2023.12.7 に公開された ART Ver. 1.21 からシグモイド・トーンマッパーが導入されました。基本的には darktable で採用されているものを若干簡略化して移植したものです。
シグモイドは既に darktable に filmicRGB とは別のトーンマッパーとして導入されていますが、ART に採用されたシグモイドは darktable 次期 4.6で 採用予定の追加機能が付加されています。なお、darktable のシグモイドに関しては以下に解説を書いています。
ART のシグモイドは、新たに導入された機能 CTL を使って書かれています。CTL スクリプトは、カラー / トーン補正モジュールもしくはフィルムシミュレーションの、LUT 選択と同様に選択できるようになっています。
本機能に関してはフィルムシミュレーションの選択肢として選べるようになっています。
以下の図は、フィルムシミュレーションから、シグモイドを選んでいるところです。
以下、シグモイドのダイアログです。
基本的には、[コントラスト]と[傾き]で設定していきます。[コントラスト]は、中間グレー点を支点にしてコントラストが調整されます。値を上げるとコントラストは強まり、下げると、コントラストは弱まります。
※以下のトーンマッピング図は darktable の FilmicRGB から借りています。
下がシーン参照ベースの入力画像データ、上がディスプレイ参照に転換する際に 0~100 の範囲に割り付けている出力データで、トーンマッパーにより、下のデータをどう上に割り付けているかを示しています。
コントラストが低い方が、入力データのダイナミックレンジは広くなります。
[傾き] は、中間グレー点でのコントラスト値を変えずに、圧縮の度合いを、ハイライト側もしくはシャドウ側にずらします。値を正にするとハイライト側のコントラストが強まり、シャドウ側のコントラストが弱まります。値を負にするとシャドウ側のコントラストが強まり、ハイライト側のコントラストが弱まります。おそらく図にすると下記のようになるものと思われます(図はdarktable のフィルミック rgb モジュールからとっています)。
なお、darktable のシグモイドの場合、色処理を[チャンネル毎]と[RGB比] から選べますが、ART では基本的にチャンネル毎のみのようです。
また、darktable の次期バージョンから予定されている、原色の調整機能が移植されてます。この機能の目的は何かというと、色の彩度、純度が非常に高いなどの理由から、画像処理したときに不自然な効果が出てしまう場合があります。そのような場合、不自然な効果を回避し、よりナチュラルな画像を得るために設定されているオプションです。
夜間やコンサート会場などの暗い場所での LED などによる人工的光源で撮影した画像などの補正に効果があるようです。人の目には、一般的には光が強くなると(厳密に言うと純色に白色光が加わると)、白っぽく見えるのが普通です。これをアブニー効果と言います。しかし、デジタルデータ上は、純色に近い色の場合、いくら明度が高くなっても白っぽくならず、ただただ色の純度が高まるだけです。つまり人間の視覚的錯覚であるアブニー効果を再現できません。これらに対し原色の純度を下げることでこのような不自然な効果を抑制します。逆に言えば一般的な自然光の写真では、強い夕日のような例外的な場合を除いては、原色調整機能は、あまり必要がありません。
R, G, Bの各原色に対して、[減衰]、[回転] という調整パラメータがありますが、これは以下の機能があります。
減衰: 原色の純度を弱める= 他チャンネルを若干混交し、色の純度を弱める
回転: 原色のハイライトを若干補色側に寄せる
また最後に [純色に戻す] オプションがありますが、これは、色の純度を減衰させた原色を、出力時に多少戻すオプションです。ポスタリゼーションのような副作用を避けるために設定されいます。
この原色の調整オプションについては、以下の議論もご参照ください。