省型旧形国電の残影を求めて

戦前型旧形国電および鉄道と変褪色フィルム写真を中心とした写真補正編集の話題を扱います。他のサイトでは得られない、筆者独自開発の写真補正ツールや補正技法についても情報提供しています。写真補正技法への質問はコメント欄へどうぞ

決定版! 不均等黄変・褪色ネガ写真のデジタル補正術 (1)

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[2023年12月アップデート]

[B チャンネル再建法ツール]

yasuo-ssi.hatenablog.com

[補助ツール]

yasuo-ssi.hatenablog.com

[2023年11月アップデート]

[Bチャンネル再建法ツール]

yasuo-ssi.hatenablog.com

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目次

1. 本連載記事の概要 (本記事) 

2. 今まで紹介されてきた経年劣化による変褪色写真の補正術 

3. 写真補正の原理  

4. Bチャンネル再建法による不均等黄変・褪色ネガ写真補正の方法  

5-1. 具体的な補正実施手順 - 準備

5-2. 具体的な補正実施手順 - ImageJによる作業

5-3. 具体的な補正実施手順 - GIMPによる作業

6. 追加マニュアル補正の実施

補足. GIMPの代わりにPhotoshopで不均等黄変画像の編集を行う

補足. Bチャンネル再建法 補正ツール簡易版

補足. 標準的なBチャンネル再建法(+汎用色チャンネルマスク作成ツール)による黄変写真補正過程 (2021.5追加)

チュートリアルビデオ. 決定版! 不均等黄変・褪色ネガ写真のデジタル補正術・チュートリアルビデオ (ハイブリッド補正対応版)

1. 本連載記事の概要

 カラーネガフィルムはフィルムベースがオレンジ色のためか、ポジフィルムより褪色しやすく、かつ往々にして不均等に退色したり、黄変しやすい傾向にあります。褪色がさほど深刻ではなく、かつ均等に褪色していれば、Photoshop等のフォトレタッチ・ソフトウェアで補正が可能ですが、不均等に変褪色している合は、補正をかけてもあちらが立てば、こちらが立たずという状態で、多大な労力をかけない限り補正が困難だったり(細かく細分化したマスクをかけて補正をかける、等)、事実上不可能に近い場合も度々です。

 しかし、このほど私は、カラーネガ写真の経年劣化による不均等黄変褪色の多くのケースで有効な標準的な補正術を開発しました。この方法が従来知られてきた補正法と全く異なる点は、劣化・毀損したB(青)チャンネル画像を他 (緑G, 赤R) チャンネル情報を流用して再建し画像を再合成するという点です [なお、2022.7より、他チャンネル情報の流用だけではなく、直接黄変量を推計して補正を行う、拡張疑似フラットフィールドアルゴリズムを併用したハイブリッド補正を採用しています。これにより黄変の程度が強い画像における黄変の削減量が格段に改善されました。また、現在は Windows, Mac OS X, Linux (Ubuntu) で動作確認をとっています]これを Bチャンネル再建法 と命名します。 この補正術を適用すれば、完璧とはいかなくても6-8割程度の補正が可能になります。なお、この手法は主としてGチャンネル情報をBチャンネルに混入して補正しますので、BチャンネルとGチャンネルの値の接近という副作用を生じます。従ってBチャンネル再建法適用後にさらに追加補正を加えることで、最終的な補正の完成を目指します。

 因みに従来提案されてきた黄変フィルムの補正方法については、本連載(2)をご覧ください。

 なお、この手法開発前に、英語で書かれた海外サイトの情報もかなり探しましたが 、写真の全般的な変褪色に関する問題指摘や補正法に関する情報は多数あるものの、不均等な黄変に関しては、その事例報告さえほぼ見つかりません。おそらく欧米圏は、高温多湿環境になく、またフィルムメーカーもコダックアグファが多いことから、そもそもこの問題自体がほとんど知られていないようです。筆者の手持ちのフィルムでも、不均等黄変を起こしているネガフィルムは国産フィルムのみで、コダックのフィルムでは1本も問題が発生していません*1

 とりあえず、どの程度の補正が可能なのか知りたい方は、このページに掲載してあるサンプルをご覧ください。

 また、いろいろ能書きはいいので、手っ取り早くBチャンネル再建法による補正方法の手順を知りたいという方は、まず (4) を読んでいただいて概要を把握したうえで、以下のビデオ およびツールの導入について説明している (5-1) をご覧ください。

yasuo-ssi.hatenablog.com

 参考までに、Bチャンネル再建法によるいくつかの補正サンプル画像をお見せします(リンクが張ってあるサンプルは、補正過程をご覧いただけます)。

サンプル1

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オリジナル

Bチャンネル再建法のみ適用 (補正1)
2023.2 写真入替

マゼンタ補正後の最終結
2023.2 写真入替

サンプル2

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オリジナル

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補正1 (本手法のみ適用)

補正2 さらに相対RGB色マスク作成ツールを使ったローカル補正
+ARTによるトーン、色調補正を追加  (2023.2 写真入替)

