ここのところ私が作成した GIMP のプラグインの解説で知覚的色空間とリニア色空間という用語が出てきます。詳しい話は下記の記事を見ていただきたいのですが...
ここでは簡単に説明を行っておきます。
まず、人間の視覚は物理的な光の量や明るさと比例しません。光センサーやフィルムに外の風景を取り込むと、光のエネルギー量の対数関係の明るさで定着します。しかし、人間の視覚は暗いところが敏感で、明るいところは鈍感です。このため、人間の目に見える最も暗い点をブラックポイント (0%)、最も明るい点をホワイトポイント (100%) とすると、その中間の明るさに見えるミッドポイント (中間グレー点) は、物理的な明るさ 50% ではありません。大体、物理的な明るさ 20% 前後が、人間の視覚的な明るさ 50% になります。現在は 18.45 % を中間グレー点としているソフトウェアが多いようです。
ここで言う、リニア色空間での値とは、物理的な明るさを表したものです。それに対し、人間の視覚的中間の明るさを 50 % になるように表した明るさの値が知覚値 (知覚的色空間) になります。
リニア値を知覚値に変換するには、一般的には、sRGB / REC709 式変換式が使われることが多いです。つまり、ブラックポイントからホワイトポイントの範囲を 0.0 〜 1.0 とした場合、
リニア値の値 (v) が、0.0031308 未満なら、
v * 12.92 を、
それ以上なら、
1.055 * v ^ (1/2.4) - 0.055
これをグラフ化すると以下のようになります。
このカーブをトーン再生カーブ (Tone reproduction curve: TRC) と称します。この式の場合、知覚値の 50% に相当するリニア値は、約 21.4 % となります。ホワイトポイントとブラックポイントの値は変わりませんが、シャドウ〜ミッド域を中心に値が上昇しているのがわかります。この式を使いますと、最近の多くのソフトウェアで中間グレー点とされている、リニア 18.45 % は、知覚値で約 47.7 % となり 50% よりやや小さくなります。
なお、この式は若干複雑なので、計算量を減らすために、近似式として
v ^ (1/ 2.2) (=ガンマ 2.2) を使う場合もあります。
ちなみに、以前の Mac では TRC としてガンマ 1.8 を使っていたこともありました。そのため現在でもソフトウェアによっては知覚値としてガンマ 1.8 を掛けた色空間を使っているものもあります。
ただし、知覚値はミッドポイントを約 50% で表してくれるので便利なのですが、明るさを変更するようなピクセル値計算を行う時に、色がずれるという不都合が生じる可能性があります。R, G, B 比が変わらなければ、基本的には色相のズレは発生しません。例えば今の明るさを 1.2 倍に明るくしたいとすると、R, G, B それぞれに、1.2 を掛けてるなら比は変わりませんので、色はずれないはずです。しかし、これは物理値 (リニア値) の話です。知覚値上で、R, G, B に同じ 1.2 を掛けたとしても、無彩色でない限り物理的には (リニア値上では)、同じ値を掛けたことになりません。このため、色ズレが発生する可能性があります。
もちろん、色ズレを発生させないような補正計算を行えばよいのですが、計算量が増えてしまうという不都合が生じます。
L*a*b* や LCh 色空間は、知覚値を使いながらも輝度値と色情報を分離することで輝度値計算に伴う色ズレを防ぐ工夫の一つです*1。