ARTの今回 (1.16) のバージョンアップで OpenColorIO Ver. 2に対応した、CLF形式の LUT (ルックアップテーブル) ファイルへの対応をアナウンスしています。それとともに、カラー/トーン補正にLUTモードが新設されました。簡単に言うと、カラー/トーン補正で、フィルムシミュレーションと同じように LUT ファイルを読み込ませることができるようになりました。
それとともに、フィルムシミュレーションでは、従来のHaldCLUT形式のpngファイルに加え CLF 形式の LUT ファイルが使えるようになりました。詳しくは以下をご参照ください。
bitbucket.org また、以下のディスカッションもご参照ください。
discuss.pixls.us 作者のA. Griggio氏が、今回 ART のOpenColorIO対応の重要性について力説しています。Griggio氏は、今回のOpenColorIOへの対応は昨秋のRaw読み込みエンジンのDCRawからLibrawへの変更に次ぐ大きな改良と位置づけているようです。
で、これで何がうれしいかというと、一般ユーザにとっては、OpenColorIOに含まれている ociomakeclf.exe を使うと、様々な形式の Look up table を clf 形式に変換できるので、例えば映像業界などで使われている様々な LUT を clf 形式に直してARTに流用することができます。なお現時点では、clf形式で公開されているフリーのLUTはほとんどないので*1、現状では、基本、他形式のLUTをociomakeclf.exe で clf形式に直して使うということになると思います。なお、上のオンラインディスカッションで、Griggio氏がサンプルファイルを上げています。ちなみに、ART で clf形式のLUTを使う場合は、色空間を、ACES 2065-1 に設定する必要があります。
それ以外にも OpenColorIO のツールは単なるLUTを作るツールではなく、様々なピクセル単位でのデータ操作ができ、シーン参照ワークフローに最適なLUTが利用できる等様々な利点が指摘されています。
なお、clf 形式の LUT は、カラー/トーン補正とフィルムシミュレーションの両方で使えますが、その両者は画像処理パイプラインでの処理位置が異なります。カラー/トーン補正はシーン参照色空間で処理され、フィルムシミュレーションはディスプレイ参照色空間で処理されます。フィルムシミュレーションで使っても効果はありますが、本来のLUTの意図したカラーグレーディングを再現するには、カラー/トーン補正で使う必要があります。
とはいえ、OpenColorIOが使えなければ、せっかくの ART の機能追加も宝の持ち腐れです。
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次に問題になるのは、それではどうやって OpenColorIO をインストールするかです。ところが、すぐ実行できるバイナリーファイルが公式サイトで配布されていません。ソースコードしか配布されていないのです。それでも公式のインストラクションに沿うとMac OSだとかなり簡単に入れられますが、Windowsに入れようとしたところ、かなり面倒でした。なお、Linux はソースコードからのコンパイルが必要です。
なお、OpenColorIOのインストールインストラクションは以下にあります。
Mac OS (homebrew使用)
https://opencolorio.readthedocs.io/en/latest/quick_start/installation.html#os-x-using-homebrew
上のインストラクションに従って、homebrew を使うと非常に簡単にインストールできます。homebrew をインストールしていない場合は、先にインストールしておいて下さい。なお OpenColorIOのインストール先は、
/opt/homebrew/opt/opencolorio/
になります。
また、LUTの変換を行うツール ociomakeclf は、
/opt/homebrew/opt/opencolorio/bin/ociomakeclf
になります。
Linux & Mac OS (ソースコードからのコンパイル)
https://opencolorio.readthedocs.io/en/latest/quick_start/installation.html#os-x-and-linux
Linuxの場合は、ソースコードからのコンパイルが必要です。
そして、Windowsの場合ですが...
