省型旧形国電の残影を求めて

戦前型旧形国電および鉄道と変褪色フィルム写真を中心とした写真補正編集の話題を扱います。他のサイトでは得られない、筆者独自開発の写真補正ツールや補正技法についても情報提供しています。写真補正技法への質問はコメント欄へどうぞ

ART / RawTherapeeとカメラプロファイル

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 さて、ART1.9.3のカメラプロファイルの扱いですが、RawTherapee5.8と違っている点に最初に気づいたのは、カメラ固有プロファイルを適用したときのトーンカーブの自動調整の扱いです。前にも述べましたが、本家5.8だとカメラのDCPプロファイルを指定し、トーンカーブを流用した場合、露出タブのトーンカーブの自動調整を使うと明るすぎます。このトーンカーブの自動調整は、Rawファイルに含まれるプレビュー用Jpeg画像から生成されますが、DCPプロファイルのトーンカーブを流用するとDCPプロファイルのトーンカーブと、プレビュー画像から生成されたトーンカーブが、何かの拍子で二重にかかってしまうため、過剰に明るく補正されることが多いです。一応は、自動生成のトーンカーブからDCPトーンカーブを差し引くことになってはいるようなのですが。しかしARTだと自動生成されたトーンカーブからDCPプロファイルのトーンカーブを差し引いた差分が確実に指定されるため、DCPプロファイルを流用した場合でも、トーンカーブの自動調整がおかしくなりません。

 そこで、ARTにおける、カメラプロファイルとトーンカーブヒストグラムの関連を探ってみました。

 まず、ARTにNikon D5500で撮ったRawファイルをデフォルトの状態で読み込んでみます。

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ARTでデフォルトで読み込んだ状態
(カメラの標準的プロファイル+トーンカーブ自動調整)

 次に、AdobeのD5500カメラ固有プロファイルの中の、StandardのDCPプロファイルを、ARTのDCP Profileディレクトリに、NIKON D5500.dcpと名前を変えて置きます。というのはARTにはRawTherapeeと同様予めD5500のカメラ用DCPプロファイルが用意されていないからです。この状態で先のファイルを、現像設定(サイドカー)ファイルを削除して、もう一度読み込みます。

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ARTにD5500用カメラプロファイル適用
(カメラ固有のプロファイル+トーンカーブ自動調整)

 

 この状態で、カラータブのカラー・マネジメントモジュールを見ると、先ほどはカメラの標準的プロファイルが選択されていたのが、今度はカメラの固有のプロファイルに代わっています。新しく入れたD5500用のプロファイルが使われているのは明らかです。ただ、ヒストグラムは先に読み込んだものとほとんど変化がありません。固有のプロファイルと標準プロファイルの切替をやってみると、標準の方がわずかにGが下がりRが上がります。ごくわずかにExpeed6的傾向になりますが肉眼ではっきり分かるほどではありません。Bもごくわずかな変化がありますがほぼなしと見てよいようです。なおいずれもトーンカーブの自動調整はオンになっています。

 カメラのプロファイルはあまり関係ないのでしょうか... ?

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NX Studio デフォルト設定で現像
(ARTに読み込んでヒストグラム表示)

 さらに、このファイルをNX Studioでデフォルト設定で現像し、比較のためARTに読み込ませたのが上の図です。さすがにちょっとヒストグラムは違いますが、かなり似ています。

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ART+カメラ固有プロファイル+DCPトーンカーブ適用

 次にARTでカメラ固有プロファイルを適用しさらにカメラプロファイルのDCPトーンカーブを適用します。ごくわずかにヒストグラムが明るいほうに移動しますが、よりNX Studioの結果に近づいたとは必ずしも言えません。ただこれも結構NX Studio の現像結果にかなり似ています。

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ART+カメラ固有プロファイル+DCPトーンカーブ+ルックテーブル適用

 さらに、ルックテーブルも適用してみましたが、むしろNX Studioの結果より明るくなり乖離してしまいました。ただ、Rの山の相対的な位置がGやBの山と近づくので、若干、NX StudioでExpeed6相当に処理したもの近くなりました。空の色もやや藤色傾向に動きます。

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ART+カメラ固有プロファイル+ルックテーブルのみ適用

 ルックテーブルのみ適用もやってみました。やはりルックテーブルの適用が、Rの相対的上昇に効くようです。但し、一番最初のデフォルトの方がNX Studio(Expeed4互換)の現像結果に近いようです。

