省型旧形国電の残影を求めて

戦前型旧形国電および鉄道と変褪色フィルム写真を中心とした写真補正編集の話題を扱います。他のサイトでは得られない、筆者独自開発の写真補正ツールや補正技法についても情報提供しています。写真補正技法への質問はコメント欄へどうぞ

ART / RawTherapeeのSigma Foveon機 X3F Rawファイルへの対応状況 - DP2 Merrill編

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 2021.11.30に ART がVer. 1.11に上がったことにより、Rawファイル読み込みエンジンが DCRaw から LibRawに変更になりました。これにより対応カメラ Rawファイルの幅が大幅に広がっています。

 Sigma Foveon機のX3Fファイルも、今まではDP2 Merrillまでは読み込めていましたが、今回 Quattro, Quattro Hが含まれています。なお、X3I ファイルはLibRaw非対応のため読み込めません。

 ただ、同様に読み込みエンジンにLibRawを採用している Affinity Photoでは、X3Fファイルは一応読み込めるものの、現像結果がひどいと問題になり、Affinity Photo側はそれはLibRawのせいである、LibRaw側は、こちらはデータをアプリに渡しているだけで、責任はAffinity Photo側にあると論議になっていたようです*1

 そこで今回 ART で読み込んでみて結果がどうなるかを検証してみます。なお、試用したRawファイルは以下でフリーで公開されているX3F データを使わせていただきました。

 

rawsamples.ch

illlor2lli.blogspot.com

www.ephotozine.com

DP2 Merrill

 結論から言うと、読み込んだ結果はあまり好ましくありません。まず純正ソフトによる現像結果から...

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Merrill 純正ソフトデフォルト

 次にARTで読み込んだデフォルトです。

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ART 1.11 読み込みデフォルト

 滅茶苦茶色被りしています。しかもなぜか不均等に色被りしています。これはDCrawを使っていた時も同じでした。ベクトルスコープを見ても相当外れています。ART付属のカメラ標準プロファイルがFoveonセンサー機と合わないのかもしれません。

 

 さらに、ホワイトバランスの自動補正を掛けたりいろいろ補正を試みましたが不均等な色被りは補正できません。そこで考えて、AdobeのDCPプロファイルを流用することにしました。と言っても、Adobe製品はX3Fファイルに対するプロファイル非対応なので、DCPプロファイルがありません。しかしDNG形式を採用しているSigma fp, fp Lに関してはあります。Sigma fp, fp Lはベイヤーセンサーなので、うまくいくかどうか分かりませんが、そのプロファイルを流用してみます。

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Sigma fp L のDCPプロファイルの流用

 流用して、DCPトーンカーブやLook table、 露出オフセットにチェックをつけるとだいぶましになりました。しかしまだホワイトバランスは取れていません。

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流用結果

 そこで、ホワイトバランス自動調整を掛けます。するとバランスはとれますが、くすんだ感じになります。

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ホワイトバランス自動調整

そこで霞除去を掛け彩度を上げます。

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霞除去追加

 すこしましになりましたが、やはり彩度がダメです。X-riteのカラーチェッカーが写っている部分の色自体は、まだデフォルトの方がましです。それ以外の部分は激しく色被りしていますが、なぜなのでしょう。他の彩度調節を行うと、ホワイトバランスがずれます。どうしてもやるなら一旦彩度を上げたものをTIFFに現像しそれを読み込みなおしてホワイトバランス調節をしないといけないようです。

 なお、デフォルトの読込状態でかなり不均等な色被りがかかるのは、DCRawバージョンの時も同じでした。ただ、Sigma fp LのDCPプロファイルを流用したところ、少しはましになった、ということは、しっかりしたDCPプロファイルがあれば適切な現像ができる可能性がある、ということかと思います。上の写真はカラーチェッカーが写っていますが、特に赤の色が冴えずオレンジに寄っています。これの彩度を上げようとすると、全体が赤っぽくなってしまいます。やはり色を非線形に変換する変換テーブル (Look up talbe) が必要なように思われます。

 というわけで、誰かが適切なカラープロファイルを作るまでは、現状ではMerrillに関しては、純正ソフト抜きで ART を使うメリットはあまりなさそうです。純正ソフトで一旦デフォルト現像したものを純正ソフトで不足する編集機能を使うために ART に読み込ませて補正する、というのが現実的だと思います。カメラの持ち味が好きならメーカーの純正ソフトで現像するのが基本というのが筆者の持論ですが、これが非常に当てはまるのが当機のようです。

 なお、Merrillの前のSDやDPシリーズでは、ちょっと試した限りではここまでひどく色がおかしくならないようで、十分に実用になるような印象です。

 因みに、darktable の方はFoveonカメラには全く無力です。そもそもX3Fファイルは読み込めませんし、X3FファイルをDNGに変換して読み込ませたとしても激しく色被りしてしまい、全く使い物になりません。

 なお、DCPプロファイルは、追加投資は必要ですが、ユーザが作ることができますSigma側からのDCPプロファイルの供給は望み薄ですので、DP2 Merrillをお持ちのどなたかがボランティアでDCPプロファイルを作成して公開すれば他の方の助けになるかと思います。

RawPedia DCPカラープロファイルの作り方
https://rawpedia.rawtherapee.com/How_to_create_DCP_color_profiles/jp

 X-Rite ColorChecker Passport Photoなどが必要ですが、2万円強ぐらいのようです。あとは無料のツールでできるはずです。

 で、実はネットを探したら、Sigma Quattro, Merrill用として、自作のDCPプロファイルを公開されている方がいらっしゃいました。それが以下の記事です。

www.dpreview.com ただ、このファイル、Quattro HでDCPプロファイルを作られているようですが、上記Merrillファイルに適用したところ、Adobe製の Sigma fp L のプロファイルよりもいまいちの結果となりました。

 

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ボランティアDCPプロファイル適用結果

 Quattro Hだとうまくいくかもしれませんが、Merrillには不適なようです。

因みに、Merrill用のDCPプロファイルをを探して、いろいろ情報を探していたら、こんなものが出てきました。

■Kalpanika X3F

 コマンドラインベースで、X3FファイルをDNG形式ファイルや、リニアなTIFFファイルにコンバートしてくれるツールです。ダウンロードは以下から。なおQuattro, および H には非対応のようです。無償で利用できます。

github.com Linux, Mac OS X, Windows対応です。SPPの遅さが我慢できないという方はこれを使ってバッチコンバートして、他の編集ソフトで読み込んで編集する、といった使い方が考えられます。

■Merrill Color Pack

giuseppetorre.co.uk 上の、Kalpanika用 Merrill カラーパックです。Merrillの色をCanonやFujiのカメラのようにする、というのですが... こちらは有償です。

 

 でも、日本ではカメラメーカーは多いのに、なぜ、こういうツールを考える人がいないのでしょうか。

 

*1:

以下のスレッドをご参照ください。なおAffinity Photoのオンラインサポートからは既に情報は削除されています。

www.libraw.org