Windows (vcpkg使用)
このWindows用インストールインストラクションでは、Windows版のパッケージマネージャ (いわば Windows版の dpkg や homebrew) である vcpkg を使ってインストールする方法が指南されています。しかし、vcpkg を使ったインストールであっても、バイナリーファイルをインストールするのではなく、結局ソースコードからコンパイルしているようで、vcpkg だけをインストールしただけでは済まず、git や Visual Studio などの開発環境もすべてインストールしないと、インストールできませんでした。
ただ上のインストラクションはそのあたりを丁寧に説明しておらず (おそらく開発者ではない一般エンドユーザが使うことを想定していない)、全く省かれています。従って、Windows上でプログラム開発を行った経験のない一般エンドユーザの方は、この記事を見ただけでは、ほぼ100%近くインストールに挫折すると思いますので、ここにインストール方法を解説します。
1. 準備
まず、開発環境やパッケージマネージャのインストールが必要です。開発環境として Microsoft Visual Studio, git そして、パッケージマネージャとして vcpkg が必要です。
1.1 Visual Studio のインストール
まず、Microsoft社の開発環境である Visual Studio をインストールします。Visual Studio は現在では個人利用は、Microsoft IDの登録が必要になりますが、無料で使えます。そして、以下のサイトが比較的丁寧にVisual Studio のインストール方法を説明していましたので、基本的にはそこの説明に従ってインストールしてください。
invisiblepotato.com ただし、上の記事の説明から変えないといけない部分があります。こちらの記事では、インストールの際、最小限[.NET デスクトップ開発]を選択しておけば良いと書かれています。しかし、OpenColorIOでは、C++ のコンパイラを使いますので、少なくとも、[C++によるデスクトップ開発] を選択しておかないとインストールに失敗します。またインストールに結構時間がかかりますので、余裕をもって作業を進めてください。
1.2 Gitのインストール
以下の公式サイトからダウンロードし、ダウンロードしたインストーラを管理者でダブルクリックして起動し(通常の一般的なインストーラと同様です)、インストールを行います。
gitforwindows.org とりあえず、デフォルトの設定でインストールしておきます。
なお、Git for Windowsを実行する際に注意点があります。Gitを実行するときは通常のコマンドプロンプトを起動せず、Git専用のコマンドプロンプトを起動してそこからGitを実行してください。ま、通常のコマンドプロンプトでもパスを通せばいいのですが、ひと手間かかりますので...
上の Git CMD というアイコンが Git 専用のコマンドプロンプトなので、これを立ち上げてコマンドを入れます。立ち上げると見た目は通常のコマンドプロンプトと変わりません。要はGit用にパスの通ったコマンドプロンプトです。
1.3 vcpkgのインストール
以下に vcpkg をインストールするインストラクションがあります。
インストラクションでは vcpkgをインストールするには、C:\src\vcpkg or C:\dev\vcpkg にインストールすることを推奨していますので、ここでは、C:\src\vcpkg にインストールをすることを前提とします。
そこで、上に述べたように、まず Git専用コマンドプロンプトを立ち上げます。そして次に、
cd \
と打って、カレントディレクトリを、c:\ に移動します(※注意! バックスラッシュ" \ "は通常のパソコンではキーボード表示も含め¥として表示されます。はてなは ¥ を打つと、本来のバックスラッシュとして表示されますので... 初心者の方はご注意下さい)。
次に、
mkdir src
と打って、src というディレクトリを作り、さらに
cd src
でカレントディレクトリを C:\src\ にします。
ここでようやくインストラクションにあるように、
git clone https://github.com/Microsoft/vcpkg.git
とコマンドプロンプトからコマンドを打ちます。
そして、
.\vcpkg\bootstrap-vcpkg.bat
と、コマンドを打つと、vcpkg が C:\src\vcpkg にインストールされます。
2. OpenColorIOのインストール
ここまできてようやく OpenColorIO をインストールする準備ができました。インストールのインストラクションは下記にあります。このインストラクションは、ここまでの準備が全てできている、ということを暗黙の前提としたインストラクションなので、それができていないで、このインストラクションのとおりにやってもインストールに失敗する、というわけです。
https://opencolorio.readthedocs.io/en/latest/quick_start/installation.html
まず、コマンドプロンプトのカレントディレクトリが、C:\src\vcpkg となっているのを確認してください。異なっていれば、そこに移動してください。
次に、上のページのインストラクションにあるように、
vcpkg install opencolorio[tools]:x64-windows
とコマンドを打つと opencolorio がインストールできます。
3. OpenColorIOのインストール先
OpenColorIOのインストール先は、vcpkgのインストール先が、C:\src\vcpkg の場合、
C:\src\vcpkg\packages\opencolorio_x64-windows
以下になります。
そしてLUTの変換に使うツール ociomakeclf.exe の場所は
C:\src\vcpkg\packages\opencolorio_x64-windows\tools\opencolorio\ociomakeclf.exe
に、なりますので、カレントディレクトリを
C:\src\vcpkg\packages\opencolorio_x64-windows\tools\opencolorio
に移動して、ociomakeclf.exe と打って起動してください。あるいは上記ディレクトリにパスを通しておけば、単にコマンドプロンプトを立ち上げて ociomakeclf.exe と打つことで使えるようになります。
パスの通し方については、例えば以下のサイトをご覧ください。
4. ociomakeclf.exe の使用法
以下のページのインストラクションをご覧ください。
https://opencolorio.readthedocs.io/en/latest/guides/using_ocio/using_ocio.html#ociomakeclf
なお、言うまでもないことですがOpenColorIOはコマンドラインツールですので、コマンドプロンプトから全て操作しなければなりません。どのOSバージョンであっても、インストールしてもプログラムメニュー等には一切現れませんのでご注意下さい。
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[追記]
*1:なお、現状、ARTやRawTherapeeでつかえるフィルムシミュレーション用LUTについては、以下の拙稿をご参照ください。