省型旧形国電の残影を求めて

戦前型旧形国電および鉄道と変褪色フィルム写真を中心とした写真補正編集の話題を扱います。他のサイトでは得られない、筆者独自開発の写真補正ツールや補正技法についても情報提供しています。写真補正技法への質問はコメント欄へどうぞ

ART CTL スクリプト紹介: 一般化双曲線伸長 (GHS)

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 これは、Griggio 氏が、天体写真画像処理ソフト、Siril から CTL スクリプトとして移植したコマンドです。ただし、ART の公式ページには詳しい説明は、ありませんので、Siril のページの説明を参考に、ここで最小限の説明を行います。

 まず、「一般化双曲線伸長 (Generalised hyperbolic stretch)」という名前を見ても、何をやるスクリプトなのかさっぱり見当もつかないと思います。簡単に言うと、パラメータを使って、よりトーンカーブの調整をより柔軟に行うためのスクリプトです。

 先日、私は RGB シグモイド スクリプトを公表しましたが、簡単にいうと、このようなシグモイドカーブよりも、さらにトーンカーブを柔軟にコントロールできるようにするスクリプトです。実は RGB シグモイドを作ってから、そういえば、GHS ってあったけれど何だっけ、と確認してみて、初めてシグモイドと GHS が似ているということに気づきました。ただ、私の RGB シグモイドは、褪色フィルム画像など、RGB がメチャクチャになった画像の、それぞれの RGB のヒストグラムを整えるために作成しましたが、ART では、本ツールは、RGBチャンネル別の調節はできず、全体のコントラストやトーンのみを調整するようになっています。オリジナルの Siril ではチャンネル別の調整が可能になっていますが...

 

■ファイルの入手とインストール

 以下のページをご覧ください。ght.ctl がこのスクリプトのファイルです。

yasuo-ssi.hatenablog.com

■ダイアログ

 以下のようなダイアログになっています。

一般化双曲線伸長 ダイアログ

 そして、このスクリプトで掛けたいトーンカーブは、例えば以下のような S カーブです。ちなみにこの画面キャプチャは Siril からとっています。因みに Siril のデフォルト言語はフランス語で、日本語翻訳が不十分なため、翻訳されない部分がフランス語になっています。

このスクリプトが適用するトーンカーブ

 このカーブは先日拙作スクリプトの紹介でお見せした、シグモイドカーブに似ています。

シグモイド・カーブ

・ [伸長係数(D)]  

 そして、私の RGB シグモイドにおける [コントラスト] に相当するパラメータが [伸長係数(D)]  Facteur d'etirement です。これで、トーンカーブコントラストを決める傾きを決めます。

・[対称点 (SP)]

 そして、私の RGB シグモイドにおける [シフト] に相当するパラメータが [対称点 (SP)] Point de symetrie になります。デフォルト値は 0 なので、デフォルトでは S字ではなく、上向きカーブになります。

対称点 0.0 をとった時の上向きカーブ

 これを 0.5 に設定すると、ちょうど中間地点を支点とする S字カーブが適用されるのは、拙作の RGB シグモイドと同じです。ここまでは、若干曲線のカーブに違いがあるとはいえ、基本的にシグモイドカーブとあまり変わりません。

・[シャドウ保護点(LP)] , [ハイライト保護点(HP)]

 次に、[シャドウ保護点(LP)] と、[ハイライト保護点(HP)] について説明します。私の RGB シグモイドの、最小点、最大点とは意味が異なります。この部分がシグモイドとは異なる GHS 特有の部分です。GHS 場合、シャドウとハイライトを切り詰めるのではなく、LP と HP の間だけ曲線のトーンカーブを適用し、それ以外の部分は、トーンカーブを直線を適用するというパラメータです。

 例えば、LP を 0.4, HP を0.6 に設定した上で、D を 3, SP を 0.5 に設定すると、トーンカーブは以下のようになります。

LP: 0.4, HP: 0.6 の場合

 ご覧のように、0から0.4 並びに、0.6から1.0 の間は直線となり、その間のみ S字曲線となっています。このよう特定の区間にのみ S 字カーブを挟んだトーンカーブを作れるのが、GHS の最大の特徴です。

上の図における SP, HP, LP

・[局所的伸長量(b)] 

 最後の [局所的伸長量(b)] は分かりにくいですが、これは、値が 0 だと、曲線変化をつける全域において、均等に変化の効果をつける一方、値を大きくすればするほど対称点付近のみに変化を集中させ(カーブの傾斜がきつくなる)、対称点から離れるほど、効果を弱くする (カーブの傾斜がゆるくなる) というパラメータです。

■各動作モード

 これらについて、ART CTL 移植版では、RGB 全チャンネルに均等に効果を適用するのか([RGB] モード)、それとも人間の視覚に近い比率で適用するのか ([輝度] モード)、それともこの曲線をもとに、彩度のみ変化させるのか ([彩度 (Saturation)] モード) なのか、各モードが選べます。なお Siril には、R, G, B チャンネル個別に適用できるモードもありますが、ART では省略されています。R, G, B チャンネルそれぞれに対して個別に適用できるモードも、仮に移植されていれば、拙作の RGB シグモイドと非常に似てきますが、ART ではサポートされていません。

 ART の CTLスクリプトでは、Siril のようなグラフィックなプレビューのサポートがありませんので、Siril からキャプチャしてきた上記のようなトーンカーブを思い浮かべながら編集作業を行っていく必要があります。

 

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[参考オンラインディスカッション]

discuss.pixls.us