省型旧形国電の残影を求めて

戦前型旧形国電および鉄道と変褪色フィルム写真を中心とした写真補正編集の話題を扱います。他のサイトでは得られない、筆者独自開発の写真補正ツールや補正技法についても情報提供しています。写真補正技法への質問はコメント欄へどうぞ

RawTherapee 5.9 rc1、ファーストインプレッション

 先日 RawTherapee 次バージョン 5.9 の rc1が出たとお伝えしましたが、動かしてみました。ロゴに5.9と出てきます。でも詳細バージョンは 5.8-3166です。なお、だいぶコードが増えたようで、5.8に比べて起動に時間がかかるようになりました。

Raw Therapee 5.9 rc1のロゴ

 とりあえず、新機能の内、筆者が気になった3つの機能について見ていきます。またローカル編集が付加されましたが、これは ART のローカル編集とは異なります。このローカル編集機能については後日別途見ていきたいと思います。以下、機能名は5.9 rc1の日本語訳に従います。なお、RawTherapeeの熱心なユーザの方は、既に開発版を使用されておられる方が多いと思いますので、目新しいものではないかもしれません。

 また、最後に ART との比較も行います。

■ネガフィルム機能

 ネガフィルム機能は、Rawでなくても使えるようになっているのは確認しました。ARTは、依然Rawのみ有効ですので(現像済みファイルにも掛けられますが結果はめちゃくちゃになります)、これはARTより一歩進んだ、歓迎すべき機能です。

 

■ホワイトバランス

 新しく、[色温度の相関関係] というオプションが導入されました。例を見てみます。

まず、朝の6時に撮った猫の写真。カメラはNikonのD5500です。

ホワイトバランス: カメラ

 まず、デフォルトで読み込んだ状態です。カメラのホワイトバランスを昼光にしていたので、ちょっと赤っぽくなっています。

 次は、ホワイトバランスを従来方式、つまり[RGBグレー] に設定した状態です。

ホワイトバランス: RGBグレー

 RGBが揃えられ、背景がグレーになっています。朝日の色被りは抑えられています。ただ表現意図としては正解とは必ずしも言えません。次は、新しい方式です。

ホワイトバランス: 色温度の相関関係

 カメラのホワイトバランスと酷似しています。少なくとも色を全部混ぜるとニュートラルグレーになる、という前提に立っていないことは分かります。

 

 また別の写真で、NikonD3200を使ったケースですが... まずデフォルトのカメラのホワイトバランスです。

ホワイトバランス: カメラ

 次は、従来方式のホワイトバランス自動 (RGBグレー)。

ホワイトバランス: RGBグレー

 若干冷たい方向に振れました。そして、新方式...

ホワイトバランス: 色温度の相関関係

 カメラのホワイトバランスに似ていますが、微妙に異なります。ただ、従来方式に比べて暖かいほうに振れています。

 おおむねNikonのカメラのホワイトバランスと結構似たパターンか、微妙に異なるようです。またOlympusのカメラでも調べてみましたが、そちらの方は、若干青みがかる方向に振れることが多いようです。

 次はフィルムスキャンを行った画像の例です。まずオリジナルから

オリジナル

次は従来方式です。

ホワイトバランス: RGBグレー

 ほとんどオリジナルと変化がありません。

次は新方式。

ホワイトバランス: 色温度の相関関係

 非常に青くなってしまいました。

なお、空の部分をピックアップしてみると

ホワイトバランス: 部分ピックアップ (空)

 これが一番適切です。

フィルムスキャンを行った画像の場合は、新方式は大きく青いほうに振れることが多いようですが、黄変補正を掛けているせいかもしれません。

 元のカメラのマトリックスなどの違いにより、結構効果が異なるようです。また当然ながら元画像が色被り気味の場合は従来方式との差が大きくなりそうです。どれが正解とは一概に言えないと思います。ただ、おおむね従来方式のRGBグレーの方が好結果が出るケースが多いようですので、新方式は、RGBグレーでは今一つの場合に使う、ということで良いでしょう。

 

アブストラクトプロファイル

 これは、通常の画像処理を念頭に考えると良く分からない機能です。要は、iccプロファイルを変更しないまま、TRC (および原色設定) だけを変更する、という機能なので、正常な画像にこれを適用すると、当然不適切なトーンになります。単に画像の明るさを変えたいということだったら、単にガンマ補正を掛ければよいのでは、と思ってしまいますが...

 ただ、本来あるべき iccプロファイルが欠けてしまっていて、元の色空間としてどれを使って描かれた画像なのかがわからなくなってしまった画像の、元の色空間を手探りで探求する、という目的には使えると思います。というか、それがこの機能の目的としか考えられません。あるいは、何らかのミスで、iccプロファイルが画像のTRCと食い違ってつけられてしまった画像を復旧させるといった用途に使うことが考えられます。
 あとは、TRCと icc プロファイルが不整合だとこういう画像ができますよ、というサンプルを作る、というあたりでしょうか。

 あと、全体の色調が同も今一つと言う場合、原色設定を調整して改善を図るという利用方法もあると思いますが、その場合 ART のチャンネルミキサーの原色調整の方が使いやすいように思います。スペクトラムグラフを見ながら調整を行う RawTherapeeの方が調整方法がより原理的ではありますが。

 いずれにしろ、相当なニッチ需要を満たす機能と言えますが、そのあたりが RawTherapee らしさかと思います。

 