サンプル3

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オリジナル

補正1 Bチャンネル再建法(ハイブリッドアルゴリズム)適用結果
(2022.8 写真入替)

補正2 さらに、相対RGB色マスク画像作成ツールによる
マスクをかけGIMP上で色補正
+ ARTによる最終調整 (2022.8 写真入替)

 

サンプル4 (2022.9 写真入替)

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オリジナル

補正1 (Bチャンネル再建法 [ハイブリッドアルゴリズム] のみ適用)

 

GIMPで追加補正後、ARTで色調・トーン補正した最終結

サンプル5 (2022.7.30写真入替)

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オリジナル

補正1 (Bチャンネル再建法 [ハイブリッドアルゴリズム] のみ適用)

補正2 相対RGBカラーマスク作成ツール + ARTによる色調トーン補正

サンプル6

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オリジナル

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補正1 (Bチャンネル再建法のみ適用)

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補正2 汎用色チャンネルマスク作成ツールによるマスクをかけ色補正
+RawTherapeeによる調整

サンプル7

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オリジナル

Bチャンネル再建法のみの適用結果 (補正1)
(2022.9 写真入替)

相対RGB色マスク作成ツールを使った追加補正
ならびにARTによる補正を経た最終編集結果
(2022.9 写真入替)

サンプル8  (2022.9追加)

オリジナル

Bチャンネル再建法適用後 (補正1)

最終補正結果
マゼンタ補正適用後、ARTによるトーンカーブ・色調補正

サンプル9 (2022.9追加)

オリジナル

Bチャンネル再建法のみ適用

GIMPによる追加補正 &
ART による最終補正結果

 いずれも不均等な黄変がきれいに消えているのがお分かりいただけると思います。たぶんこのような不均等黄変フィルムの補正を手掛けたことのない方には大したことがないように思われるかもしれませんが、手掛けたことのある方にはこれがいかに大変なことが理解していただけるかと思います。しかも、従来の方法に比べて、大幅に短い時間でオリジナルから最終補正状態までもっていくことが可能です。
 多くの方にこの補正技術を活用していただくために、本連載記事でその方法を公開いたします。

 なお、本連載のアイディアのもとは、以前私が「高尾山麓日誌」に公開した不均等黄変退色ネガ写真の補正術です*2。ただ、当時の記事で公開したテクニックは、そこそこ良い結果は出せていたものの、膨大な労力がかかっており、また、私の色彩の原理に対する理解が不十分だったため、技術の標準化ができませんでした。今回公開する技術は誰でも使える標準的な技術になっていると自負しております。また、どうしても個別の写真を見て判断しなければならない手作業が必要なため、完全な自動化は無理ですが、処理を比較的短時間で済ませるためのサポート・マクロスクリプトも公開します。

 また、使用するソフトウェアは、無料で使えるImageJとGIMPです。ImageJ上での処理はほぼ全自動でできますので、ImageJの使い方をあらかじめ学んでおく必要はありませんが、GIMP上では手作業が残りますので、GIMPの基本的な使い方を理解していることを前提とします。※なお、GIMP用の拙作プラグインを改良し、なるべく自動化できる作業は自動化し、GIMP初歩者でも編集作業ができるよう、手作業は最小限に抑えるように改善しています(2021.12現在)。また基本的な方法論を理解していればGIMPの代わりにPhotoshop等、レイヤーを扱えるフォトレタッチソフトを利用することも可能です。※但しPhotoshopでは、自動化マクロプログラム等は提供していません。

※2020.9追記

 使い慣れたフォトレタッチソフトの乗り換えは困難なことを鑑み、GIMPで説明している作業を、ユーザが多いと思われる Photoshop (含Elements) でもできるよう補足ページを公開しました。上の目次の [補足] をご覧ください。なお、ImageJの利用は必須になります([2023.7追記] 但し、2021年2月以降、GIMPに関しては作業自動化ツールを添付していますが、Photoshop に関しては用意していません。現在はGIMP上で基本編集を行い、PSD形式で出力したものをPhotoshop で読み込んで追加編集を行うことを推奨します)

 Paint Shop Proなどの他のレイヤー編集をサポートした画像レタッチソフトでも可能とは思いますが、筆者は所有していないので具体的な作業方法をお示しできません。悪しからずご了承ください。

 また、不均等黄変でも、Bチャンネルの損傷がさほど激しくない場合、黄変部分が、青空などの一部分に限られている場合は、より簡便な、レイヤーマスクによる黄変部分補正法も使えます。黄変部分を検出するレイヤーマスクの作成して補正する方法についてはこちらの記事をご覧ください。また、NikonのNX Studio (およびCapture NX-D)Nic CollectionのVivezaを使うというのもありだと思います。

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 なぜ既存の写真編集ソフトだけでは黄変ネガ写真の補正が困難なのか、その理由については以下の記事をご参照ください。

yasuo-ssi.hatenablog.com

Keyword: 退色補正 退色ネガ 黄変ネガ 写真補正 退色修復 黄ばんだネガ フィルム黄ばみ

 

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*1:その後、以下のビデオを見つけました。

yasuo-ssi.hatenablog.com

*2:

blog.goo.ne.jp