省型旧形国電の残影を求めて

戦前型旧形国電および鉄道と変褪色フィルム写真を中心とした写真補正編集の話題を扱います。他のサイトでは得られない、筆者独自開発の写真補正ツールや補正技法についても情報提供しています。写真補正技法への質問はコメント欄へどうぞ

Raw ファイル、 Jpeg ファイルと Raw現像ソフトとの関連

 デジタルカメラを使っている皆さんはファイルをどの形式で保存されているでしょうか? Raw or Jpeg? ところで、その違いについてどの程度ご存じですか? おそらく Jpeg は圧縮されたファイルで、Rawファイルは非圧縮ファイル程度はご存じかと思います。また、Rawの方が情報量が多いという話も聞いたことはあるでしょう。

 

■ Raw ファイルは基本的にセンサーが受け取ったデータを保存した形式

 通常のデジタルカメラの場合、大抵は、ベイヤーセンサーもしくは X-Trans センサー(富士フィルム) を使っています。このセンサーは1ピクセル当たり、R, G, B のどれか一つのチャンネルしか反応しません。しかも G に反応するピクセルを多く配置し、R, B に反応するピクセルは少なく配置されています。従って Raw ファイルをそのまま見ると緑っぽくなってしまいます。これをソフトウェア (カメラ内ソフト or PC上の Raw現像ソフト) によって各ピクセル毎に R, G, B データが揃っているように補間・エミュレートして、正しく見えるように加工しますが、その処理過程をデモザイクと言います。

デモザイク前の Raw イメージ

 カメラの Raw ファイルとはこのデモザイク前のデータに、通常は可逆的圧縮を行って(ロスのない圧縮)そのままファイルにしたものであり、Jpeg ファイルは、デモザイク後、種々の編集を経て、さらに非可逆的圧縮処理(ロスのある圧縮)を行って保存したファイルです。つまり、Raw ファイルは基本的にセンサーが受け取ったデータを保存した形式です。なお、デモザイク前に何らかの加工を行っている場合は、その加工結果がRaw ファイルにイメージデータとして保存されている場合もあります。例えば Canon R6 mark ii はノイズ低減をオフにできないようですが、おそらくデモザイク前に、ひょっとするとセンサーベースでノイズ低減が行われている可能性があり、それが Raw ファイルベースで結果が保存されているためと思われます。

 なお、Sigma の Foveon センサーやかつての CCD センサーを使ったカメラでは1ピクセル当たり、RGBが揃った形でデータが得られるので、デモザイク過程はありません。従って 同じRawファイルでも、最初からRGBデータが揃っています。

 なお、ベイヤーや X-trans センサーから得られた Raw ファイルは、1 ピクセルあたり1 チャンネルしかデータがありませんので、RGB データが揃った TIFF ファイルなどに比べてデータ量は 1/3 になります。

 

■ カメラで行った設定はどの程度 Rawファイルに反映されるのか

 カメラにはシーンモードだとか、ピクチャーモード、アートフィルターなどと呼ばれる画像の色調を変えるオプションがついています。あるいは暗いシーンの高感度撮影に対応したノイズ低減機能がついている場合もあります。また Nikon の場合、露光などを変更するアクティブ D ライティングという機能がついています。さらに HDR 合成などの機能がついている場合もあります。これらは Raw ファイルに影響を与えるのでしょうか?

 結論から言うと、物理的に露出やシャッタースピードをコントロールしていない限り、それらのカメラ内設定は Raw ファイル内のイメージデータ自体には何の影響も与えません。それらの機能は Raw データを元にカメラ内でソフトウェア的に作られる効果だからです。ただし、カメラでの設定は、イメージデータとしては保存されませんが、このような補正をやったということを記したメタデータとして記録されます。

 またHDRや深度合成、ピクセルシフト撮影等の場合、通常 Jpeg でしか保存できません。これは複数の Raw ファイルをデモザイクしてから合成して1枚の 合成画像を仕上げているためです。

