事を除いて、いずれもリニアな画像に戻す、という意味で使われています。例えば、次のような記事です。

qiita.com

以下の記事の4.2.8参照

https://www.tij.co.jp/jp/lit/an/jaja224/jaja224.pdf?ts=1608864823534&ref_url=https%253A%252F%252Fwww.bing.com%252F

 

astamuse.com