先日、Nikon D5500 明暗差の大きいシーンの写真補正テストという記事を公開しましたが、ARTの対数トーンマッピングは、逆光の明暗差の大きいシーンの補正用途にかなり使いやすいです。従来の写真編集ソフトでは、このような補正に、シャドウ/ハイライト機能を搭載していることが多いですが、これらよりも良いという印象です (ARTではシャドウ/ハイライト機能は廃止されています)。また以前、紹介したRawTherapeeのICE色の見えモデル2002をがこの機能に (も) 使えるらしいのですが、ARTの対数トーンマッピングのほうが使いやすいと思います。こちらのページで紹介した特殊なケースを除いては、基本的にARTの対数トーンマッピング一択で補正してよいのではという気がします。ここではもうちょっと具体的に補正の仕方について紹介します。
■デジタルカメラ写真の例
明暗差の大きいシーンの写真補正テストで使ったファイルです。一旦、ARTに読み込みます。
上が、デフォルト状態ですが、トーンカーブの自動調整が適用されているので、一旦オフにするか、カーブをフラットにします。
その上で、基準となる中間グレー値をヒストグラムを見ながら上昇させます。前に述べたように明るくするには中間グレー値を上げることが必須です。ヒストグラムの左端の部分が余り切れなくなるぎりぎりのところまで中間グレー値を上昇させ、一旦、自動ボタンを押します。
このケースでは、39%まで上げると、ほとんど切れる部分がなくなりました。
次に、微調整としてトーンカーブを使って調整します。一旦トーンカーブをフラットにしているとかなり平板でメリハリがなく薄暗いです。ただ空の部分は色の濃さをあまり薄くしたくないので、ロック式カラーピッカーを設置し、これとヒストグラム、そして画面を監視しながらトーンカーブを調整していきます。
メリハリをつけつつ、シャドー部があまり薄暗くなりすぎず、空の色もあまり薄くなりすぎずというバランスを見ながら調整していきます。画像に締りをつけるなら、最暗部を若干低めにし、その後立ち上げるようにして調整します。
■フィルムスキャン画像の例
こちらはVuescanで取り込んでdngファイルで保存した、フィルムスキャン画像です。読み込んでプロファイルをニュートラルに一旦設定します。
そこで対数トーンマッピングをオンにして、基準となる中間グレー点を引き上げます。
最も明るい点が適正になるように引き上げます。このケースではかなり引き上げました。
対数トーンマッピングの場合、白の相対的露出では明るさを引き上げることはできず、中間グレー値の調整以外では明るさを引き上げることはできないようです。そこで、中間グレー値の調整でまず最も明るい点を調整します。黒の相対的露出は明るさを下げることはできるので、次に黒の相対的露出を調整します。
ヒストグラムを見ながらスライダーを引き上げて行きますが(引き上げるとヒストグラムのシャドー部がより左に寄る=暗くなる)、左のヒストグラムの山の端が左端に来るように調整します。これでダイナミックレンジがかなり広がりました。
次にトーンカーブを使ってトーンを調整します。ここまでの調整でかなり明るめのフラット画像になりましたので、ミッド~シャドー域を下方向に調整してきます。この画像の場合は非常に緩やかなS字カーブを意識しました。
次にフィルムですので、暗部が露光不足気味でフィルムの粒状が目立ちます。そこでノイズ低減を使います。
上は初期状態ですが、思いっきり輝度ノイズのスライダーを右に振ってぬめっとするぐらい一旦補正を掛けます。それが下です。
今度はディティールの復元を使って、のっぺりしすぎた表面を修正していきます。
このケースではディティールの閾値をかなり高めに設定していますが、閾値を増やすと復元されるディテールが粗めに、小さいと細かめになります。これは元の画像の解像度なども考えて設定してください。ディティールの復元のスライダーを上昇させ、多少ノイズが見えるか、というあたりで止めます。
ご覧のように明るい部分は、ほぼノイズが消えていますが、暗い部分は結構ノイズが残ります。
次に暗い部分のノイズをもうちょっと消すためにスムージングを掛けます。非局所平均を選択し、3程度にしました。デフォルトはガイド付きで最も効果も大きいですが、やや弱めに掛けたい(あまりぼかしたくない)のと、ノイズがガイド付きよりやや均質なようなので、今回は非局所平均を掛けました。
このモジュールに対しパラメータ指定マスクを使って、このスムージングを掛ける範囲をシャドー領域に限定します。明るい部分はこれ以上ノイズをスムーズにする必要がないからです。マスク表示をオンにすると、効果が掛かる部分のみ黄色く表示されます。
ノイズ低減が終わったら、この画像ちょっと斜めになっているので、回転を使って方向を修正します。
最後に補正が完成した画像を出力して終わりです。因みに補正前の画像を下に掲げますが、こんな感じでした。影のある部分とない部分の明度差がオリジナル(Vuescanでスキャンした際、同時に作っておいたTIFFファイル)ではかなり目立ちましたが、補正結果はかなりこの差が狭まりあまり気にならなくなりました。