 但し、Rawファイルには、Rawデータ以外に、通常はプレビュー用のJpeg画像が含まれています。このプレビュー画像データにはこれらの設定が反映されます。またこれらの機能は、ソフトウェア的に実現していますので、カメラメーカー製純正 Raw 現像ソフトウェア上に、カメラ内と同じアルゴリズムが搭載されてさえいれば、Raw 現像ソフト上で同じ効果を再現することが出来ます。

 つまり、Raw ファイルのメタデータに、どのような設定を指示したかが書き込まれますので、通常カメラメーカーの純正 Raw 現像ソフトウェアを使えば、そのメタデータを読み込んでカメラ内で指示した結果をPC上で再現することができます。

 HDR等の合成処理画像の場合、合成画像作成用のオリジナルの複数の Raw ファイルが保存されており、かつ純正ソフトウェア上に、カメラ内と同じアルゴリズムが搭載されていれば、複数の Raw ファイルからソフトウェア的にHDR画像をPC上で合成することは可能です。例えば OM System (旧オリンパス) の OM Workplace はそのような画像合成処理のメニューを備えています。また、サードパーティーのフリーの RawTherapee や ART はペンタックスCanon に関して 4 枚の Raw ファイルからのピクセルシフト合成に対応しています*1。ただ、当然ながらサードパーティー製の Raw 現像ソフトがサポートしている画像合成アルゴリズムは、当然ながらメーカーのアルゴリズムとは異なりますので、カメラ内合成や純正ソフトによる合成結果とは、似ていたとしても、異なっています。

 また Nikon の純正ソフトウェア NX Studio では古いカメラの Raw ファイルに対し、最新のカメラの画像処理エンジンを適用することができます。要は画像処理エンジンとは、ハードウェアではなくカメラに登載されているソフトウェアですので、それをPC用の純正ソフトウェアに転用・搭載すればこのようなことが可能なのです。いわば Rawファイルで保存しておけば、古いカメラでも最新カメラと同等な撮影結果が得られるということです。

 

■ 純正ソフトを使わないとどうなるのか

 ということは、サードパーティーのRaw現像ソフトを使っているとどうなるのでしょうか。ホワイトバランスといったどのメーカーでも使われている単純な設定は、メタデータに書き込まれている限りサードパーティのソフトでも再現できます。しかし、当然サードパーティーのソフトには、著作権の問題がありますので、カメラ内で使っているのと同じメーカー独自のアルゴリズムやルックアップテーブルを搭載することはできません。場合によるとメーカーによってはカメラメーカーからライセンス供与されている場合もあるかもしれませんが*2、そうでない限り、サードパーティーのRaw現像ソフトでの処理結果は、純正ソフトの処理結果やカメラ内現像での処理結果と異なる結果になり、それらを再現することは基本的に不可能です当サイトでカメラメーカーの色作りが好きなら、純正ソフトを使えとたびたび強調しているのはそのためです

 ただ、サードパーティはカメラメーカーの絵作りを無視しているのかというと、必ずしもそうではなく、なるべくそれをエミュレートしようとしている場合が多いです。

 例えば Adobe は DCPプロファイルを作成しています。これは無料で配布しているDNGコンバーターに付属していますので、Adobe のソフトウェアを購入しなくても、だれでも無料で利用することができます。このDCP プロファイルは、写真の絵作りを決定するプロファイルです。そして、Adobe は、自社が推奨する絵作りを実現する DCP プロファイルのみならず、カメラの撮影結果から、カメラメーカーの絵作りをエミュレートした DCP プロファイルを作成して提供しています (但し、Canon の Rシリーズのミラーレス一眼のカメラ固有 DCP プロファイルが長い間提供されないことがありました)。これで、100%再現は無理でも、ある程度はカメラメーカーの絵作りの再現が可能になっています。私は使用していませんが、おそらくAdobeLightroom はこのAdobeがエミュレートしたDCPプロファイルを適用し、さらにメタデータから読み込んだデータを使って、カメラメーカーによる純正処理結果に近い結果を得られるようにしているものと思います。ただし、Adobe の DCP プロファイルは、カメラごとに Adobe スタンダードと、カメラ固有の両方のプロファイルがあります。Adobe スタンダードを使うと (おそらくそちらがデフォルトです)、Adobe が推奨する絵作りになり、カメラメーカーの絵作りをエミュレートしません。