 

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ART+カメラ固有プロファイル+DCPトーンカーブ+ルックテーブル+オフセットフル適用

 さらに、基本露出オフセットを追加適用すると、一旦明るくなった画像がやや暗くなり明るさの水準は、デフォルトに近くなります。但しRの相対的上昇は維持され、ちょっとExpeed6相当処理に似ている結果は維持されます。Expeed4互換と6相当の中間程度でしょうか。これはこれでなかなか悪くありません。

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ART+カメラ固有プロファイル+基本露出オフセット適用

 なお、基本露出オフセットを単独適用すると、ヒストグラムの山はやや高まりますが、肉眼では色相の変化はほとんど分かりません。

 

 カメラプロファイルをいろいろいじっても、あまり関係なくNX Studioの現像結果に結構似ているのに、驚きです。どうやらRawファイルのプレビューイメージからトーンカーブを再現するトーンカーブの自動調整アルゴリズムが、RawTherapee5.8よりだいぶ改善されて、トーンカーブの自動調整を適用する限り、カメラプロファイルにあまり関係なく、そこで基本的な絵作りが決まるようです。またRawTherapeeでは、DCPトーンカーブやルックテーブル等にチェックを入れるたびに大きく画像の色調やトーンが変わりましたが (これはトーンカーブの自動調整と併用ができないという側面もあります)、ARTではわずかな変化しかありません。ただ、ARTでもトーンカーブの自動調整を使わずフラットにした場合は、やはり、DCPトーンカーブやルックテーブル等にチェックを入れるたびの画像の変化量はより大きくなります。しかし、RawTherapeeほど大きな変化ではありません。

 多分、DCPファイルの解釈の仕方が変わっているのではないかと思います。ARTでは、トーンカーブ類の適用はLinear RGB色空間で処理されていますが*1、ひょっとするとRawTherapeeでは非リニアな色空間で処理されているのではないかという気がします。AdobeのDCPプロファイルのトーンカーブやルックアップテーブルはもともとは非リニアな色空間を前提としていると思われます。

 しかしARTにしてもRawTherapeeにしても内部処理の大半はリニアな色空間で行っているはずなので、そのDCPデータの解釈の際の非リニア-リニアの変換の仕方になにか変更があったのではないかと推測します。

 先日の検証でもRawTherapeeでベーステーブル以外をオフにしたら、非常に赤くなったということがありましたが、これと関連しているのではないかと思います。

 

 上の画像の場合は、トーンカーブの自動調整がかなりしっかり働いているケースでしたが、必ずしもそうでない場合も見受けられます。例えば、以前サンプルとして使ったことのある以下の画像ですが、RのカーブがNX Studioの結果とかなり異なっており、Rの値が低めになっています。

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ART デフォルト読込状態 (トーンカーブの自動調整適用)

 

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NX Studio デフォルト設定で現像

 なお、上のデフォルト読込状態のヒストグラムはカメラの標準的プロファイルの適用とカメラ固有のプロファイルの適用を切り替えてもほとんど変わりませんでした。

 但し、カメラ固有のプロファイルからDCPトーンカーブの適用等を行うと、かなりNX Studioのデフォルト設定に似てきます。

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ART+カメラ固有プロファイル+DCPトーンカーブ+ルックテーブル+オフセットフル適用
(トーンカーブ自動調整適用)

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ART+カメラ固有プロファイル+DCPトーンカーブ+ルックテーブル+オフセットフル適用
(トーンカーブ自動調整不適用=リニア)

 トーンカーブの自動調整を不適用にすると、空のRが相対的にやや下降し、色合いがNX Studioのデフォルト現像に似てきます。自動調整適用だとややRが相対的に上昇し、若干Expeed6相当適用に似てきます。これは上の画像と同じです。

 まだ、トーンカーブの自動調整のアルゴリズムには改善の余地があり、DCPトーンカーブ等を適用し、差分を計算することで、結果が改善されているのかもしれません。

 

 とりあえず、NX Studioの結果に似せるなら、カメラ固有プロファイルにDCPトーンカーブ+ルックテーブル+オフセットをフル適用し、トーンカーブ自動調整を掛ける、あたりが良さそうです。もちろんこれはD5500の場合であって他のカメラではまた結果が異なるかと思います。

*1:以下参照。

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