省型旧形国電の残影を求めて

戦前型旧形国電および鉄道と変褪色フィルム写真を中心とした写真補正編集の話題を扱います。他のサイトでは得られない、筆者独自開発の写真補正ツールや補正技法についても情報提供しています。写真補正技法への質問はコメント欄へどうぞ

決定版! 不均等黄変・褪色ネガ写真のデジタル補正術 (6) - 追加補正 (2024.1 Ver. 5.5 対応バージョン)

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お知らせ

 本記事は 2024年1月に改訂した新バージョンです。なお B チャンネル再建法ツールの進歩により、追加補正の説明に関してより簡略化し、(6-1), (6-2) の内容も統合しました。以前の記事をご覧になりたい方は以下のリンクからどうぞ。

2023.2 バージョン

2021.12バージョン

2020.8バージョン

目次

1. 本連載記事の概要 

2. 今まで紹介されてきた経年劣化による変褪色写真の補正術 

3. 写真補正の原理    

4. Bチャンネル再建法による不均等黄変・褪色ネガ写真補正の方法                

5-1. Bチャンネル再建法による具体的な補正実施手順 - 準備   

5-2. 具体的な補正実施手順 - ImageJによる作業

5-3. 具体的な補正実施手順 - GIMPによる作業

6. 追加マニュアル補正の実施 (本記事)

補足. GIMPの代わりにPhotoshopで不均等黄変画像の編集を行う

補足. Bチャンネル再建法 補正ツール簡易版

補足. 標準的なBチャンネル再建法(+汎用色チャンネルマスク作成ツール)による黄変写真補正過程

チュートリアルビデオ. 決定版! 不均等黄変・褪色ネガ写真のデジタル補正術・チュートリアルビデオ (ハイブリッド補正対応版)

6. 追加マニュアル補正の実施

 B チャンネル再建法では、当然ながら B チャンネルしか編集しません。しかし、黄変が微妙にオレンジに寄っていて、黄変除去後マゼンタの汚れが残る場合があります。またそもそも最初のフィルムスキャン時点で、スキャナドライバのクセ等によって、カラーのバランスが崩れていると感じられる場合があります。

 これらについては B チャンネル以外の追加補正が必要になります。本稿ではこのような追加補正について説明します。

◇追加補正過程ビデオ (ビデオで使っているバージョンは Ver. 4.8です)

(1) 相対RGB色マスク作成ツール + GIMP による補正

www.youtube.com(2) ART を使った最終調整 (上の続き)

youtu.be

6.1 GIMPにおける疑似非破壊画像編集法

 GIMP の現行バージョンは Photoshop と異なり、調整レイヤーという概念がありません。このため画像編集を行うと必ず編集対象画像のピクセル値が変化します。これを補完するための編集の方法については、以前の記事では、記事の中で書いていましたが、改訂版の本稿では、ここに掲載すると煩雑になりますので、以下にまとめておきました。ご参照ください。

yasuo-ssi.hatenablog.com

6.2 Bチャンネル以外のチャンネルの色調編集を行う

 B チャンネル再建法ツール Ver. 5.5 のリリースで、B チャンネルと G チャンネルの接近に伴う問題を解決するツールを整備することができました。しかし、当然ながら他チャンネル調整ツールは含まれていません。追加補正でどのように他チャンネルの色調を調整するか説明していきます。

 特に必要となる可能性の高いのはマゼンタの補正 (G チャンネルの編集) です。マゼンタ補正の必要性が出てくる理由は主に次の2つです。

1. 元々フィルム画像の黄変が、ややオレンジがかっており、黄変を除去した後、マゼンタ汚れが依然として残る。

2. フィルムをスキャンした際に、スキャナドライバなどの影響で、画像がマゼンタに寄ったり、マゼンタ被りが発生する。

 また、植物の緑の調整レイヤーも付けましたが、単に黄色味を戻すのみならず、さらにもっと色合いを大きく変えたいという場合もあると思われます。

 なお、以前追加補正は必須に近かったのですが、最近のツールの改良により追加補正が必要ないケースも増えていると思います

◇前回 (5-3) で使用したサンプル写真

サンプル写真 オリジナル

 まず、この写真の場合、スキャンした時点で既にマゼンタに偏っていることが明らかです。スキャン時にマゼンタに偏る理由ですが、まず、そもそも電子的なセンサーと、ネガカラーフィルムが前提としている印画紙の周波数反応特性が異なる点、ならびに、スキャンしたデータが不均等黄変によりホワイトバランスが崩れているため、スキャナドライバ等が、ホワイトバランスを回復させるため B 値を引き上げた結果、全般的に G 値が相対的に下がり、マゼンタに偏ってしまう、という2点に起因すると思われます。