■RawTherapee5.8 や ART (1.16.3) との比較

 以前紹介した Google のカメラアプリが作成する DNG ファイルは ART でプレビューイメージとはかなり違って現像されてしまうという話題がありました。

yasuo-ssi.hatenablog.com そこに掲載されていたサンプルファイルですが、RawTherapeeでデフォルトで読み込んだ状態の方が ART でデフォルトで読み込んだものよりもかなり良い... と思ったらその大きな違いはトーンカーブのデフォルトモードの違いにありました。ARTもRawTherapeeに合わせてデフォルトモードをフィルム調に変えると、くすんでいた色調がRT同様に改善されます。

 とはいえ、RawTherapeeのデフォルトで読み込んだ画像であっても、埋め込まれた Jpeg イメージとかなり乖離があります。

 

 なお、手持ちのRawファイルでも確認しました。まずOlympusの E-M1 MarkIIIです。

E-M1 Mark III RawTherapeeデフォルト

 カメラの標準プロファイルを使っています。またデフォルトのプロファイルは Auto Matched Curve - iso Low です。

 因みにRawTherapee 5.8を使って同じ標準プロファイル+ Auto Matched Curve で読み込んでみると...

同じファイルを Ver. 5.8で読み込む

 かなりヒストグラムが異なります。カメラの標準プロファイルにかなり改良が加わっているようです。

 

次に、ARTで読み込んでみます。

E-M1 Mark III ART デフォルト

 デフォルトのカメラの標準的プロファイル(+ダイナミックプロファイル)を使った結果ですと、画像を見る限りあまり差がないようですが、ヒストグラムはかなり差があります。ARTはRawTherapee 5.8との間でも違いがありました。5.9と比べると、ARTの標準プロファイルでは、暗いほうの山の方が高く、明るいほうの山が低くなっています。但し、AdobeのDCPプロファイル (natural) を流用して、DCPトーンカーブ、ルックテーブル、露出オフセットをオンにすると山がRawTherapeeの標準プロファイル使用に近づきます。

E-M1 Mark III ART adobe DCPプロファイル流用

 一方、RawTherapeeに adobe DCPプロファイルを適用するとどうでしょうか。とりあえず流用して DCPトーンカーブのみ外すと...

E-M1 Mark III RawTherapee adobe DCPプロファイル流用

 変わるには、変わりますが、あまり変化がない様子です。ところがトーンカーブをオンにすると...

E-M1 Mark III RawTherapee adobe DCPプロファイル流用
トーンカーブ On

 ヒストグラムがかなり変わります。全体的なコントラストは下がります。DCPプロファイルのトーンカーブは使用しないほうが良い感じです。


 最後にOM Workspaceでデフォルト処理したTIFFファイルを読ませてみると...

OM Workspace デフォルト処理

 RawTherapee 5.9のデフォルトやARTにDCPプロファイルを適用した結果にある程度似ますが、完全に同じではありません。ややシャドウ部の山が高くなります。

 

 以上の限られた範囲では、RawTherapeeの標準カメラプロファイルは、5.8やARTに比べると、よりDCPプロファイルを適用したのに近い結果が出るような気がします。ただ ART でカメラ固有のDCPプロファイルを適用すると、同様な結果が得られます。また ART では DCPプロファイルの適用が画像処理パイプラインの後ろの方に移動されているので、適用することによる副作用は少なくなっているはずです。

 ただ、どれが正解なのかというのはなかなか言い難いです。またDCPプロファイルを適用すると純正Raw現像ソフトの適用結果により似せることはできますが、それでも完全に一致するわけではありません。このブログでも何度も言っていますが、純正結果、カメラ出しJpegに近づけたいなら、純正ソフトを使うのが一番だと思います。純正ソフトの調整項目の少なさ、使い勝手が問題ならば、一旦純正ソフトでデフォルト設定のまま16bit TIFFで出力し、その結果を他のサードパーティーのRaw現像ソフト等に読み込んで調整することをお勧めします。純正ソフトの処理が遅いのが問題なら、バッチ処理等で夜中にでも現像済み16bit TIFFファイルを作って置き、それを別のRaw現像ソフト等で読み込むのが良いでしょう。

 というわけで、ART と RawTherapeeの違いについて、一点注意を...  ARTでは Ver. 1.11 からトーンカーブのモードにニュートラルモードが付け加わっており、それがデフォルトになっています。それに対し RawTherapee はフィルム調がデフォルトです。ニュートラルモードではトーンカーブを動かしたときの彩度の変化や色ずれを最少にするモードですが、その分、画像やカメラ機種によっては、ARTは、RawTherapeeに比べて、全般に色が冴えなく、くすんで見えることがあります(もちろんあまり変わらない場合もあります)その場合は、モードをフィルム調に直すとRawTherapee同様にすっきり見えるようになります。ご注意ください。

 また、ARTとRawTherapeeでは、画像処理パイプライン上での、DCPプロファイルの適用位置が異なりますので (ARTはリニア空間での画像処理の終端の方で適用しますが、RawTherapeeは、RawTherapeeの画像処理エンジンのプロトタイプとなった、DCRawの仕様を引き継ぎ、比較的早い段階で適用されるものと思われます)、適用結果も異なります。

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[追記] なお、バイナリーのダウンロードは下記から可能になっています。

Windows (5.9_5.8 とあるものをお選びください)

keybase.pub

Mac OS (latest をお選びください)

keybase.pub