最近インターネット上で以下の記事を見つけました。
"The Linear Profile: A new beginning in Lightroom and Camera Raw" Tony Kuyper (2021.7.23)
LightroomやCamera Raw (以下 Lr/Cr)を使ったRaw現像で、従来のAdobe Standardのプロファイルを使うのではなく、リニアなプロファイルを使うと、Rawファイルの画像編集が大幅に楽になるという主張です。
DCPプロファイルには、前にも述べたように、RawデータをRGBデータに変換するためのベーステーブル、トーンカーブ (DCPトーンカーブ)、色を調整するルックアップテーブルといったデータが含まれます。
因みに、Adobe StandardのDCPプロファイルには、厳密にいうと、DCPトーンカーブ情報が含まれていません。DCPにトーンカーブ情報が含まれていない場合、Adobe製のRaw現像ソフト (および、サードパーティのDCPプロファイル読み込み可能なRaw現像ソフト)は、Adobe Standardのトーンカーブ(上の図の赤の線)を適用するようになっています。
しかしこのようなトーンカーブを適用せず、リニアなトーンカーブ(?) [上の図の黒の直線]を使ったプロファイルを適用したほうがより良い編集ができるという主張です。
具体的な利点として下記の点を挙げています。
Advantages of linear profiles
・More flexibility in Lr/Cr since the sliders often provide additional room for adjustments.
Lr/Crでスライダーを動かすときにより調整の余地が大きくなる
・More predictable adjustments in Lr/Cr since the image responds better to slider movements.
スライダーの動きに画像がより良く反応するので、調整がやりやすい
・Better shadow and highlight recovery.
シャドウとハイライトの回復がより良くなる
・Richer, but not over-saturated, colors to work with.
編集作業対象の色が、過度に彩度が上がることなく豊かになる
・Hue, saturation, and luminance adjustments work better.
色相、彩度、輝度の調整がよりやりやすい
・More pleasing RAW conversions.
より望ましいRaw変換が可能
・“Expose-to-the-right” has greater potential since applying a linear profile darkens the image.
リニアプロファイルを適用し画像がより暗くなるため、露出の+補正の余地が広がる
上の記事の中にサンプル写真が出てますが、リニアなプロファイルを適用すると、画像がやや暗くなり全体的なコントラストも下がるので、平板に見えます。しかし、ローカルコントラストはむしろ高まり、諧調も豊かになる印象です。つまりこのような、ぱっと見の冴えない画像の方がより編集調整がしやすくなり、調整の余地も増えるということです。
更に簡単に調整するにはリニアプロファイルを適用した上で、自動調整ボタンを押せば、非リニアなプロファイルを適用したものよりより良い結果が得られるとしています。もちろん、自動調整ボタンを押さずフルマニュアルで調整するのも良し、と言っています。
このためのプロファイルも無料で配布しているようですが、よく考えると、darktableやRawTherapee, ARTでは同じことが簡単にできてしまいます。
そもそもdarktableのシーン参照ワークフローでは、カメラプロファイル固有のベースカーブ(DCPトーンカーブに相当すると思われます)を使わないことを推奨していますが、これはまさにここでいうリニアプロファイルの適用と同じことです。
RawTherapeeやARTでは、カメラ固有DCPプロファイルに含まれる、DCPトーンカーブやルックアップテーブルを簡単にオフにできますし(するとリニアプロファイルを適用したのと同じことになります)、さらにトーンカーブの自動調整ボタンを押せば、Tony Kuyperの記事にある、Lr/Crでリニアプロファイルを適用した上で、自動調整ボタンを押したのと同じことになります。
これは、カメラ固有のトーンカーブ適用を現像処理パイプラインの中のどこでやるかにもかかわりがあると思います。おそらくLightroomは、早い段階で適用しているため、カメラ固有トーンカーブを適用すると、編集余地が少なくなってしまう、ということではないでしょうか。因みにARTの場合は、DCPトーンカーブもユーザ設定トーンカーブも、現像処理パイプラインのうち、リニア処理の最終段階に近いところで同時に適用しています。従って、DCPプロファイルを適用しても、編集の余地は少なくならないのではないかと思います。Raw Therapeeの場合は、現像処理パイプラインについて書かれた文献がないのでわかりませんが、ARTとは、DCPプロファイルの解釈が異なるので、適用段階も異なると思われます。
アメリカで今になってLr/Crにおけるリニアプロファイルの利用などと言う話が出てくるということは、darktableやRawTherapee等の動きをLr/Crの一部先端ユーザーが後追いしているともいえるかと思います。
なお、CrをPhotoshopのプラグインとして使う場合は、リニアプロファイルは有効にならないようです。
ところで、日本語のWeb記事では、"Lightroom" "リニアプロファイル"というキーワードで検索しても全くヒットしません。日本ではカメラメーカーはひしめいているのに、写真処理ソフトウェアの、あらかじめメニューにある使い方の解説以上の記事が出てこないのはどうしてなのだろう、と思ってしまいます。
なお、リニアプロファイルと、作業色空間が、リニア/非リニア(知覚的ガンマ補正を加えたTRCを使用)であることは直接のつながりがあるわけではないと思います。とはいえ、おそらくDCPカメラプロファイルのDCPトーンカーブやLUTは非リニアなRGB色空間を前提としているとは思いますが...
なお、リニアプロファイルのダウンロード先はこちらです。
goodlight.us この記事の下の方に、End-User License Agreementに同意したかどうかのチェックボックスがありますので、そこにチェックをつけた後、メーカー別リンクをクリックし、使いたい機種を選んでダウンロードして下さい。
インストール方法については以下のPDF文書をご覧ください。
https://goodlight.us/Installing_and_Using_Linear_Profiles.pdf