[敢えて補正量を抑制する (続)]
前回からの続きです。今回は追加補正の過程です。
Bチャンネル再建法の結果は下記になりました。
下から 1/3 は敢えて全く補正していません。この画像を基に追加補正を行っていきます。
まず、全般的に、カラーネガによく見られる、マゼンタがかりが見られますので、それを補正します。マゼンタ補正に関しては、これもいろいろ考えて、ハイライト部分とミッドトーン部分に分けて補正を行います。マスクは相対RGB色マスク作成ツールを使って作成していきます。
まず、マゼンタミッドトーン補正用マスクです。作成パラメータは図の下に記しておきました。
色閾値: 10.0 透過率: 2.0 明度範囲: 0-140
R除外 色閾値: 10.0 透過率: 1.0 明度範囲: 115-255
このマスクは、ツールでマスク画像を作成後、上半分を黒塗りにする編集を掛けています。補正1をコピーしたレイヤーにこのマスクを掛け、以下のようにトーンカーブ編集を行いました。
GとRをシャドー域を中心に引き上げるとともにBを引き下げました。ここでの編集のターゲットは路盤のマゼンタを少しでも茶色に寄せるということです。
次はマゼンタハイライト用マスクです。
色閾値: 10.0 透過率: 2.5 明度範囲: 137-255
このマスクはツール作成後編集はしませんでした。そしてこれを掛けたレイヤーに対し以下のようなトーンカーブ編集を掛けました。
ここでは、空の青みをつけることを中心としましたので、Rはいじらず、Bは上とは逆に、引き下げずに引き上げています。
マゼンタ補正が終わったところで、一旦出力します。
この出力2を基にG, B 補正を行っていきます。まずGマスクの作成から。
色閾値: 20.0 透過率: 1.0 明度範囲: 0-175
このマスクもツールで作成後、編集はしていません。近景の緑の補正を行うためのマスクです。補正2の可視画像をレイヤー化したものに、このマスクをつけトーンカーブ補正を掛けていきます。
G, Rを引き上げるとともに B を引き下げ、緑の鮮やかさを強調します。
次は空や遠景を改善するBマスクです。
色閾値: 10.0 透過率: 1.5 明度範囲: 162-255
これもツール作成後編集せずに使いました。そしてG補正レイヤーに使ったものと同じレイヤーを複製しマスクを掛け、トーンカーブ補正を行います。
Bを若干引き上げるとともに、明度に緩やかなS字カーブの編集を加えます。これで、だいぶ明るく、良い感じになりました。
これで、GIMP上の編集を終了しTIFFに出力します。ここで画像統計を取ってみました。
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画像ファイル統計: 1986_9_上田交通2NC_0032_s_補正3.tif
1番目の色Ch: Red 2番目の色Ch: Green
計算対象輝度範囲(グレースケール): 0.0 - 255.9
計算対象ROI: X: 0 - 1280 /Y: 0 - 1955
色Ch間ピクセル輝度差の平均: -7.98 Ch 1平均輝度: 138.69 Ch 2平均輝度: 146.67
輝度差分散: 211968.45 輝度差標準偏差: 28.78 輝度最高差: 252.29 輝度最低差: -127.84
Ch1分散: 680495.52 Ch1標準偏差: 51.56 Ch2分散: 904007.36 Ch2標準偏差: 59.42
Ch1-2 共分散: 686267.22 ピアソン相関係数: 0.87
マニュアル補正調整量目安: 20.79
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1番目の色Ch: Red 2番目の色Ch: Blue
計算対象輝度範囲(グレースケール): 0.0 - 255.9
計算対象ROI: X: 0 - 1280 /Y: 0 - 1955
色Ch間ピクセル輝度差の平均: -7.34 Ch 1平均輝度: 138.69 Ch 2平均輝度: 146.03
輝度差分散: 419309.10 輝度差標準偏差: 40.47 輝度最高差: 250.08 輝度最低差: -120.92
Ch1分散: 680495.52 Ch1標準偏差: 51.56 Ch2分散: 1307845.14 Ch2標準偏差: 71.48
Ch1-2 共分散: 784515.78 ピアソン相関係数: 0.83
マニュアル補正調整量目安: 33.14
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1番目の色Ch: Green 2番目の色Ch: Blue
計算対象輝度範囲(グレースケール): 0.0 - 255.9
計算対象ROI: X: 0 - 1280 /Y: 0 - 1955
色Ch間ピクセル輝度差の平均: 0.65 Ch 1平均輝度: 146.67 Ch 2平均輝度: 146.03
輝度差分散: 231164.80 輝度差標準偏差: 30.05 輝度最高差: 161.52 輝度最低差: -105.39
Ch1分散: 904007.36 Ch1標準偏差: 59.42 Ch2分散: 1307845.14 Ch2標準偏差: 71.48
Ch1-2 共分散: 990343.85 ピアソン相関係数: 0.91
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B-G間のピアンソン相関係数は0.91と低めに抑えられ、R-Gの相関よりちょっと高い程度にとどまっています。この画像をARTに読み込ませます。
路盤の茶色が補正しきれていませんので、カラー/トーン補正でロバンの赤紫っぽい部分を指定し、なるべく茶色に寄せます。さらにホワイトバランスの調整や、トーンカーブ調整を行います。
ただ、特に後ろの山の青みが足りないようなので、フィルムシミュレーションを使ってカラーグレーディングを図ります。ここで、ARTの新機能を使って ARRI の Film AのLUTを適用してみました。
これで出力したのが、下記の結果です。
満足とは言えませんが、まぁまぁになりました。もうちょっと山の部分と路盤のマゼンタのムラが取れるといいのですが... なお、相関係数ですが、R-G、G-Bともに0.92になりました。ともあれ、下のオリジナルと比べてみてください。
ただ、この補正過程で明らかになったのは、やはり、補正方針を決めるのに、画像統計を取っておくということが結構重要だということかと思います。またこの補正も、結果的には、上から2/3に関してはBチャンネル再建法を適用していますが、下の1/3はマスクを掛けることで、Bチャンネル再建法を適用除外し、相対RGB色マスクを使った補正のみで対処したことになりました。
そこで改めてオリジナルファイルを上から2/3と下から1/3に分けて相関係数を取ってみました。すると...
上から2/3では、相関係数が、R-G 0.96 R-B 0.80 G-B 0.86 だったのに対し、下から1/3では、R-G 0.75 R-B 0.74 G-B 0.75 と、R-G間でも元々相関係数が低いという結果になりました。つまり上から2/3はBチャンネル再建法を適用しても良いのですが、下から1/3は元々適用すべきでなかった、ということになります。
ここから得られた教訓は、本来チャンネル間の相関係数(とくにR-G間の相関)が低い画像もしくは画像領域では、Bチャンネル再建法を適用して補正すべきではない、ということになるかと思います。
逆に言えば、人工物などが画面の大半を占め元々チャンネル間の相関が低い画像が黄変した場合の補正が課題として残ることになりますが、手元には、その条件に適合する補正手法開発のために適切な黄変サンプル画像がなく、開発困難です。