 さらに、黄変がややオレンジに偏っていますと、黄変除去後にマゼンタ汚れが残ります。

 これに B チャンネル再建法を適用した結果以下のようになりました。

RGB合成が終了したところ

 まず、空の黄変を除去した後に、うっすらとマゼンタ汚れが残っており、その結果空が全般的にピンクになっています。バラストの褐色はマゼンタ被り画像用の褐色調整レイヤーを適用した結果、オリジナル画像より褐色味が改善されています。但し、植物の緑に関してはオリジナルから、色が青緑に寄り、冴えません。これもスキャナドライバによる B 値引き上げの影響と思われます。

 全般的なマゼンタ傾きに関しては、程度が低ければ、一般的な画像編集ソフトのホワイトバランス調整で調整可能な場合もありますが、このケースでは、黄変除去に伴うマゼンタ汚れが残っていることもあり、相対RGB色マスク画像作成ツールと GIMP を使って、追加補正を行うこととします。

 補正方針としては、マゼンタ除去と、植物の緑をオリジナルよりさらに明るくしていくこととします。このため、緑色の部分の B 値を引き下げます。

 因みに、通常であればどのようなRGB値になるかを把握していることは補正方針を決めるにあたって重要です。例えば、肌色はRが高く、Gがそれより低く、Bがさらに低いのが通常です。新緑と並んで肌色も、BとGチャンネルに値が近づくBチャンネル再建法で影響が出やすいところです。この参考のために、色のレファレンスに関する記事を書いておりますので、ご参照ください。

 ここから相対RGB色チャンネルマスク作成ツールの出番です。上の補正を掛けたファイルを基に、色の冴えない近景の緑部分を補正するマスクを作成します。遠景の山が入らないようにグレースケールで明度範囲を0-112に設定しました。マスク自体はGを透過するマスクです。

■相対RGB色マスク画像作成ツールによるマスク画像作成

 まず、相対RGB色マスク画像作成ツールを使ってマスク画像を作成します。ここでは、緑補正マスクとマゼンタ補正マスク画像を作成します。

 まず、このツールに関する基本的な概念について説明します。マスク画像は、マスク画像の明るい(白い)部分が、GIMP上で編集効果があり、黒い部分が編集効果がない部分です。灰色の部分は編集効果が弱められた部分になります。
 そして、マスク画像のプレビュー画面を見ながらパラメータ調整を行っていきますが、パラメータを動かす度に、下の方にある、[show final image preview] をチェックして、最終的にできるマスクイメージを確認します。
 起動後、編集対象チャンネルの選択を行い、さらに作成するマスクの選択を行います。

 作成するマスクを決めた後は、重要なパラメータは基本的には3つで、 Color Threshold, Mask Transparency, Mask Effective Range です。

 Mask Effective Range はマスクが有効になる明るさの領域を設定するパラメータで、上のスライダーがマスクが有効な明るさの上端、下のスライダーが明るさの下端を設定するスライダーです。

 Mask Transparency は、マスクの透過度 (明るさ) で、マスクの透過度が高いほど補正効果が高くなります。

 Color Threshold は色の閾値ですが、これを調整することで効果の及ぶ範囲を広げたり狭めたりすることができます。値を上げると範囲が広がり、下げると範囲が狭まります。例えば、緑を対象としたマスクを作りたい場合、値を上げるとより緑みの薄い範囲も含まれるようになる一方、値を下げるとより緑みの濃い部分に範囲が狭まります。この値を 0 にすると「客観的」にその対象となる色の範囲になります。

