省型旧形国電の残影を求めて

戦前型旧形国電および鉄道と変褪色フィルム写真を中心とした写真補正編集の話題を扱います。他のサイトでは得られない、筆者独自開発の写真補正ツールや補正技法についても情報提供しています。写真補正技法への質問はコメント欄へどうぞ

明日は西九州新幹線開業日ですが...

 このブログでは鉄道の話題はどちらかというと回顧鉄と化しておりますが、本日は珍しく、新しい鉄道の話題に触れます。というのは、明日は西九州新幹線 (武雄温泉ー長崎間)の開業日のようだからです。

 西九州新幹線開業とは言え、武雄温泉ー新鳥栖間の着工は全く未定ということです。佐賀県の反対によって着工未定となっているようです。これに対して、佐賀県は何をごねているのだと思う方もいらっしゃると思いますが、私は、佐賀県が猛反対するのはもっともだと思います。率直に言って今回の開業区間は、新線を建設するにしても狭軌高規格線として開業させるべきでした。

 かつて、九州新幹線開業前に初めて佐賀に行ったのですが、その時に北九州地区の鉄道の便利さに驚嘆しました。その時は羽田から博多まで飛行機を使い、博多から佐賀に向かいました。佐賀に向かう長崎本線では、佐賀県内に関しては、特急列車と各駅停車の接続・乗り継ぎの利便性がよく考えられていて、例え、各停しか止まらない駅からでも、非常にスムーズに都市間の移動ができるのに驚嘆しました。

 もちろん、大都市圏ではそもそも各駅停車がたくさんありますので、乗り継ぎには困りません。しかし、比較的閑散な地方都市でこれだけの利便性(確か各駅停車は30分ごとのパターンダイヤを採用していたと思います)を確保するのは容易ではなかったはずです。

 例えば、筆者宅から近い中央東線では、特急停車駅で各駅停車に乗り継げるとは限りません。そのため、例えば、特急非停車駅に行きたい場合は、その手前の特急停車駅で下車し、10~30分後に来る各駅停車を待って乗り換えなければならない場合が多いです。拠点間移動なら問題なくても、非拠点を始・終点とする移動では、特急を利用する時間短縮効果が大きく下がってしまい、結果的に特急料金のコストパフォーマンスの悪さが目立つことになります。

 現在のダイヤでも博多-佐賀間は特急電車で40分かかりません。ということは佐賀県内の長崎本線区間では、どの駅であっても、博多までかかったとしても2時間以内で到着するでしょう。新鳥栖から新幹線に乗り継ぐと、大して時間は変わらない (2~3分短縮されるかどうか) 上に余計に料金だけが高くなります。

 これが武雄温泉ー新鳥栖間がフル規格で建設されるとどういうことになるでしょうか。新幹線が在来線と切り離されますので、特急-各駅停車の乗り継ぎの利便性が破壊されます。ということは、長崎本線の特急通過駅を起点としたときに、主要都市への所要時間を考えますと、新幹線の駅が在来線と離れて建設されますので、新幹線の駅に出るまでに余計な時間がかかります。あるいは都市間移動の手段に在来線は使われなくなるかもしれません。例えばおそらく佐賀県内から一番都市間需要の高い到着駅である博多までの所要時間は、却って時間がかかるか、多少時間が短縮しても、それに割に合わないほど特急料金が高騰することでしょう。

 もちろん、佐賀などの主要駅は在来線と乗り換えられるではないか、という反論があるでしょう。しかし、在来線特急ならホーム対向ですぐ乗り換えられますが、新幹線だとエッチらオッチラ、2,3階まで階段で上がって改札口を通って乗り換えなくてはなりません。その乗り換え時間だけで優に10分はロスになります。佐賀と博多県の距離は短いので、それが速度向上による時間短縮効果をほぼ打ち消します。さらに階段の上り下りによる苦労という不便が付加されます。

 つまり、佐賀県内からはほとんど時間の短縮にならない (かえって時間がかかる可能性も) ばかりか、仮に、駅によっては短縮になったとしても乗り換えの不便を強いられ、さらに在来線の第三セクターへの転換による料金の値上げ、特急料金の新幹線料金化による値上げ、そして在来線の鉄道ネットワークの破壊・不便化による利用客の減少というデメリットばかり押し付けられます。東京からの上から目線でしかモノを見ない人には、新幹線が開通するとむしろ利便性を損なう、不便になる、という視点が見えません

