省型旧形国電の残影を求めて

戦前型旧形国電および鉄道と変褪色フィルム写真を中心とした写真補正編集の話題を扱います。他のサイトでは得られない、筆者独自開発の写真補正ツールや補正技法についても情報提供しています。写真補正技法への質問はコメント欄へどうぞ

トーン編集 darktable vs. ART

 darktableのオンラインディスカッションに以下のような議論が出ていました。

discuss.pixls.us 4年ほど前にdarktableの開発チームに参加し、現在 Ver. 3以降のシーン参照ワークフローの設計を主導している Aurélien Pierre氏の「ベースカーブは良くない」という発言をめぐる本人からのコメント、およびそれに対する反響です。

 ベースカーブとはカメラごとに採用されている、メーカー、カメラモデルごとの絵作りを決めるトーンカーブのことですが、現在シーン参照ワークフローの中でベースカーブが排除されつつあることに対し、メーカーの絵作りのどこが悪いんだと、3.0より前からのユーザを中心にかなり批判があるようです。

 それに対して、Aurélien Pierre氏は「ベースカーブは良くない」という発言が独り歩きをして、なぜそう言うのかという理由が忘れられているとして、説明を行っています。

 Aurélien Pierre氏の主張の要旨は、ベースカーブが悪さをしているのはベースカーブの適用がかなり現像処理パイプラインの早い段階で行われるため、いわば作業色空間のリニアリティを崩すので副作用が大きいという趣旨である。そして現在カメラのベースカーブは(処理パイプラインの後の方の)フィルミックRGBモジュールでかかっており、いわばフィルミックRGBがインターフェースを変えたベースカーブの役割を果たしている、ということです。

 これに対する反響の一つに、フィルミックRGBが多くの機能を担いすぎていて、ユーザの編集自由度を確保するために3つぐらいに(対数トーンマッピング、ベースカーブの適用、トーンカーブ編集等に)分割できないかという意見が出されていますが、Aurélien Pierre氏は、より自然なトーンの移り変わりを実現するため(不自然なトーンの移り変わりを排除するため)、フィルミックRGBの中で一元的に管理することが必要だと否定しています。Aurélien Pierre氏は、別のところでもLUT(Look up table トーン変換対照テーブル)は汚いと発言していますが*1アドホックなトーン(カラートーンを含む)変換は、不自然なトーンの移り変わりを生みかねないという趣旨かと思います。

 ともあれ、darktableが現在推進しているシーン参照ワークフローでは、編集過程で生じかねない不自然なトーン遷移を極力排除し、ナチュラルな画作りを目指しているという方針が明らかです。ただそれが各ユーザの目指す画像づくりに一致するとは限りません。むしろ不自然な方が目を引く画像になる、という人も存在しうると思います。

 ただ、一部の人から要望として出されている、フィルミックRGBの機能の分割が、事実上実現されているのがARTです。つまり、RGB空間へのトーンの割り付けは対数トーンマッピングで、トーンの調整はトーンカーブやトーンイコライザーを通して行うようになっています。もちろん、計算方式等は darktable とは全く同じではないと思いますが。ソフトウェアごとに特色があるわけですので、それぞれの目的にあったソフトウェアを使えば良いのではないかと思います。

 私自身は、そもそも変色してしまったフィルムスキャン画像の補正で使う比重が高いので、このような場合、オリジナルデータがそもそもナチュラルであるという前提が成立しません。その点で、ARTの出番の方が多いです。

*1:以下の議論を参照。

discuss.pixls.usこれは、画像のカラー統一性を確保するために、Davinci Resolve流のLUTベースのソリューションが主流になっていることを批判しての発言です。