・緑透過マスク画像の作成

 以下、相対RGB色マスク画像作成ツールによるマスク作成過程です。まず ImageJ上で、相対RGB色マスク画像作成ツールを起動し、読み込みファイルを指定します。次にマスク作成に使うチャンネルを指定しますが、ここではグリーン透過マスクを作るので以下のように指定します。

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相対RGB色チャンネルマスク作成ツールのチャンネル選択画面
ここではマスク作成対象チャンネルに Magenta/Greenを指定し
輝度ゾーン範囲指定対象チャンネルに Greenを指定

 次は、マスク作成パラメータ指定ダイアログです。

パラメータ指定画面

 作成マスクにグリーン透過マスクを指定し、輝度範囲 0 -112 / G閾値+25 / 透過度 1.8 としてみました。さらに、最終的に、青緑に寄った植物を黄緑に補正するので、対象範囲となる緑を青緑に寄せたいために、[Skew of color sensitivity] (色感度の傾き) のスライダーを B (Blue) の方に寄せます。どの程度が適切なのかはプレビュー画像を見て判断します。

 その結果、下のマスクプレビューとなりました。なお、チャンネル間のレベル調整にもチェックを入れました。これもチェックを入れるとプレビューが場合によって明るくなったり、暗くなったり、変わらなかったりします。変わらなければチェックを入れる必要はありませんが、変わる場合はどちらの方が作成意図に合うのかに応じて、チェックを入れるかどうかを決定します。

 また、パラメータを変更するごとに [show final image preview] をチェックして最終画像を確認します。

マスクパラメータ指定画面

 そして最終的に作成された画像が下記です。

輝度範囲 0 -112 / G閾値+25 / 透過度 1.8 で作成されたマスク

・マゼンタ透過マスク画像の作成

 さらにマゼンタ補正マスクも作成します。チャンネル選択はグリーン補正マスクと同じです。輝度範囲は全域、閾値は25、透過度は 1.3 としました。こちらは、[Skew of color sensitivity] はデフォルトのままです。チャンネル間レベル調整も行っていません。

マゼンタ補正マスク
輝度範囲 0 -225 / G閾値+25 / 透過度 1.3 で作成されたマスク

・Gチャンネルを使ったマスク画像作成上の留意点

  なお、Gチャンネルを使った色透過マスク (グリーン or マゼンタ透過マスク) を作成するときは、他のチャンネルを使ったマスクより閾値を+20程度多めにするか、もしくは透過度を2倍前後にした方が良いです。なぜならGチャンネルは他の2チャンネルと相関が高い一方、BとRチャンネルの相関は低い傾向にあります。そして汎用色チャンネルマスク作成ツールでは、チャンネルとの明度差に基づいてマスクを作成しますので、他チャンネルとの相関が高いGチャンネルを使ったマスクは透過度が低めになる傾向にあるのです。従ってGチャンネルを使う色マスクの閾値を30前後にするか、もしくは透過度を 1.7〜1.8 程度にするのが適当です。どちらが適当かは、プレビューを見ながら判断して下さい。

 ちなみに、いくつかの風景写真を調べてみましたが、G-R間の相関が最も高く、次がG-B間、そしてB-R間の相関が最も低い傾向にありました。ただし画像によっては、G-B間が最も高く、次がG-R間になるケースもありました。その場合でもB-R間が最も相関が低いことは変わりません。この原因は、植物の緑は、人間の直観とは異なり、G-R間の相関が意外と高く、G-B間の相関は低い傾向にあります。そのため、植物の緑が多い風景写真はG-R間の相関が最も高くなる傾向がある一方、植物の緑が少ない都市の風景などは、G-B間の相関が最も高くなる可能性があります。なお当然ながらこの傾向は風景写真に限られ、例えば人工的な原色のオブジェを間近に撮影した写真などはこの傾向から逸脱する可能性があります。

GIMP上での編集作業

 次に、GIMP に戻って作業を続けます。GIMP にはBチャンネル再建法を適用したイメージが既に読み込まれているものとします。

・マスク画像を編集レイヤーのマスクとして貼り付ける

 まず、Bチャンネル再建法を適用したイメージのレイヤーを2枚コピーします。GIMP 上でのレイヤー操作の基本については、こちらの記事をご参照ください。それに先ほど相対RGB色チャンネルマスク作成ツールを使って作成した、グリーン補正マスク画像とマゼンタ補正マスク画像をマスクとして読み込み、グリーン補正レイヤーを作ります。なお、こちらにある画像ファイルをマスクとして読み込む拙作のGIMPプラグインスクリプトを導入していると、簡単にマスクを掛けることができます。導入していると、ファイルメニューの下に [マスクとして読み込む...] という項目が表示されます。