 大阪に行くのに便利になるではないか、という人もいますが、県民のどれほどが頻繁に大阪に行くでしょうか。たまに行く出張や観光での便利さの向上と、日常的に押し付けられる不便と交通費上昇のコストベネフィットを考えれば答えは自明です。また県民が頻繁に利用する都市間移動に関していうと、福岡 (博多) への移動は現在でも、新幹線利用のデメリットの方が上回っています。また自宅から離れた新幹線駅に出るのに自家用車を使わなければならないとなれば、だったらそもそも福岡に出るなら公共交通ではなく自家用車で行けばよい、という話にもなりかねず、公共交通全体の衰退さえ招きかねません。問題は佐賀駅から博多駅の到達時間がどれほど短くなるか、という問題ではなく、自宅から博多駅の到達時間や利便性が高くなるか、ならないか、そしてそれがコスト上昇に見合うものなのか、ということなのです。県民の公共交通の利便性を損ない、多くの場合不便になったり、コスト上昇に見合わなくなるもののために、県民の税金をびた一文払うものかという佐賀県の姿勢は、民主主義の尊重という点でも当然です。

 新幹線が通れば観光客が増えるのでは、という話もあるでしょうが、東京からの観光客が新幹線が開業したからと言って増えるとはとても思えず (速さでは飛行機の方が早いですから)、関西圏から多少増えるかどうかという程度でしょう。また佐賀県でも全国的に有名な観光地である吉野ヶ里遺跡へのアクセスは、フル規格新幹線が通れば確実にアクセスが悪化します。しかも観光客は一旦コロナのような感染症が流行すれば、すぐ途絶えてしまいます。県民の利便性を犠牲にしてまで得られる、経済効果があるとはとても思えません。後は土建屋さんに儲ける機会を与えるか(昔の政治だとこの原理で動いていましたが)、という問題でしょう。

 中央政府は、新幹線建設費分地方交付税交付金を上乗せするので、実質佐賀県の負担ゼロで建設できると説得しているようですが、仮に当面の建設費の負担がゼロになったとしても、また佐賀県内の長崎本線第三セクター化されなくても、不便が押し付けられ、かつ公共交通の衰退というコストを背負うということになれば、ウンと言う訳はありません。

 一方長崎県側は、おそらくローカル公共交通は既にかなり衰退していると思われますので、鉄道へのローカル輸送に対する期待はほとんどなく、むしろ都市間を結ぶ所要時間 (特に博多との) を短縮して欲しいというところでしょうから、フル規格新幹線への期待が高いのでしょう。ハウステンボスも先行き不透明ですし...

  当初デュアルゲージ車両の開発を前提に西九州新幹線のフル規格化が進んでしまったのですが、それが無理となった時点で、狭軌高規格線に方針を変更すべきだったのです。鳥栖-長崎間の距離は120km 程度ですから、在来線の最高速度160Kmに制限されたとしても、フル規格新幹線との到着時間差は20分もあるかどうかでしょう(鳥栖-長崎間が全線新線になったと仮定し、新幹線の評定時速を180km、高規格在来線の評定時速を120Kmと考えると、40分 vs. 60分。ちなみにJR既存在来線の特急評定時速で最も高いのは北陸本線の106km)。しかも、新鳥栖駅で対向ホームで乗り換え可能にするならば、西九州新幹線と新幹線が直通しなくても大きな問題はなかったはずです。また、狭軌高規格線なら、成田スカイアクセス線のようにローカル輸送との併存も可能ですので、佐賀県の説得余地もあったでしょうに。

 元々、西九州新幹線は、建設コストを考慮すると、完全にペイしないということを考慮すると (JR九州の支払う使用料では、到底建設コストは賄えない)、公共交通全体をなるべく高いコストパフォーマンス(JR九州に請求されないコストも含め)で維持する、という観点でも狭軌高規格線が最も優れているのではないでしょうか。

