省型旧形国電の残影を求めて

戦前型旧形国電および鉄道と変褪色フィルム写真を中心とした写真補正編集の話題を扱います。他のサイトでは得られない、筆者独自開発の写真補正ツールや補正技法についても情報提供しています。写真補正技法への質問はコメント欄へどうぞ

ART 編集 Tips: カラー / トーン補正によるカラーグレーディング編集でシャドウ部の効果を相対的に弱める

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 ART のカラーグレーディング編集の中核となるカラー / トーン補正モジュールは、ART がシーン参照ワークフローを採用しているため、リニア RGB で動作します。このことは様々なカラー編集計算においてアーティファクトを生みにくいというメリットもありますが、一方でリニアな色空間で動作するため、スライダーやホイールを動かしたときに、知覚的に、ミッドレンジ~ハイライト部分に比べてシャドウ~ミッド部分でより効果が大きくなってしまうという難点も生み出します

 これはどういうことか考えてみましょう。知覚的に中間的な明るさに見える中間グレー点は、知覚的な色空間では 50% に設定されますが、リニアな色空間では約18~19% 程度になります。ここで、仮に10% ポイント明るくしたり、暗くする編集を行ったと考えます。知覚的色空間では、値を 10%ポイント上下させた場合、知覚的にも明るさが 10% ポイント上下したと感じられますが、リニアだと値を 10%ポイント上下させると、 物理的な明るさ (物理値) が10%ポイント上下します。しかし、同量の物理値の変化は、知覚的には暗い部分でより大きな変化と感じられる一方、明るい部分ではより小さい変化と感じられることになります。そのため、暗い部分と明るい部分で知覚的変化量が不均一であり、暗い部分は変化が大きすぎると感じられる可能性があるのです。

 そのように考えると、シーン参照ワークフローは、必ずしもメリットだけではなく、編集操作上場合によっては、ディスプレイ参照ワークフローより不都合な場合もあるわけです。

 これについて先日のオンラインディスカッションで、この問題を解決するテクニックについて A. Griggio 氏が示していました。このテクニックは非常に重要だと思いますのでここで概要を紹介します。ディスカッションの詳細をご覧になりたい方は以下のリンクを見てください。

discuss.pixls.us

 この例では、カラー / トーン補正モジュールの HSL係数モードを使って、主としてカラーグレーディング編集を行うことを考えています。このモードは以前指摘したように Adobe Lightroom のカラーグレーディング・モジュールに似ています。

HSL係数モード

 ここでは、分かりやすくするために、ハイライト、シャドウ、ミッドトーンと書かれています。確かに各ホイールは結果として、表記の部分に対し主として影響を与えますが、厳密にトーン領域を分けるマスクがかかっているわけではありません。基本的に調整の方式が異なる (Gain / Lift / Gamma) のです。従って、例えばシャドウを動かしても、ある程度ミッドトーンやハイライトにも影響を与えます。

 そこで、Griggio 氏のアイディアでは、HSLモードを使う前に、まず [RGBチャンネル分割モード] をオンにします。そこで[リンクに対応するスライダー] にチェックを入れ、さらに[ミッドトーン/ガンマ] で 2.0 を指定します。するとカーブが凸状に上がります。つまりガンマエンコードします。

RGB 分割モード

 この後に、カラー/トーン補正の [# マスク 補正]の右側の + マークをクリックして補正レイヤーを増やし、補正のメインである [HSL係数] モードを選択します。

レイヤーの追加

 そして下記のようにカラーホイールをいじって、カラー調整編集を行います。

HSL 係数モードで調整

 そのあと再び、[# マスク 補正]の右側の + マークをクリックして補正レイヤーを増やし、再度 [RGBチャンネル分割モード] をオンにします。そして [リンクに対応するスライダー] にチェックを入れ、今度は [ミッドトーン/ガンマ] で 0.5 (= 1 / 2.0) を指定します。つまり HSL係数モードでの調整の前に挿入した [RGBチャンネル分割モード] レイヤーで設定したガンマ設定を元に戻します。

再度 RGB チャンネル分割モードを掛ける

 ガンマを 0.5 に設定するとグラフが下にへこみます。これにより最初に掛けたガンマ設定をキャンセルし元に戻すことになります。

 つまり、HSL係数調整モードのレイヤーを、RGBチャンネル分割モードによる、ガンマ・エンコード / デコードのレイヤーで挟み込むことにより、HSL係数モードの調整レイヤーのみに対しガンマを掛けてミッドトーンの効果量を上げることで、知覚的にシャドウ域の調整量が他の明度域に比べ大きくなってしまうという問題点を解消するというアイディアです。

 このテクニックは非常に重要ですので、以上、紹介しておきます。

 なお、Griggio 氏の投稿ではこの後、さらに調整レイヤーを追加し、知覚モードで、シャドウの引き下げと、シャドウ部を除いてローカルコントラストを上昇させる編集を追加していますが、それについては解説を省略します。原文をご覧ください。