省型旧形国電の残影を求めて

戦前型旧形国電および鉄道と変褪色フィルム写真を中心とした写真補正編集の話題を扱います。他のサイトでは得られない、筆者独自開発の写真補正ツールや補正技法についても情報提供しています。写真補正技法への質問はコメント欄へどうぞ

L*a*b* でも広いダイナミックレンジ画像の処理には問題はない?

 darktable は、新しいワークフローではシーン参照ワークフローを採用しており、従来のディスプレイ参照ワークフローからシーン参照ワークフローに切り替えることを推奨しています。また RawTherapee から派生した ART もシーン参照ワークフローを採用しています。

 そもそもシーン参照ワークフローとは何かについて説明します。まずデジタルカメラの Raw データは基本的に光量に応じたデータになっています。また多くのカメラはベイヤーセンサーもしくはX-trans センサーとなっており、各ピクセルにはR, G, Bデータが揃っておらず、RGBのどれか一つのデータしかありません。それを各ピクセルごとにRGBが揃うデータに補間するのが、デモザイクです。デモザイク後のデータはシーン参照リニアRGBデータとなりますが、これは、後のディスプレイ参照データとは異なり、データの範囲が決まっていません。ディスプレイ参照データの場合、データは0.0 〜 1.0 の間に限定され、はみ出たデータはクリップされますが、この段階ではセンサーデータをそのままでモザイクしただけなので場合によっては - の値をとったり、1.0 を超える場合もあります。

 そして、画像編集作業の大半をこのシーン参照リニアRGBデータで行うワークフローをシーン参照ワークフローと称します。

 その後、シーン参照データをディスプレイの表示可能な範囲である 0.0 ~ 1.0 に割り付ける作業をトーンマッピングと言い、さらにこの際、通常は、視覚的に中間の暗さに見える中間グレー点を、物理的な 18 % から、50%に割り付けたデータに変換します。このデータを変換するには、一般的には、リニアデータに対し、ガンマ値約 2.2 でガンマ補正を掛けます。これが知覚的なディスプレイ参照データです。

 そして知覚的なディスプレイ参照データ上で、主要な画像編集を行うワークフローをディスプレイ参照ワークフローと称します。多くの Raw 現像ソフトウェアではディスプレイ参照ワークフローが採用されているものと思われます。

 darktable においてシーン参照ワークフローを推奨する理由については、darktable の主要エンジニアであった、Aurélien PIERRE 氏が下記の記事に書いています。

pixls.us

 要点としては、Lab 色空間はそもそもダイナミックレンジが、10〜14 EV に到達する現代のデジタルカメラのデータを扱うために設計されていない、知覚的 (非リニア) であることから、画像をぼかしたり、ぼかしを除去したり、ノイズ低減などの処理を行った時に副作用が出る、ということが指摘されています。

 それに対し、RawTherapee のオンラインディスカッションで次のような議論が出ています。

discuss.pixls.us

 RawTherapee では主要なカラー編集機能が知覚的なガンマがかかった L*a*b* 色空間で実行されます。因みに、RawTherapee と ART の大きな違いの一つは、RawTherapee ではL*a*b* で動作していたツールをシーン参照のリニアRGB に移した点が挙げられます。それはともかく、このオンラインディスカッションでは、Desmis 氏は、L*a*b* 色空間でツールを実行しても、色ずれ回避のオプションを選択しておけば、25 EV の HDR 画像を編集しても破綻がないと主張しています。

 もちろん、デモザイクや色収差補正など、処理パイプラインの上流で適用すべき処理に関してはリニアRGB を使うべきだと言っていますが、L*a*b*や CIECAMなど非リニアな色空間を使ってツールを動作させることにもメリットはあり、そのメリット、デメリットを踏まえて活用すれば問題はないと主張しています。