 

後に運転台窓が改修された 飯田線 クモハ54111

 こちらも飯田線の「普通の」クモハ54で、やはり大阪向けモハ60を改造してクモハ54に編入されたグループです。

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クモハ54111 (静トヨ) 1978.4 豊橋駅

 この車両は1970年に大阪からやってきて、伊那松島区に配属されました。1978年の80系の投入でも移動することなく生き残り、1983年の新性能化まで活躍しました。

 なお、この写真では運転台左側窓がオリジナルの2段窓になっていますが、他の方が撮られた写真を見るとどうやらこの後、1段窓に改修されたようです。北部中心の運用だったので、防寒対策のためと思われます。しかし逆に、この時までずっと2段窓のまま活躍していたことが不思議です。おそらく、80系投入で南部に入ることが少なくなり、防寒対策強化ということで窓が改修された可能性が高いです。80系投入前は伊那松島区の車輛と豊橋中部天竜の車輛が連結されて運用されることもありましたが、80系投入後は、それがなくなってしまったため、南部での運用がかなり限定されるようになったのです。

 飯田線は旧形国電末期でも結構車両の変化が大きいので、身延線のような同定フローチャートづくりが難しいです。

 

最後に本車の車歴です。

1941.3.7 日本車輛製造 (モハ60035) 奇数向き→ 1941.3.11 使用開始 大ミハ → 1947.7 大ヨト → 1950.11.30 大ミハ → 1956.2.4 更新修繕I 吹田工 → 1956.3.1 大タツ → 1961.10.1 大アカ → 1970.2.3 静ママ →  1983.8.25 廃車 (静ママ)

 典型的な飯田線の縁の下の力持ちだった普通のクモハ54の履歴かと思います。

 

Wine で行こう

 今年に入ってLinux (Ubuntu) および Mac OSをいじるようになりましたが、これらのOS上でWineを使って Windows対応アプリケーションを動かすようになりました。これがなかなかしっかり動いてくれるので、ここでちょっとWineのインストールや活用についてまとめてみたいと思います。

 今までだと、LinuxMac OS 上でWindowsアプリケーションを使う場合、例えば PC の仮想環境を構築してそこにWindowsをインストールするとか、Mac の場合 Intel版ですと Boot CampというWindowsMac OSデュアルブート環境を作るツールが提供されていました。これは実質的にIntel版のMac はハードウェア的には通常のPCとほぼ変わらないから可能でした。

 Wineは WindowsAPIをエミュレートして翻訳してインストールされているOSに指令を渡す環境なので、オリジナルのOSとシームレスでWindowsアプリが使えます。ファイルのドラッグ & ドロップも有効です。つまりOSネイティブなアプリとあまり変わらない感覚で使えるのです。但し、エミュレートできるWindows APIはすべてではないので、アプリケーションによっては動きません。Windowsの最新のAPIを使っているような複雑なアプリでは動かない可能性があります。MIcrosoft Officeだと2013なら動くらしいですが、おそらく最新のOfficeは無理でしょう。一方、ARTの様にクロスプラットフォームオープンソースのアプリケーションは、Windowsの特殊なAPIに依存していないと思いますので安定して動く可能性が高いです。ART は安定した Mac OS版バイナリーが供給されていませんが、Wineを使うと、Mac OS上でかなり安定して使えます。

 このほか個人的には、秀丸Irfanviewを、Wine経由でUbuntuMac OS上で動かしていますが、今のところ特に問題なく使えています。

 Wineは、基本的にコマンドラインから使うツールなので、インストールしてもGUIのメニューに出てきません。そして、Windows対応アプリを使う時は、基本はコマンドラインから wine windowアプリの実行ファイル名 を指定することで、windowsアプリを動かします。ただ、プログラムのエイリアス (リンク) を作ることで、windowsベースのアプリをGUIベースで起動することができます。

 また、Windowsアプリのインストールは、コマンドラインから、wine インストーラファイル名 を指定することでインストールすることができます。インストール先は、各ホームディレクトリの下に、

