先日、さほど褪色していないネガカラースキャン画像のマゼンタ被りを補正する記事を書きました。その最後に、「補正レシピを保存できない GIMP を使うよりは、補正レシピを保存できる ART や darktable を使って補正を行ったほうが良いかもしれません」と書きました。
といわけで、ART で使えるネガフィルムのマゼンタ被り補正用プロファイルを作成し、ダウンロードできるようにしておきます。このプロファイルは以下のようになっています。
まず、ホワイトバランスに関しては自動調整をかけています。次に、全体的なトーンカーブは、中域~シャドウ域を若干引き下げています。
マゼンタ被り自体の除去は、カラー/トーン補正を使って行っています。これには、以下4つのインスタンスを作っています。
まず G 値の補正は次のように行っています。
中域を中心に全般的に G 値を引き上げています。なお、元々黄緑色の領域を中心にこの G 値の補正を弱める領域を作っています。
いわば、これは拙作の相対RGB色マスク作成ツールを使ったマゼンタ透過マスクとちょっと似ている調整を掛けている計算です。
次は R 値の補正です。
シャドウ域のみ R 値を引き上げています。
最後は B 値の補正です。これは2種類あり、上昇 (Blue方向) と下降 (Yellow方向) です。まず上昇です。
ハイライト域のみ B 値を引き上げています。次は下降です。
シャドウ域のみ下げています。
以上のような設定により、GIMP 上の以下のようなトーンカーブ補正をエミュレートしています。
但し、画像の状態は千差万別ですので、当然ながらこれで完全にうまくいくとは限りません。あくまで、マゼンタ被り補正の出発点としてご利用ください。また、ART の カラー / トーン補正による調整量は GIMP のトーンカーブを使った調整量より少なめになります。元画像にフィルム劣化に伴う変褪色があって、大きな調整量が必要な場合は、相対RGB色マスク + GIMP の組み合わせによる調整を行ったほうが良いです。このプロファイルによる補正はスキャナや取り込み光源の癖によるマゼンタ被りの補正に限ったほうが良いと思います。
このプロファイルを基にしてさらに調整を行う場合は、次の手順を踏むのが良いのではないかと思います。
1) まず、ホワイトバランスを調整します。一応自動調整が掛かっていますが、適切とは限らないので、ピックアップを使って調整してください。場合によってはホワイトバランスをカメラ設定に戻したほうが良い場合もあり得ます。
2) 次にカラー / トーン補正で、各カラーホイールの調整量を調整してみてください。カラー / トーン補正のインスタンスは3つあり、上から緑、赤、青の調整インスタンスです。なお、調整量が振り切っている場合は、インスタンスを複製して対応してください。インスタンスを複製する場合は、まずコピー元のインスタンスを指定し、次に、コピーボタンを押して複製します。
3) 場合によると一部のインスタンスはオフにした方が良いかもしれません。遠景の存在しない画像では Blue インスタンスはオフにしたほうが良いでしょう。
4) さらに必要に応じて各カラー調整インスタンスのパラメーター指定マスクを調整してください。デフォルトでは明度のみ使ってマスクを作成しています。
5) さらに、各調整インスタンスの彩度を調整してください。全体的に彩度を調整する場合は、カラー/トーン補正でなく、カラータブの彩度調整のモジュールを使って下さい。
6) これでも調整が不足するようでしたら、追加で LUT の適用をご検討ください。
ART 用のマゼンタ被り補正用プロファイルのダウンロードはこちらから。ファイル名は MagentaCastCorrection.arp とします。
なお、このファイルの置き場は、ユーザごとのプロファイルディレクトリです。具体的には、
C:\Users\%USERNAME%\AppData\Local\ART\profiles
~/.config/ART/profiles
になります。
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因みに先日お見せしたサンプル画像に、ART用マゼンタ被り補正用プロファイルを掛け、さらに、ARRI FilmA の LUT を掛けたら結構良い感じになりました。これがベストかもしれません。
若干、空がセリアンブルーになっているのが気になります。
そこで ARRI の LUT、Film A を適用してみました。
なお、FilmA LUT の適用に当たっては、パラメータ指定マスクにより新緑の部分の適用を弱めています。
オリジナルでは、冴えないマゼンタを被ったネガカラースキャンの画像が、スッキリ透明感のある画像になりました。補正用プロファイルのみ適用の画像と比べても、空の色が改善し、植物の緑も適切な値に落ち着いた感じがします。
もう一つの例です。こちらは遠景を含みません。まずオリジナルから...
全般にマゼンタが被って、葉の緑が冴えないのが分かります。そこで、マゼンタ補正プロファイルを適用します。すると下記のようになりました。
やや青すぎるのは遠景がないためと思われます。そこで遠景がないので Blue インスタンスはオフにします。
これで出力したのが下記の結果です。
また遠景を含まない、以下のサンリンソウの画像ですが...
背面の茶色が強くマゼンタに振れています。これに拙作のプロファイルを掛けます。
これを Blue インスタンスをオフにして出力すると...
より良くなりましたが、もうちょっと葉の黄色味があったほうが良いように思います。そこで Green インスタンスのパラメータ指定マスクの色相をもうちょっと工夫します。
Green インスタンスの、緑色部分を補正を弱める部分のカーブをもっと下げ、その部分を適用除外量を増やします。
なお、ARRI の LUT の使用方法は以下の記事をご参照ください。