省型旧形国電の残影を求めて

戦前型旧形国電および鉄道と変褪色フィルム写真を中心とした写真補正編集の話題を扱います。他のサイトでは得られない、筆者独自開発の写真補正ツールや補正技法についても情報提供しています。写真補正技法への質問はコメント欄へどうぞ

韓国 Korail ITX-セマウル号に乗ってみた

 今回は、韓国鉄道公社 Korail の ITX-セマウル号です。セマウル号は在来線の日本で言う特急列車に相当する列車です。以前は機関車牽引の客車やディーゼル車で運用されていましたが、2014年以降電車化されたセマウル号が 本列車です。ITX とは Intercity Train eXpress の略、つまり都市間特急列車という意味です。

 因みにセマウルとは「新しい村」の意味で、1960年代、韓国の GDP北朝鮮より低い (今では考えられませんが...) のに衝撃を受けた当時の朴正煕大統領が、農民の生活水準の向上を掲げて行った「セマウル運動」にちなむ名前です。朝鮮半島は北部は鉱産資源が豊富で、ある程度工業も発達していたのに対し、南部の多くは農村地帯で鉱産資源が少なかったので、そのような状態だったのです。

 以下、ITX-セマウル号の車輛です。210000系電車が使用されています。

ITX-セマウル号 (鳥致院駅)

ITX-セマウル号 (鳥致院駅) 212109番

 車輛正面の横に、21という番号が見えますが、これは編成番号のようです。車輛番号の最初の2桁が車輛形式系列番号、次の2桁が編成番号、その後の一桁は、モーターなしが 0 モーター付きが5、そして最後の1桁は号車番号ですが 1, 2, 3, 4, 5, 9 となっているようです。最後尾 (上り寄り) の制御車は、編成の長さに関わらず 9 に決まっているようです。

ITX-セマウル号 (水原駅) 212009番

 こちらは編成番号が20のようです。

ITX-セマウル号 (水原駅) 212055番

水原駅に停車する 211509

 後ろは、水原を経由する KTX です。平澤付近から京釜高速線に入る列車です。

 以下は客室です。

ITX-セマウル号 客室内

 椅子の下に乗客が使える電源コンセントが設置されています。KTX は携帯電話無線充電器がありましたが、こちらはやや古いため、無線充電器はありません。

客室用電源

 下は、乗車したセマウル号の女性旅客専務 (車掌)。常に無線機を持参し運転士などと連絡を取り合って業務に当たっているようです。日本の鉄道の女性車掌と全く雰囲気が異なります。ちょっとかっこいいです。背中には労働組合のスローガンを書いたゼッケンをつけています。

ITX-セマウル号の女性車掌

 この労働組合のゼッケンですが、以下のようなものでした。

労働組合のスローガンが書かれたゼッケン

 スローガンの内容は、「今すぐ可能な 水西行 KTX を投入しろ!」

 これは何のことか外国人には分かりにくいですが、現在 ソウル南部の水西 (スソ) 駅着発の釜山、木浦方面へ行く、SRT と呼ばれる高速特急が運行されています。このSRT の運行は Korail 直営ではなく別のKorailの子会社によって運行されています。線路は Korail が管理していますが。SRT の計画は李明博政権の時に立てられたのですが、これはいわば国鉄民営化の布石として考えられたのです。ちょうどイギリス・サッチャー政権のころ、鉄道民営化の方法として、施設保有主体と運営主体の分離が行われ、同じ線路の上を複数の民間会社が運営する車両を走らせサービス競争を行う、ということが考えられました。いわばこれと同じことをやろうとしたのです。

 しかし、線路保有主体と、バラバラの複数の民間会社によって車両を運営することで、重大事故が発生するということも起こりました。日本でもこれに非常に似た原因の事故発生例として、信楽高原鉄道事故が挙げられます*1

 というわけで、労働組合は SRT の導入に反対し、Korail 直営の KTX に置き換えるよう要求しているのです。つまり安全性確保という面と、民営化反対という面から反対運動を展開しているのです。

 因みに、今日の日本では複数の会社の電車が相互に乗り入れるということが行われていますが、これとは違います。同じ線路の上を複数の会社の電車が走っているという点では、同じようですが、車輌の運行は線路を所有する鉄道会社が責任を持って一元的に担っています。またこのような乗り入れは既に韓国でも Korail とソウルメトロなどとの間で行われています。

 SRTの場合、Korail の線路 (厳密にいうと、韓国国鉄の施設は国家鉄道公団の所有) に乗り入れていますが、運転士等従業員は自社社員であり、乗車券の販売、運賃体系も Korail とは全く別途になっているようです。しかし、現在、Korail の子会社となることで、車輛は KTX-山川(サンチョン)形の車輛を Korail からリースする形になっているようですし (おそらく車輛の保守も Korail が担当する形と思われます)、営業面以外では Korail にかなり依存する形で運営されているようです。

 ちなみに SRT も当初純粋民間会社、あるいは外国資本の参加も考えられていたようですが、おそらく労組などの反対や政権交代で、Korail の子会社が運営することになったものと思われます。

 なお、日本の場合車掌は乗務員室 (運転台) に籠ってドア開閉などの仕事をするのが普通ですが、韓国の場合は異なるようで、客室内を巡回して検札業務などを行いながら駅に近づくと、ドア横にある開閉スイッチを操作してドア開閉を行います。そのため、各車両のドアの横に開閉スイッチが設置されています(下の写真)。

ドア開閉スイッチ

 上の写真の Key Switch と書かれたものがドア開閉スイッチです。上の車掌の写真も駅が近づいたので、ドア脇に待機し、ドア開閉の準備をしているところです。駅に到着してドアを開くと、車掌は一旦ホームに降り乗客の乗降が完了しているかどうかを確認し、確認終了後ドアを閉め、それを無線で運転士に連絡するようです。日本の場合、ドア開閉装置も、運転士や運転指令との連絡装置も乗務員室にありますので、乗客対応業務にあたっていても、ドア開閉の際はいちいち乗務員室に戻らなければなりません。その点で、Korail 方式の方がより合理的です。因みにこの運用、ちょっと昔の身延線での運用に似ています。

 なお、ドア開閉スイッチの下にあるのは、乗客用非常時の通話装置です。ハングルで「乗客用非常呼出機」と書かれています。

 下は車輛番号。210000形、第15編成の6輌目 Tc' です。

車輛番号

 下は、Korail の銘板です。その下には、製作社: 現代 (ヒョンデ) ロテム株式会社 とハングルで書かれています。

Korail の銘板

 なお、全車水色 (スセク) 車輛事業所所属です。

*1:信楽高原鉄道の場合、高原鉄道側の車輛がレールバス、JR乗り入れ側の車輛がキハ58と異なるため、JR側はJRの乗務員がそのまま運転するという形態をとったようですが、両社のコミュニケーション不足から相互に無断で乗り入れのための施設・設備を改造するという問題があって、信号トラブルが多発、そのうえ施設管理側と運転側が異なる会社だったため、信号トタブル時の対応についてコミュニケーション不足が発生し、本来必要な手順をスキップする結果となり事故につながったようです。なおこの事故でキハ58とレールバスが衝突しましたが、レールバス側の車体強度が良かったためより損傷が著しく、レールバス乗客からより多くの死傷者が出ました。そのため、この事故を契機に安価なレールバス導入が躊躇されるようになったり、また JR 線との乗り入れも再考されるなど、大きな影響を与えたようです。