.wine/C_Drive

というディレクトリができ、これがちょうど仮想的にWindowsのCドライブの役割を果たします。従ってインストーラを動かすと通常は、.wine/C_Drive/Program Files/ 以下にWindowsアプリがインストールされます。しかもリンクまで自動的に作ってくれます。そしてOSの通常のディレクトリはWindowsアプリから見ると、Z: ドライブ 以下にマウントされているように見えます。

 なお、万一環境を飛ばしてしまった場合は、.wine 以下をすべて削り、再度 Wine を実行すると、.wine/C_Drive 以下を再構築してくれるようです。

Linux (Ubuntu)

 Wineの最新版は、Ver.7 ですが、Ubuntu 22.04に対応したWineの安定版は Ver. 6となっています。安定版を入れるには、Ubuntu ソフトウェアから検索していれるか、基本的には

sudo apt install wine

で、インストールできます。

Ver. 7を入れたい方は、例えば以下のサイトをご覧ください (筆者の方では未検証です)。

qiita.com

・アプリケーションソフトのインストール

 Windowsインストーラーをダウンロードし、適当なディレクトリにコピーします。

ターミナルコンソールで、カレントディレクトリをそのディレクトリに移してから

wine インストーラーファイル名

で、インストーラが起動し、メニューのアイコンまで一気に作ってくれます。

Mac OS

 Mac OS では Wine crossover を使います。しかし、これには商用版の Crossover Macオープンソース版の Crossover 21 があり、バイナリーファイルの商用版は年$59がかかります。ただ、Wine crossoverのソースコード自体は無料で公開されていますので、自分でソースコードからコンパイルしたり、商用版とは別にbuildしたものなら無料です。homebrewを使ってインストールすると商用版とは別buildになりますので、無料で使えます。

 Mac OSでのWineのインストール方法は、ARTをMac OSにインストールする方法を案内した記事に書きましたので、そちらをご参考ください。

yasuo-ssi.hatenablog.com また、アプリケーションソフトのインストールの仕方も、基本Linux と同じですが、エイリアスの作り方だけ異なります。これも上記記事をご参照ください。

 

 なお、ソースコードから Crossover 21 をコンパイルする記事をアップされている方がいらっしゃいました。私の方では未検証ですが、ご参考に。

qiita.com

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Wine公式ページ

WineHQ Wiki

 

https://dl.winehq.org/share/images/winehq_logo_glass_sm.png

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[追加関連情報]

yasuo-ssi.hatenablog.com

Photoshopでの黄変フィルムの補正チュートリアルビデオを見つけました

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 Photoshopを使って古く黄色くなったフィルムを補正するチュートリアルビデオを見つけました。当然日本語のチュートリアルではなく、英語です。このビデオを見ていると、どうもこれは不均等黄変フィルムに近いようです。というのはビデオの途中で、カラーバランスを取ると、黄変が不均等に現れるからです。3年前に散々探したときはこのような不均等な変色を補正するようなチュートリアルは全く見当たりませんでしたが... 昨年1月末に投稿されたようです。もっとも3年前にこのようなものを見つけていたら、自分で黄変補正ツールを開発しようとは思わなかっただろうし、ひょっとすると今頃 Adobe の年間サブスクリプションも契約していたかもしれないので、当時見つからなくてむしろ良かったのかもしれません。

www.youtube.com

 要は、大まかな部分では Photoshop の自動補正で、Enhance per channel contrast (チャンネルごとのコントラストを強調) オプションとSnap neutral midtone (中間色をスナップ) オプションを併用して、全体の色調を補正し、部分的に変色している部分は、L*a*b*にチャンネル分解をして、Labの各チャンネルごとに、Gamma値を調整したり、部分的に他のチャンネル情報を流用したりして補正していく、ということのようです。

 手持ちのいささか古い Photoshop CS4 で、そんな機能があったかな、と思って調べてみると、ありました。但しビデオにある最新バージョンとは場所が違います。ビデオでは、トーンカーブの調整レイヤーにおいて Auto ボタンを押すとそのオプションとして出てきます(こちらのAdobeのマニュアル参照)。一方、CS4では、トーンカーブの自動補正にはなく、レベル補正にありました。また調整レイヤーだと使えないなど、手順はビデオとは変える必要がありますが、CS4でもできなくはなさそうです。