 また フリーのRaw現像ソフト ART や RawTherapee も DCPプロファイルを読み込めます。そしてこれらのソフトウェアの場合デフォルトにダイナミックプロファイルを使っていれば、Rawファイルのメタデータからなるべくオリジナルの絵作りを再現しようとしますので、DCPプロファイルを使用することと併せて、純正処理結果に近似した結果を得られます。トーンカーブも、Rawファイルに含まれるプレビュー用 Jpeg 画像データから再現します。それでも、例えば Nikon のアクティブ D ライティングやCanon のオートライティングオプティマイザなどは、サードパーティーのソフトは同じアルゴリズムを持っていませんので、全く同じ結果を得られるとは限りません 。ART や RawTherapee なら Jpeg プレビューデータから得たトーンカーブから似た結果は得られるとは思いますが、100%の再現は無理なはずです。Lightroom の場合は、アクティブ D ライティング や オートライティングオプティマイザ等をエミュレートする手段は持っていないらしいので、Raw 現像では全般的に暗くなってしまうことがあるようです*3。これらについては、Lightroom ではプレビュー画像を参考にマニュアルで補正する必要があります。とはいえ、サードパーティーの Raw 現像ソフトで処理しようとするのは、カメラ出しとは異なる画像を得たいためと思われますので、画像加工の出発点としてなら、カメラ出し画像と厳密に同じでなくても、近似している程度で十分でしょう。

 また、各カメラメーカーのシーンモード、ピクチャーモード、アートフィルターに関しても、それを模したDCPプロファイルが、ある程度はAdobeから供給されています。またこれらのDCPプロファイルは、仮にAdobeが作成していなくても、所定のツールさえあれば、一般のユーザが作成することもできますし、その作成方法も公開されています*4。RawTherapee や ART に最初から付属しているカメラ固有DCPファイルはいずれもボランティアが作成したものです。

 なお、DCPプロファイルを読めない現像ソフトも、市販のものは、独自に カメラメーカの設定を模した iccプロファイル等を準備し、やはりメーカーに近い現像結果を得られるようにしているケースが多いと思います。

 なお、このような傾向とは異なる路線を歩んでいるのが、フリーの Raw現像ソフト darktable です。darktable が推進するシーン参照ワークフローでは、むしろカメラメーカーの絵作りを否定しているところから出発していますので、カメラメーカーの現像結果をエミュレートする手段を供給していません。darktable のライトルームのプレビューではカメラ設定通りの画面が表示されますが、ダークルームに入ると設定が解除されるのは、ライトルームのプレビューではカメラ内で現像したプレビュー用の Jpeg 画像が表示される一方、ダークルームでは、Rawデータがロードされ、かつ darktable はカメラ設定をエミュレートすることを行わないためです。darktable では、シーンモード等を含め、カメラメーカーの現像結果を再現することは最初から放棄すべきです。

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[追記]

 darktable でゼロから色作りを行うのはつらいという声に対し、以下の記事で紹介している情報を公開されている方がおられます。

yasuo-ssi.hatenablog.com

yasuo-ssi.hatenablog.com

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 なお、非推奨のディスプレイ参照ワークフローでは、ベースカーブが使用でき、これは Adobe のDCPプロファイルを基に作成しているようですので、ある程度カメラメーカーの現像結果に近いものがエミュレート可能なようです。ただ、シーンモード等まで対応しているのかどうかは分かりません。

 

