どうも何度やっても全く満足な結果に至らないネガフィルムからスキャンしたカラー画像があります。これは、黄変除去の問題というよりは、元のスキャナの癖や補正の結果、色被りしてしまった画像の補正の問題です。それが下のケースです。
黄変しているのはもちろんですが、おそらくスキャナの過剰補正で青紫に寄っています。最近のBチャンネル再建法ツールの進化で、黄変や、周辺の情報抜けはかなり補正ができるようになりました。しかし、スキャナの過剰補正で全体的に青紫に寄ってしまった結果をどう修正しても、満足できるような結果ににほど遠く途方に暮れていました。
黄変自体はかなりきれいに消えていますが、その後、全体的に紫に寄った画像をいくらマゼンタ補正マスクをかけて補正を掛けてもどうもうまくいきません。全体的に緑が過剰になりがちで、不自然な感じが残ってしまいます。例えば、以下が以前の補正結果です。
青紫を修正しようとすると、全般的に緑が過剰になってしまいました。ある部分を修正しようとすると別の部分がおかしくなり、別の部分を修正しようとすると、また別の部分がおかしくなるという典型的なあちらが立てばこちらが立たず状態でした。
ところで、この画像、実は当時ラッシュプリントを作っていました。それをスキャンした結果が以下です。
これだと確かにナチュラルな感じがします。一方下の田んぼがこんなに黄色いのは、上のネガをスキャンした原画からは、ちょっと想像がつきません(若干に色寄りに変色しているのかもしれません)。そこで、まず、ネガをスキャンしたものと、ラッシュをスキャンしたもので、先日公開した画像のチャンネル間相関統計ツールを使って統計を取って比較します。
まず、ネガをスキャンしたほうは...
R: 平均値 100.4 標準偏差 56.4, G: 平均値 98.2 標準偏差 56.8, B: 平均値 114.4 標準偏差 46.7
相関係数 R-G: 0.99, R-B: 0.91, G-B, 0.93
です。
意外にも相関係数的には非常に高いので編集は容易なはずですが... しかしBの平均値だけ異様に高いのは異常です。標準偏差が低いのは、これは黄変の影響と思われます。
一方、ラッシュの方は...
R: 平均値 144.1 標準偏差 63.3, G: 平均値 144.1 標準偏差 63.1, B: 平均値 144.4 標準偏差 63.4
相関係数 R-G: 0.99, R-B: 0.90, G-B, 0.96
です。
R, G, B の平均値、標準偏差はほぼ差がありません。これに比べて、ネガの方はBの標準偏差が低いのは黄変の影響としても、R, G値が非常に低いのはスキャナドライバが引き下げて補正を掛けたせいと思われます(B値は黄変しているのですから、本来ならば、R, G値より平均値が低いはずです)。
そこで次の対策として、ネガのオリジナルのBチャンネルにガンマを掛けて、R, G値の平均値に近いところまで引き下げてチャンネル合成し、さらに全体の明るさをラッシュ並みに引き上げた画像を作ってみました。いわば、スキャナドライバが変に「補正」を掛けなければ、こうだったであったであろうと思われる画像を再構成する訳です。またBチャンネル再建法補正ツールもハイブリッド補正を採用してから、黄変を補正しきれないということがあまりなくなりましたので、この時点で黄色味を減らすことよりも、むしろその後の追加補正が楽になるような事前準備をしたほうが良いという訳です。
なお、GIMPの場合ヒストグラムを表示させながらガンマ補正を行うと、平均値や標準偏差を表示してくれますので、簡単に調整ができます。
この画像をベースにBチャンネル再建法を掛けさらに追加補正を行うことを考えてみます。
これにBチャンネル補正法を掛けると...
もちろん、黄変はきれいに消えています。ただ、明るくはなっているものの、色合いは、前のものとあまり変わらないような気がします... が、結構補正マスクを作るときに違いが出ます。ここで、ちょっと「カンニング」をします。つまり、ラッシュの結果に無理やり近づけてみるのです。
Bチャンネル再建法適用結果をラッシュプリントに近づけるには、どう考えても画像の上半分と下半分で編集の仕方を変えないといけないようです。
まず上半分ですが、マゼンタマスクを掛けて、マゼンタをブルー寄りにすることを考えます。そこでまず以下のマゼンタマスクを作りました。
色閾値 10.0 透過度 1.5 明度範囲 0-255
この時、マゼンタマスクのコントラストを上げるため、Bチャンネルとのみ比較、オプションをオンにしました。そしてこのマスクの下半分は黒塗りに編集して上半分だけこのマスクに基づいて色を変えることにします。
とりあえず、値の高いところを中心に緑と青を引き上げます。マスクを外すとこんな感じです。
下半分は、グリーンマスクを使って編集することにします。
色閾値 10.0 透過度 2.0 明度範囲 0-184
こちらは、チャンネル間のレベル調整をオンにし、やはりBチャンネルのみと比較をオンにします。そして上半分は黒で塗りつぶします。
このマスクを掛けたレイヤーは以下のようにトーンカーブを動かしました。
一旦OKを掛けた後も黄色味が足りないので、さらに青を引き下げました。ラッシュの下の田んぼはかなり黄色かったので、それに近づけようとすると、かなり黄色くする必要があります。因みに、レイヤーマスクを外すとこんなに真っ黄色になります。
この状態でレイヤーを重ねると、こんな感じです。
これでラッシュの結果にかなり近づきました。これをさらに ART に読み込み、部分的に色が気に入らない部分の補正とトーンの調整を行います。その結果が以下です。
これでようやく、ある程度ラッシュの結果に近づいたと言えそうです。もう少し山の端の緑を青い方向に持って行った方が良かったかもしれませんが。満足のいく結果とは言えませんが、今までの補正の中では一番ましなのは間違いありません。比較のため、再度ラッシュをスキャンした画像を再掲します。
で、この補正よく考えるとハイブリッド補正導入前の編集事例で紹介しておいた、BチャンネルのトーンカーブにS字カーブを掛けて編集すると良い(Bチャンネルのシャドウ域は値を下げ、ハイライト域は値を上げる)という話と共通するものがあります*1。
ただこの画像の場合、手前の田んぼにかなり明るい部分があるので、単純にBチャンネルのS字カーブをかけることでは解決せず(田んぼがかなり青くなってしまいますので)、遠景と近景で編集を変える必要がありました。今後検討していきたいと思います。
ただ、これから言える教訓は、Bチャンネルのシャドウ域とハイライト域で色調整の仕方を変えるべき、というよりは、遠景と近景でBチャンネルの色調整の方法を変えるべきという問題なのかもしれない、ということかと思います。
それと、スキャナドライバの過剰補正の場合は、チャンネル間の相関統計を取ってみて、オリジナルファイルの再構成を行ってから補正に取り掛かったほうが良いかもしれない、ということです。
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*1:例えば、以下の事例を参照のこと。