省型旧形国電の残影を求めて

戦前型旧形国電および鉄道と変褪色フィルム写真を中心とした写真補正編集の話題を扱います。他のサイトでは得られない、筆者独自開発の写真補正ツールや補正技法についても情報提供しています。写真補正技法への質問はコメント欄へどうぞ

画像処理ソフトのプレビューと出力ファイルのカラーが一致しない!? - カラーマネジメントの基本の"キ"

 Raw現像処理ソフトや画像編集処理ソフトでのㇷ゚レビューと、出力ファイルの色合いが異なるという経験はないでしょうか? 例えばこんなことを書いているブログがありました。

shudooooooon.com この中で RawTherapeeはㇷ゚レビューと出力画像の色合いがかなり異なっていると指摘していて、darktable の方が優れていると書かれているのですが、少なくとも手元にあるRawTherapee 5.8ではそのような現象は確認できません。このブログが書かれたのは2018年なので、その後改善されたのかもしれませんが、ただㇷ゚レビューと出力が大きく異なるというのは画像処理ソフトとしては致命的で、そんなことが2018年の段階であってもあったとは考えづらいです。おそらく、カラーマネジメントの設定が適切にできていなかった可能性があるのではないかと思います。上記サイトの執筆者の方は Windowsユーザのようなので、その可能性は十分あるかと思います。

 カラーマネジメントとは何かというとどの環境 (デバイス) でどの画像ファイルをみても同じような色に見えるように調節する仕組みです。逆にカラーマネジメントが行われていないと見ている環境やファイルによってまちまちに表示されてしまいます。

 

 iMacだとOSレベルでカラーマネジメントが行われているので、おそらくどのMacのアプリもどのファイルも基本的には色がおかしくなるということは起こりにくいと思います。

 しかしWindowsでは異なります。Windows Vista からOSレベルでカラーマネジメントを行う仕組み (API) を導入しましたが、それを利用するかどうかは各アプリケーションに任されています。また Windows XP 以前は各アプリが独自にカラーマネジメントの仕組みを実装しなければなりませんでした。従ってアプリケーションソフトによってカラーマネジメントが行われたり、行われなかったりまちまちな状況です。

 Windows 7の時にデフォルトのフォトビュアーであったWindowsフォトビュアーはこのWindowsカラーマネジメントをフルに利用した優等生的アプリケーションでしたが、Windows10になって新たにデフォルトのビュアーとなったフォトは全くカラーマネジメントに対応していません。つまり、カラーマネジメント的に退化してしまいました。

 このサイトで紹介しているフリーの画像処理ソフトの内、ART, RawTherapee, darktable, GIMPカラーマネジメントが行われていますが、ImageJは行われていません。また軽快なので私も常用している IrfanView はデフォルトではカラーマネジメントはオフになっており、有効化しても、データ自体をsRGBもしくはモニタのプロファイルに合わせて書き換えるという簡易的対応なので利用には注意が必要です。IrfanViewで読み込んだ結果を再保存したり、画像をコピペして他のソフトに持っていくときはデータがオリジナルと異なっている可能性があるという点に注意しなければなりません。従って、Windowsではユーザは常にカラーマネジメントに注意を払わなければなりません。

 ちなみに、RawTherapee系の場合、環境設定の以下の画面でモニタープロファイルを設定します。

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ART (Another RawTherapee) の環境設定における
モニタープロファイル設定

 デフォルトでは、モニタプロファイルに一切チェックがついていません。とりあえずよく分からなければOSのメインモニター・プロファイルにチェックをつければ良いと思います。また、そのモニタ専用のカラープロファイルが用意されているのなら、それを指定して下さい。おそらく何もチェックがついていないとsRGB準拠になっているのではないかと思いますが... 例えばモニタが色空間の広い Adobe RGB 対応だったり、逆に色空間が狭くて、sRGBの範囲もカバーしきれずにモニタプロファイルで調整している場合、ここにチェックが入っているか、あるいはモニタ固有カラープロファイルを指定していないと、プレビューと出力結果が異なる可能性が大です。

 それに対して darktable の場合は...

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darktable のモニタプロファイル設定

 darktable設定のGUIオプションの下の方にディスプレイプロファイルの取得方法の設定がありますが、あらかじめ [すべて] にチェックがついていて、デフォルトで自動的にディスプレイプロファイルを取得するようになっています。

 ともあれ、ART や RawTherapee は darktable とは異なり、デフォルトでモニタのプロファイルを読み込んでくれませんので、ちゃんとしたカラーマネジメントのためには、インストールしたらまず環境設定でモニタのプロファイルを指定しないと、正しい色が表示されない可能性があります。

 GIMPも、[編集]→[設定]→[カラーマネジメント]でディスプレイ(モニタ)のプロファイルを指定する項目がありますGIMPもデフォルトでモニタプロファイルを自動的に読まないのは同じです。

 しかし、ソフトウェア側の設定が正しくても、もう一方、出力されたファイルをどのような画像ビュアーでみているのかが問題になります。Windowsの場合、カラーマネジメントが行われていない場合は、画像が sRGB という前提で処理されます。従って、sRGB以外の色空間で画像を出力をし、カラーマネジメントが行われない画像ビュアーで見ると、当然ながらプレビューと異なって見えてしまいます。ただこの点は darktable も同じです。