チャンネルごとのコントラストを強調 (CS4)

 

中間色をスナップ (CS4)

 最新バージョンのPhotoshopを持っていないのではっきりとは分かりませんが、CS4での適用結果のヒストグラムを見る限り、「チャンネルごとのコントラストを強調」オプションとは、どうやら GIMP の平滑化(equalize = ヒストグラム平坦化)に近いようです。ヒストグラムのパターンも似ています。こんなところに機能が潜んでいたのか... という感じです。

 そして「中間色をスナップ」とは、どうも先ほど挙げたAdobeのマニュアルを見ると、要は、自動カラー補正、つまり画像全体を対象としたホワイトバランスの自動調整のことのようです。GIMPだと平滑化を掛けた後、ホワイトバランスの自動調整を掛けるイメージでしょうか。

 ただ、いきなり全体を対象にこれを適用するとうまく補正できないので、変色の平均的なところをサンプリングして、マスクを作り、そこを基準にEnhance per channel contrast (チャンネルごとのコントラストを強調) オプションとSnap neutral midtone (中間色をスナップ) オプションを併用して、全体の色調を補正し、その後最後にマスクを外すことで、全体に対して適用することで全体の色調を整る、ということが一つのポイントのようです。要は、全体ではなくローカルな一部分を基準としたヒストグラム平坦化(おそらく)と自動ホワイトバランス調整を、調整レイヤー機能を使って全体に掛ける、ということです。

 その次に、局所的な変色部分の補正を行っています。これは他チャンネルの情報を、変色しているチャンネルに流用・加工して補正しているのですが、そのためのチャンネル分解で、RGBではなく、L*a*b*を使っています。L*a*b*を使う理由は、L* (明度) が主に形やテクスチャ情報(ビデオの中では details という用語を使っています)をもち、a* (G - Mg), b* (B - Y) が主に色情報を扱うので (とはいえ完全に分離できるわけではありませんが)、形やテクスチャ情報と色情報を比較的容易に分離できるという理由のようです。

 ただ、私の拡張疑似フラットフィールで補正アルゴリズムでも、後日お示ししたいと思いますが、色情報とテクスチャ情報の分離は可能です。

 ただ、このビデオで紹介されている作業、不均等変色部分が多いと結構大変なマニュアル作業になりそうですし、おそらく私のBチャンネル再建法 & マスクを使った追加補正の方が早い時間での補正が可能ではないかと思います。 

 というのは、少なくとも言えることは、このチュートリアルビデオでは、不均等に、b*チャンネルのテクスチャや色情報が失われている部分を、Lチャンネルからその情報をコピーして流用して補修しています。その一方、私のBチャンネル再建法では、Bチャンネルのテクスチャの補修は、そもそも全体的に G チャンネルの情報を混入することで補修しているので、変色している場所ごとにいちいち他チャンネルから情報をコピーしてガンマ補正して貼り付けるという面倒な作業を行なう必要がありません。したがってこのビデオで指南している方法で補正するよりは遥かに短い時間で補正することができます。しかもこの様に変色している場合はBチャンネルの情報も荒れていることが多いので、Gチャンネルのテクスチャ情報を全面的に混入したほうが望ましいです。おそらく、このチュートリアルビデオで扱っている画像を最終的に仕上げるまでに1時間以上かかるものと思われます。

 また、どんな黄変画像でも、常にEnhance per channel contrast (チャンネルごとのコントラストを強調) オプションとSnap neutral midtone (中間色をスナップ) オプションの併用が有効かどうかも分からないと思います。仮に「チャンネルごとのコントラストを強調」がヒストグラムの平滑化だとしたら、今までの経験だと、ヒストグラムの平滑化がうまくいく場合もあるし、いかない場合もあるからです。これについては、GIMPPhotoshopとのアルゴリズム差がありうるので断言できませんが。

 ただ、オリジナルのサンプルファイルが公開されているわけではないので、私の方法で同等の結果が出せるかどうか、検証はできません。

 とは言え、RGB以外のチャンネル分解を使ってみるというアイディアは検討の余地があるようにも思われます。また、画像の不均等変色部分は他チャンネル情報を流用して補正するという基本的な考え方は、私のBチャンネル再建法と共通しています。

 ともあれ、あくまでも Photoshopにこだわって不均等黄変の補正をやってみたいという方は、参照されるとよいかと思います。

 

拡張疑似フラットフィールド補正アルゴリズム自動調整で効果不十分な場合、マニュアル調整はどれほど効果を生むか?

