RawTherapee から引き継いだ、L*a*b* 色空間でカラー調整を行う編集モジュールです。L*a*b* 色空間は 原色によってチャンネル分割する RGB 色空間とは異なり輝度と色をチャンネルとして分離しているので、輝度を調整しても色に影響を与えにくいという特徴があります。L*a*b* 色空間は軸のスケール自体に知覚を反映したものになっています。このため、ART では処理パイプライン上、トーンマッピング後のディスプレイ参照データ変換後に位置づきます。調整の仕方は異なりますが、darktable のカラーゾーン・モジュールと機能的には同等です。
ただ、ART では darktable と同様にシーン参照ワークフローを採用していますので、ディスプレイ参照データを使って調整する L*a*b* 調整は位置付けが低くなっています。 L*a*b* 空間による調整は、リニアなシーン参照データによる調整よりもアーティファクト (人工的な不自然な副作用効果) が出やすいためのようです (これはL*a*b*色空間には、知覚的トーン再生カーブがかかっているため)。このため、RawTherapee に比べ機能が省略されています。基本的にはRawTherapeeの L*a*b* 調整でやっていた調整は、なるべくART の中核的色調整機能である、カラー / トーン補正でやってください、というスタンスと思われます。*1
カーブ調整については、以下のようになっています。
L*カーブ: 輝度(Luminosity)を変える。トーンカーブと同機能ですが、L*a*b*色空間の特徴として、色への影響が少ないです。
a*カーブ: グリーンとマゼンタ/レッド間の色合いを変えます
b*カーブ: ブルーとイエロー間の色合いを変えます。RGB の Bチャンネルに近いです。
なお、RawTherapee の L*a*b* 調整については以下のページの L*a*b* 調整をご覧ください。
RawTherapee から省略されている主な機能は以下のとおりです。
LHカーブ(色相に応じた輝度): 入力された色相を元に、出力の輝度を調整
CHカーブ(色相に応じた彩度[Chroma]):入力された色相に応じて、彩度[Chroma]を調整
HHカーブ(色相に応じた色相): 特定の色相を変えるために、入力された色相を元に出力の色相を変える
CCカーブ(彩度[Chroma]に応じた彩度): 入力された彩度[Chroma]を元に、出力する色度を調整
LCカーブ(彩度[Chroma]に応じた明度): 入力された彩度[Chroma]を元に、出力される明度を調整
CLカーブ(明度に応じた彩度[Chroma]): 入力された輝度を元に、出力の彩度[Chroma]を調整
この廃止された機能をどう代替するかですが、
LH, CH, HH カーブ >
カラー/トーン補正で、パラメータ指定マスク [色相] を使いながら調整する
例えば、赤の輝度や、彩度を調整したい場合は、色相マスクで、赤の部分のみ高く、それ以外の部分を低くしたうえで、輝度であれば、ハイライト、シャドウ、ミッドトーンのスライダーを動かし、彩度であれば、Saturation スライダーもしくは Chroma のスライダー (カラーホイール右の縦のスライダー) を動かします。色相を動かしたい場合は、微調整ならカラーホイールを動かすか、もっと大きく動かす場合は、上の色相スライダーを動かします。
CC, LCカーブ >
厳密に同じではありませんが、やはりカラー/トーン補正で、パラメータ指定マスクの色度マスクと併用します。左が彩度が低く、右が彩度が高い領域となっています。
CLカーブ >
やはりカラー/トーン補正で、パラメータ指定マスクの明度マスクと併用します。
おそらく、作者の A. Griggio 氏の考え方として、L*a*b* 色空間を使わなくても、カラー / トーン調整でも輝度と色情報を分離して調整することは可能になっている点、さらに L*a*b* 調整はディスプレイ参照データを使って調整を行っているのに対し、カラー / トーン調整ではリニアなシーン参照データを使って調整を行うので (但し[知覚的]モードはリニアではありません)、より調整の幅が広く L*a*b* 調整 の内容は十分カバーできる、という判断があり、ART の L*a*b* 調整では、L*a*b* 色空間特有の、a*, b* チャンネルによる調整を中心に機能を残した、ということではないかと思います。
*1:なお、カラー / トーン補正 モジュール自体は、RawTherapee から引き継いだものですが、RawTherapee におけるカラー/トーン補正モジュールの位置づけは高くなく、あくまで実験的な編集モジュールの一つという位置づけです。そのためパラメータの用語も、数学用語のままで、何のためのパラメータなのか素人には理解困難でした。また、いくつか選択肢はあるものの基本的にL*a*b*色空間で動くモードが多く、L*a*b* 調整に代えて使用するメリットもあまり見受けられませんでした。この点、ART は大幅に使い勝手が改善されています。例えば以下の拙稿をご覧ください。