■純正ソフトをOEM委託供給しているメーカー

 なお、フジフィルム、パナソニックペンタックス (一部機種) は純正 Raw現像ソフトを自社開発せず、市川ラボラトリーにOEM委託しており、SYLKYPIXのカメラメーカー限定版として無料で供給しています。また、Sony の場合、Imaging Edge Desktop という純正 Raw 現像ソフト以外に、Capture One Express (for Sony) が提供されています。このようなメーカーの場合、カメラ内現像の結果を純正ソフトのRaw現像で100%完全には再現できない可能性があります。というのは、メーカーが、カメラ内現像の独自アルゴリズム等をOEMメーカーに公開したくない、と考える場合があるからです。

 実際、富士フィルムでは、別途、パソコンにカメラを接続し、パソコンからカメラ内にある画像処理エンジン (カメラ内ソフトウェア) を使って現像を行う"X RAW STUDIO"というソフトウェアを供給しています。これは独自アルゴリズム等をOEMメーカーに公開したくないためこのような対策を取っているものと思われます。

 なお、オリンパスの OM Workspace も、自社でソフトウェアを開発しているにもかかわらず同様なカメラ内現像オプションをつけていますが、これはおそらく Windows版が NVIDIA の4G以上のメモリを積んだグラフィックカードのないパソコンでは一部の機能が使えないため (これは通常のノートパソコンには厳しい条件で、いわゆるゲーミング用ノートパソコンが必要になると思いますが...) の回避策と思われます。

*1:以下のRawPediaの記述参照。

rawpedia.rawtherapee.com

*2:例えば富士フィルムはカメラのフィルムシミュレーションのデータを SYLKYPIX や Lightroom 等にライセンス供与しているようです。

https://digitalcamera-support-ja.fujifilm.com/digitalcamerapcdetail?aid=000005232

*3:例えば、以下のようなことを書かれている方がおられます。

日々は多岐にわたり: アクティブD-ライティングとLightroomnoの関係はこれで解決

 ただ、ハイライトをクリッピングさせてしまうと、そこは完全にデータがなくなってしまいますので、仮に、アクティブ D ライティング等を使ってアンダー気味になってしまったら、Raw 現像ソフトの編集で修正するいうのが正解だと思います。従って、Lightroom で再現できないからと言って、アクティブ D ライティング等を切ってしまうというのは本末転倒です。この場合、Lightroom 上でトーンカーブ等を使ってマニュアルで補正すべきです。

 おそらくアクティブ D ライティング等は、ETTR (Exposing To The Right = 右合わせの露出) を実現する手段だと思われます。ETTR とは、画像のハイライトの最高値をぎりぎりセンサーがクリップしないハイエンドに (ヒストグラムの右端に) 合わせて撮影する手法です。例えば以下のビデオをご参照ください。

https://www.dpreview.com/videos/6058571708/dpreview-tv-what-is-ettr-in-photography-and-when-should-you-use-it

 なお、ネットを見ると ETTR を露出オーバー気味に撮影することと解説しているサイトがありますが、少なくともデジタルカメラ時代では誤りです。フィルム時代は、限界を超えたからと言っていきなりデータがクリップされることがありませんし、特にネガフィルムの場合は露光オーバーへの耐性・ラティテュードが高いので、オーバー気味に撮る、と解釈するのが正解だったかもしれませんが。ETTR で撮って、オーバー気味になるかアンダー気味になるかは画像によりけりで、ハイライトとシャドウのコントラストが高い画像ではアンダー気味に、逆にコントラストが低い画像ではオーバー気味になることが多いはずです。

 そして、ETTRで撮った画像を、見た目で適正な露出に自動的に補正して現像するアルゴリズムが、アクティブ D ライティング等と思われます。

*4:例えば、RawPedia の以下の記事参照。

rawpedia.rawtherapee.com

 また、下記ファイルも参照。

https://www.color.org/events/toronto/3-CCPPInstructions.pdf

 さらに、Adobe DNG Profile Creater を使った DCP プロファイルの作り方は、下記を参照。

https://helpx.adobe.com/content/dam/help/en/photoshop/pdf/DNGProfile_EditorDocumentation.pdf