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 8月投稿の記事で、拡張疑似フラットフィールド補正アルゴリズムだけで、十分黄変効果が得られないのは、画像が荒れているからではないか、と書きました。確かに手持ちのフィルム画像では、荒れた画像で効果が十分得られないことが多いのですが、その後投稿した記事に書いたように、それはどうやら粒状性の問題ではなく、単純に BチャンネルとGチャンネルの画像値の分布の相関の問題であることが明らかになりました。

 そこで、マニュアルで調整してみるとどのように改善するか試してみました。比較対象とするGチャンネルの明度を上昇させることで補正結果がどう異なるかを見てみました。なお調整量のスケールは 8 bit相当(0~255)の値です。

 いずれもGチャンネルミキシングアルゴリズム併用なしで、拡張疑似フラットフィールド補正アルゴリズムのみの効果です。

 まず、オリジナルです。

オリジナル B チャンネル

 なお、この画像は、輝度の平均値は111.7 標準偏差は44.6 (8bit換算値) です。輝度の最大値、最小値は 255.9~0.0です。

 次に、マニュアル調整なしで自動調整のみ適用したデフォルトの補正結果です。

自動調整・マニュアル補正量調整なし Sigma = 20
オリジナル画像サイズ 横1920 pixels

 少しは改善していますが、補正量は今一つです。次はマニュアルで + 10です。

補正量調整 マニュアル +10

 上の画像よりは明るくはなっており、補正量が増えているのは間違いありませんが...

補正量調整 マニュアル +25

 +25まで上げてだいぶ黄変が減った感じがします。ホームの不均質感もだいぶ軽減しています。

補正量調整 マニュアル +50

 +50まで上げると、ホームがだいぶ均質になり、空も改善していますが、全体にちょっと薄すぎる(明るすぎる)ような気もします。適切な調整量は + 25~50 の間あたりのようにも思えます。ひょっとすると、標準偏差分 (約44) 引き上げるというあたりが正解かもしれません。ただし、Gチャンネルのミキシングを前提とするなら、Gチャンネルのミキシングでやや暗くなりますので、50でも適切かもしれません。

 

 これに関しては、他のダメージの大きい画像を読み込んで、最大公約数的な適切な補正量 (例えば標準偏差分引き上げる等) を決め打ちできるのか、できないのか調査してみなければなりません。

 このように、経験的に画像を調べて補正量を決めようというのは、基本的には AI と同じ考え方です。ただ AI の場合、判定のために読み込ませる画像の数がかなり膨大だという違いがあるだけです。

 

ART のカラー/トーン補正LUTモードで ARRI Alexa 用のLUTをダウンロードして使ってみた (Windows)

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 ARTのカラー/トーン補正にVer. 1.16から LUT モードと clf形式のLUTのサポートが追加されましたので、試してみました。Griggio 氏は映像業界で使われている高精度のLUT (ルックアップテーブル) が使えると強調していたので、ARRI の業務用ビデオカメラ、Alexa 用の3D LUTをダウンロードして使ってみました。

 ダウンロード先はこちらです。

www.arri.com この中に、Alexa 35 3D - Lut - Package というのがありますので、とりあえずダウンロードしてみました。ダウンロードしてみると、ファイルがいっぱいあってどれがどれだか分かりません。

ZIPファイルに含まれているLUTの一覧

 とりあえず、空いているUSBメモリに片っ端から解凍したものをコピーしました。次に、ARTのホームページから ociomakeclf.exe をダウンロードして同じディレクトリに置きます。

bitbucket.org

 これをいちいち手で変換していると面倒なので、例えば convert.bat という名前で、これを片っ端からコンバートするバッチファイルを作ります。中身は以下の通りです。

 