 真面目に画像処理を行うのであれば、Windowsデフォルトの画像ビュアー、フォトの仕様はカラーマネジメント的に最悪ですので、Windowsフォトビュアーを復活させて使用するべきです。例えば下記のサイトに復活の方法が書かれています。Windowsフォトビュアーのカラーマネジメント機能は非常に優秀ですので、Windowsでは、他のビュアーを使うよりもまずこれを使うことを推奨します。

novlog.me

tanweb.net

 これ以外の画像ビュアーを使いたい場合は、下記のサイトの情報を参考にするとよいと思います。

blog.livedoor.jp なお、上のサイトの、画像ビュアーリストにはWin10のフォトについて、カラーマネジメントに対応しているが、表示は不適切と△印がついていますが、私の経験では、Adobe RGBやREC2020で画像を出力すると、カラーマネジメント非対応ソフトと全く同じ色に表示されます。あるいはモニタプロファイルの違いには対応するものの、ファイルの色空間の違いには非対応なのかもしれません。またこのサイトの筆者の方が開発し無料で配布している susico という画像ビュアーは、やや重いものの、ファイルの色空間を判定してくれますので便利です。但し画像ビュアーそれ自体の機能としては今一つです。

 また、ImageJのようなカラーマネジメントに対応していないソフトウェアについては、Windowsで使う場合、そのあたりを自覚して使う必要があります。この点については、以下のような記事を書きました。

yasuo-ssi.hatenablog.com

 ImageJを使って画像分析をされている方はMacを使うことが多いようですが、そのあたりの事情があってのことではないかと思います。

 Windows上で、カラーマネジメントといった面倒なことを考えずに画像を扱いたい場合は、すべての画像の色空間(およびモニタの対応)をsRGBに統一する必要があります。また、画像処理をメインに行うためには、少なくとも sRGB カバー率100%前後のモニタを使うことを推奨します。sRGBをほぼカバーしていれば、仮にWindowsを使っていても、意図的にAdobe RGB や REC2020で出力しない限りは、カラーマネジメントがいい加減であったとしてもㇷ゚レビューと出力が合わないということが起こりにくいです。ビジネス向けのノートパソコンや安いモニタは、sRGB 色空間も十分満たさないものが普通なので (ビジネス用途ならsRGBカバー率60-70%程度でも十分) 要注意です。また逆に、画像処理用の色空間の広い Adobe RGB 対応モニタなどは、カラーマネジメントの知識がないと使いこなせないこと (かえって色がおかしく表示されてしまう等) があります。いずれにせよsRGBカバー率を大幅に下回っても、上回っても、カラーマネジメントに対する理解がないと使うのが難しいということです。またそもそもsRGBカバー率を大幅に下回るモニタは画像処理に使うことを想定していないので、モニタプロファイルもちゃんと揃っているかどうか分かりません。またそのようなモニタでいくら色の調整をやっても、適切な環境で見るとかえって色が悪くなっている可能性が大で、無駄な努力と時間の浪費に終わる可能性があります。

 またsRGBカバー率が100%近くても、カラーキャリブレーションを実行しないと正しい色は再現できません。

 EIZOのモニタは以前はFlexcanシリーズでもsRGBカバー率100%対応を謳っている機種がありましたが、今はsRGB100%カバーを謳うモニタは一部大型モニタを除くとColor Edgeシリーズしかないようです。Flexcanシリーズは基本的にsRGB相当とありますので、おそらく95%程度はあるのではないかと期待したいですが... もっともEIZOのモニタの値段も下がってきてはいるので。

 またMacBook ProのsRGBカバー率を計算されている方がおられますが、その方の情報だとMacBook Proのカバー率は93%程度だそうです。

pukuo-pukupuku.com Mac Book Airだともっとカバー率が落ちると思われます。

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 なお、余談ですが、一番上に紹介したサイトで RawTherapeeではデフォルトのニュートラル設定でRawファイルを読み込むと暗くなってしまうということを RawTherapee の欠点として挙げておられました。ただこれは極めて当然なことで、逆にむしろそれが利点と見ることもできます。例えば下記の拙稿をご覧ください。

yasuo-ssi.hatenablog.com

 ある意味、RawTherapeeがデフォルトでRawファイルをニュートラル設定で読み込むのはエキスパート向けの仕様だからです。ただ、先のサイトの筆者の方は主に天体写真を撮っていらっしゃるようなので、ハイライトクリッピングを起こすような写真を撮る可能性は少ないのだと思います。ですのでこのような仕様の利点を感じられないのは当然かもしれません。私もRawTherapeeを使い始めた時は、なぜRawTherapeeで読み込むと暗くなってしまうのか、と焦りました。

 RawTherapeeの派生バージョンであるARTでは、エキスパートでない利用者にもユーザフレンドリーに、という方針が徹底されていて、デフォルトではRawファイルのExif情報を読み込んでなるべくカメラの撮影設定を反映するように読み込むようになっていますが、簡単にエキスパート向けにニュートラル設定で読み込みなおすことができるようになっています。その意味でも、初心者には ART をお勧めします。