 このプラグインを使ってマスクを掛ける場合、まずマスクをつけたいレイヤーを指定してから、下記のようにプラグインを起動します。

マスク読み込みプラグイン

 以下のようにマスクとして読み込む画像を指定すると、マスクがかかります。

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マスクとして読み込む画像ファイルを選択する
選択したら[保存]ボタンを押す

 これでマゼンタマスクとグリーンマスクを読み込み、複製したレイヤーの一方をマゼンタ補正レイヤー、もう一方をグリーン補正レイヤーとします。

トーンカーブを使った補正

 マゼンタ補正レイヤーはトーンカーブを使って、以下のように調整してみました。なお、いずれの補正レイヤーマスクでも、車体部分を除外する編集を行いました。

マゼンタ調整

 緑を全体的に上げてマゼンタみを下げるとともに赤をシャドウを中心に上げています。また空の青みを増すために青はハイライトを中心に上げています。

 一方グリーン補正レイヤーは、以下のように補正しました。

グリーン調整

 青カーブを大きく下げ、草を全体的に黄緑に寄せています。また赤と緑を若干上げることも緑を黄緑方向に明るくすることにつながります。

 このあと一旦GIMP上でホワイトバランスを掛けて TIFF ファイルとして出力します。結果は下記のようになりました。

追加補正結果

Raw現像ソフトを使った最終調整
 この後、フリーのRaw現像ソフトを使って、さらに全般的なホワイトバランスやコントラストを補正していきます。最後にRaw現像ソフトを通すのは、最終調整がやりやすいということ、および諧調補完・増強効果が大きい (私がこの効果を確認しているのは RawTherapee, ART と darktable のみで、他の市販のRaw現像ソフトでどうかは未確認ですが) という2点が理由です。RawTherapee, ARTと darktable のうち、使いやすいほうを使っていただければと思います。ここでは、私が日本語訳を担当している ART を使ってみます。

 このファイルを ART に読み込んだところです。

ART のホワイトバランス調整

 以下はトーンカーブを使って全体のコントラストを調整しているところです。

トーンカーブ調整

 トーンを調整するにはトーンイコライザートーンカーブがあります。トーンイコライザーはトーンを調整しても、サチュレーションや色に影響を与えにくいという特徴があります。一方トーンカーブはそれらに影響を与える可能性がありますが、私の場合むしろトーンを調整すると同時にサチュレーションや色調が変わる部分もフィルム編集の面白みだと思っていますので、まず最初にトーンカーブで調整することが多いです。そのあとトーンイコライザーで微調整を掛けてます。逆にデジカメ画像のトーン編集で、色調やサチュレーションを変えたくない場合は、主にトーンイコライザーを使った方が良いでしょう。

カラー/トーン補正での LUT の適用

 また、ART ですと、カラー/トーン調整で OpenColorIO 対応のLUTが使えるという特徴があります。またART のみならず、RawTherapee や darktable ではフィルムシミュレーションも使えます。これらの LUT は、全体的な色調がどうもしっくりしないという場合、駆け込み寺として非常に有効です。パラメータ指定マスクを併用すると、LUTの効果もいろいろ調節できます。なお、この例では LUT は使っていません。

 以下出力結果です。かなり良い結果が得られていると思います。

トーンカーブ & ホワイトバランス
最終調整後

 なお、画像によってはもっとたくさんの補正レイヤーを作成する必要があると思います。そのような場合のケースについては別記事にて補正事例を紹介していますのでご参照ください。ただし、Bチャンネル再建法ツールの改良により、追加補正で必要な補正レイヤーの枚数も減る傾向にあります。

■ 類似色マスクか、相対RGB色マスクか?

