レンズが光学的補正よりもデジタル的補正を前提とするようになってきた、というお話を先日紹介しましたが、それもあって再度レンズの色収差補正の比較を行ってみたいと思います。今回は、Nikon の AF-P Nikkor 70-300mm F4.5-6.3を使ってみます。ワイド端の70mm をF4.5で撮影してみました。テレ端はF6.3のためか意外と色収差が少ないのでワイド端にしてみました。画像の一番左下隅を拡大しています。現像済みの TIFF ファイルを IrfanView で 100%で表示したものを画面キャプチャしています。
まず未補正のものから。
ART でニュートラルで読み込んだものです。但し自動トーンカーブだけ使っています。縦にはあまり色収差がないですが、横に収差が出ています。
まず純正ソフトによる処理から。
NX Studio は最新の Ver. 1.3.2 です。さすがにきっちり色収差が補正されています。精細感も高いです。調整項目こそ 汎用 Raw現像 ソフトより少ないかもしれませんが、Nikon の Raw ファイルの潜在力を最大限引き出しているソフトウェアであることは間違いありません。単なるカメラのおまけソフトと侮るべきではありません。なんだかんだ言っても Nikon の Raw 現像処理における立派なリファレンスソフトと言えます。色収差のみならず解像感も高いです。
こちらは、ART 1.19.3 のデフォルトです。Rawに対する色収差補正のみかかっています。但し、色収差に関しては NX Studio より劣ります。解像感は NX Studio に迫るものがあります。
こちらは、ART で lensfun のデータのみを使った補正です。Rawベースの色収差補正とどっこいどっこいの感じです。
両方掛け合わせてみました。若干マシになっているかと思います。
次は、darktable です。前回、darktable の色収差補正を調べてみましたが、あまり良好ではなく、ほぼ luminar 3 と同等の成績でした。今回、darktable Ver. 4.2.1 を使っています。darktable は色収差補正には3つのモジュールがあります。lensfun のレンズプロファイルを使った補正と、Rawベースの色収差補正、それとでモザイク後にかかる色収差補正です。
実は今回 darktable に関してはかなりの進歩がありました。まず、lensfun のレンズプロファイルデータのみを使った補正です。
ほぼ、ART のレンズプロファイルを使った色収差補正と同等のようです。次は、Raw 色収差補正を使ってみます。
lensfun のデータを使った補正よりベターですが、まだ収差が残っています。ただ、このケースでは ART のRaw ベースの色収差補正と互角にところまで来ています。
次は、デモザイク後にかかる色収差補正です。今回かなり改善が見られたのはこのモジュールです。
Raw 色収差補正より良い感じです。
3つのモジュールを全部有効にしてみました。
NX Studio には及びませんが、ART の結果より良くなっています。なお前回と同じファイルを使って補正もやってみましたが、darktable のデモザイク後に掛ける色収差モジュールは、かなり改善が見られるようです。以前の検証結果はこちらにあります。
ただ、色収差補正自体は改善しているものの dartkable の方が、ART よりテクスチャの輪郭が甘くなる (ややぼやけた感じになる) 傾向は変わらず、その分解像感が低くなります。とはいえ、それでも十分標準的な解像感は確保していますが。それは上の家の壁のテクスチャ表現を見てもお分かりいただけると思います。なお、Raw ベースの色収差補正の方は、この画像の場合青い収差が残ってしまい、前回から改善されていないようです。
なお、ART の現像済み (Raw色収差補正適用) の TIFF ファイルを darktable に読み込ませ、色収差補正を適用したところ改善することが確認できました。これだと darktable のテクスチャが甘くなる傾向も抑えられるようです。
ちなみに、以下のようなオンラインディスカッションがありました。
原理的には、デモザイク前に色収差補正を行ったほうがより良い効果が出るということですが、実際には、レンズによって異なるようです。レンズのクオリティの高いSigma の ART レンズの場合 Raw色収差補正は非常によく効くけれども、レンズのクオリティの低い Canon の EF-S 55-250mm F4-5.6 IS STM では、僅かしか効かず、デモザイク後色収差補正を使うしかないというような議論が出ています。またRaw 色収差補正とレンズプロファイルに基づく色収差補正は併用しない方が良いのではないか、という議論も出ています。ただ、個人的な体験を記すと、ART では確かに併用しないほうが良いのですが、darktalbe ではかならずしもそうではないような気がします。
ソフトウェアの効果に関してもレンズによってかなり違う可能性があります。
なお、以前の検証で、現像済みのTIFFファイルに対しても NX Studio の色収差補正が有効ということを述べました。ですが、今回新たに注意すべき点について気づきました。それは NS Studio に読ませる前に、最初に 現像する Raw 現像ソフトで何らかの方式で色収差補正を行っていると、NS Studio で色収差補正を追加することができないという点です。
おそらく、最初の Raw 現像ソフトで色収差補正を行うと、色収差補正を行ったというメタデータが現像済みTIFFファイルに書き込まれるのではないかと思います。そのデータが書き込まれていると NS Studio では色収差補正ができなくなるものと推測します。もし私の以前の記事を読んで、現像済みの TIFF ファイルを NX Studio に読み込ませたが、色収差は改善できなかったぞ、という方がいらっしゃれば、おそらく最初にデモザイクを行った Raw 現像ソフトで色収差補正がオンになっていたはずです。
なお、以前検証したときに、OM Workspace で現像したTIFF ファイルに対して NX Studio で色収差補正が掛けられましたが、これは OM Workspace では、Rawファイルを読み込む際に Raw ファイルから補正データを読み取って、ソフトウェア上で非明示的に自動で強制的に補正を掛けているため、現像済み TIFF ファイルのメタデータには明示的に色収差補正を行ったというデータが書き込まれず可能だっだものと思われます。それに追加して OM Workspace 上で明示的に別の色収差補正を掛けると、NS Studio での補正はできなくなると思われます。
NX Studio に色収差補正を任せるつもりであるなら、最初の現像ソフトではオフにできる色収差補正をすべてオフにしてください。
なお darktable ではそのようなことはありません。
また、これはすでに指摘しておきましたが、NX Studio に読ませる TIFF ファイルは無圧縮にしておくのが無難です。一応 LZW 圧縮も読めるのですが、出力ソフトによっては正しく読めないことがあるようです。deflate 圧縮は非対応です。