@echo off
for %%i in (*.cube) do ociomakeclf.exe "%%i" "%%i".clf --csc ARRI_ALEXA-LOGC-EI800-AWG

 

このままコピペして作ってください。

そうしたら、Windowsコマンドプロンプトを起動し、カレントディレクトリを、LUTとociomakeclf.exe のあるディレクトリにします。

そして、

convert.bat

と打つと、cube形式のLUTがclf形式に一挙に変換されます。

 変換したclfファイルを適当なディレクトリにコピーし、ARTを起動して、カラー/トーン補正をLUTモードにし、変換したclfファイルのどれかを読み込ませると、LUTが適用されます。

以下サンプルです。

まずオリジナルです。

オリジナル

 どれがどれだか分からないので、適当にLUTを適用します。

LUT 5210 Vibrant
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Bチャンネル再建法ツール 補正 Tips: 周辺補正レイヤーと他レイヤーの境界が目立つ場合は?

Tipsf:id:yasuo_ssi:20210310145522j:plain

 Bチャンネル再建法ツールを使って、GIMP上で、周辺部がBチャンネル情報抜けを起こしているファイルを補正編集する際に、周辺部補正レイヤーとそれ以外の部分の境界線がくっきり目立つ場合があります(下図)。

周辺補正レイヤーと近景補正レイヤーの目立つ境界

 このような場合の対策について論じます。

1. 近景補正レイヤーのマスクをOffにする、もしくは、近景補正レイヤーのマスクの周辺部を白く塗る

 近景補正レイヤーには、再建BチャンネルとGチャンネルの差をある程度維持するために、BチャンネルがGチャンネルの値より相対的に高い場合、その部分、オリジナルBチャンネル情報を反映させるためのマスクが掛かっています。しかし、周辺部の情報抜け部分においてオリジナル情報が反映されることで、境界がスムーズにならず境界線が目立つ可能性があります。

近景補正レイヤー用 Type2 マスク (デフォルト)

 これを補正するには、近景補正レイヤー用マスクの周辺部を、白塗りして、オリジナル部分の情報が反映しないようにするか、場合によっては、近景補正レイヤー用マスクを無効にすることで、より境界線が目立たないようにすることができる可能性があります。

周辺を白抜きに編集

 

白抜き後

 編集前よりだいぶ目立たなくなりました。

2. 周辺補正レイヤーのマスクの周辺の白抜き部分を拡大編集する

 逆に、周辺補正レイヤーにかかっているマスクを編集する方法もあります。

周辺部補正レイヤー用マスク

 上のマスクの周辺の白抜き部分を、マスク編集で、消しゴムツールなどを使って、もっと範囲を拡大し、スムーズにつながるようにします。なお本来このマスクは周辺補正を行わない中心部を黒く塗りつぶしますが、ここでは周辺の補正状況を検証するだけですので、中心部の塗りつぶしは省略します。

境界が目立つ周辺部の白抜き領域を拡大編集

編集後の再建Bマスクプレビュー

 1. より結果が良好でスムーズです。

3. 周辺調整閾値の値を変更

 そもそも最初からImageJのプラグインを動かす際に閾値を調整し、予め周辺部補正レイヤーの白抜き部分の範囲を大きくしておくという方法もあります。閾値を上げると補正部の濃度が上がり、下げると濃度が下がります。

ダイアログ

  上の例では閾値を30まで上げています。なお横に範囲が "(-10 to 20)" とありますがこれは目安値なので、20で頭打ちになるわけではありません。閾値を30まで上げ、さらに周辺部補正レイヤーの不透明度を調整した結果が下記です。

調整後の周辺補正レイヤー

 3つの方法の中では一番結果が劣るようです。Periphery Adjust Threshold の調整はあまり効果がなさそうなので、将来のアップデートではこの値の調整をノービスモードメニューから外すかもしれません。

 

 以上3つの方法の中でこの画像の場合は、2. が最も効果的でした。この結果は画像によって異なる可能性があります。また、場合によってはこれらの方法を併用するというのもあると思います。但し、1と2の併用は無意味です。というのは2の白抜きした部分は完全不透明になりますので、その下にある近景補正レイヤーは隠れてしまい、影響がなくなるからです。