 ところで、一般的な画像編集ソフトでは、このような編集を行う場合、類似色マスクを使います。ART でもローカル編集で類似色マスクが使えます。しかし、ここでの事例では、一般的な類似色マスクではなく、拙作の相対RGB色マスク作成ツールを使って作成したマスクを使いGIMP上で編集を行いました。

 ARTの類似色マスクと同様のツールは、RawTherapee, darktable, GIMP, Photoshop 等にもあります。名称は、色域選択、色域指定等の名前になっている場合もありますが、いずれも一定の基準で色が類似した領域を選択する機能です。

 では、追加補正にはどちらのツールを使うべきでしょうか。おそらく大半の画像処理ソフトの類似色指定機能は RGB もしくは HSL 色空間の中のユークリッドの距離 (ΔE) を使って指定していると思われます。この場合は、色相、もしくは 色相&輝度&彩度 に基づいて類似色の領域が指定されます。

ユークリッドの距離 (ΔE)

 それに対して拙作の相対RGB色マスク画像作成ツールは、相対的に、R or G or B 値が高い (or 低い) 領域を指定するので、類似色指定機能に比べ作成されるマスクの色相の縛りがゆるくなります。つまり、完全に色相と無相関なわけではありませんが、様々な色相にまたがって、領域を指定することができます。

 従って、色相域を限定したい場合、あるいはその色の面積が狭い場合は、類似色指定機能で OK ですし (本稿事例 1 の場合)、むしろそれが便利な場合もあります。ここではARTを使っていますが、それで完結するならそれに越したことはありません。しかし、色相域をまたがって、全般的に色調が傾いていたり色かぶりが出ているものを修正する場合は、拙作の相対RGB色マスク画像作成ツールが圧倒的に有利です。例えばネガカラーフィルムをスキャンしたときに出やすい、全般的なマゼンタ被りの色調傾向を補正するのには、相対RGB色マスク画像作成ツールを使うのがベストです。

 これに関しては、相対RGB色マスク画像作成ツールでできるマスクイメージと、画像処理ソフトでできる類似色範囲指定のイメージを比較していただければどちらが適切なのかわかると思います。

 例えば、別の画像ですが、相対RGB色マスク画像作成ツールを使って作成した緑透過マスクは...

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相対RGB色マスク作成ツールで作成したマスク (再掲)

 しかし、ART の類似色マスクを使って選択範囲を作ると...

ARTで作成した類似色マスク選択範囲
(ΔE によって類似色範囲を判定)

 下の選択範囲の方が明らかに狭いことが分かります。例えば、相対RGB色マスク作成ツールによるマスク画像では、明るい草とともに右上の深緑の木にも、マスクの範囲が及んでいますが、ARTのΔEを使った類似色マスクでは、草はカバーしても右上の木には及びません。もちろん範囲を広げていけばある程度広がりますが、限界があります。相対RGB色マスク作成ツールでは色相が異なってもかなり広い範囲をカバーできていることが明らかです。従って、事例2などは、最終的に ART で処理していますので、ART の中で処理が完結すれば便利なのですが、そうしていません。

 通常の画像処理ソフトでは、プレビュー画面からピックアップした特定のカラーピクセルに基づいたΔEによる類似色マスクを使って色相調整を行うか、あるいは、全色域で色相をずらしていくかのどちらかの調整方法になります。拙作の相対RGB色マスク画像作成ツールは、いわばその中間的なマスクの作成を狙っており、このようなマスクが必要な場合は、他の画像処理ソフトのツールでは代替できません。相対色に基づいてマスクを作らない限り、全般的に色かぶりしているような画像を効率的に補正することはできないのです。

 darktable では RGBの絶対値に基づくマスクも作れたり、ARTでは色相に基づくマスクを作れます。しかし、これらはいずれも色の絶対値に基づくものなので、使いにくいです。類似色マスクだとうまくいかない場合がある理由もそのためかもしれません。

 また、Photoshop の[色相・彩度] や [特定色域の選択] およびGIMPの [色相・彩度] のマスクの基本的な考え方は相対RGB色マスク作成ツールと似ていると思われますが、変褪色の強いネガカラー写真の補正には補正量が圧倒的に足りず、やはり、相対RGB色マスク作成ツールを代替することはできません。

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 皆さんもぜひ当記事の情報をご覧いただき不均等黄変褪色写真の補正に挑戦してみてください。

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