省型旧形国電の残影を求めて

戦前型旧形国電および鉄道と変褪色フィルム写真を中心とした写真補正編集の話題を扱います。他のサイトでは得られない、筆者独自開発の写真補正ツールや補正技法についても情報提供しています。写真補正技法への質問はコメント欄へどうぞ

日本・日立製 韓国 Korail ヌリロ号 200000系電車

 今夏韓国旅行で撮ってきた写真シリーズですが、今回は Korail ヌリロ号用車輛、200000号代*1 幹線電機動車です。本シリーズは1974年に京釜線ソウル地下鉄乗り入れ用に 1000系を納入して以来、32年ぶりの 2008年に日本メーカーが 韓国の鉄道向けに納入した車輛です。製造は日立製作所で、本車のベースとなったのはJR西日本683系です。

ヌリロ号 200000系電動車 第5編成 東大邱駅 (2023.8)

 Wikipedia 韓国版の情報によりますと、ムグンファ号の最後の客車が2003年に納入された後、Korailムグンファ号客車を2020年までにすべて電車に置き換えるべく、2006年に入札を実施、現代ロテムと日立が応札し、日立が落札して納入が決まり、2008年3月、車体、台車、電動機などを分解した形で韓国に輸送し、最終的な組み立ては、SLS重工業昌原(チャンウォン)工場にと、韓国仕様の空調、列車情報制御装置、信号機器などと組み合わせて行われたということです。

 当初予定では、2008年夏に車輛の引き渡しを行い、同年12月15日から運用開始予定だったのが、2008年の金融危機による急速な円高により、ウォン換算車輛価格が2倍近くに跳ね上がり、韓国政府が支払いに苦慮した結果車輛引き渡しが遅れ、2009年1月9日に最初の編成の引き渡しが始まるとともに、試運転も同年2月6日からと遅れたそうです。そして6月1日からヌリロ号として運転が開始されました。32輌が製造されました。

 因みに、ヌリロ号の意味は、ヌリ=世の中という意味の古語、ロ=路で、世の中すべてに通じる道、というような意味だそうです。ヌリロ号の料金設定はムグンファ号と同じです。因みに Korail 列車線の列車等級は、日本で言えば、KTXが超特急、セマウル号が特急、ムグンファ or ヌリロ号が急行で、日本で言う各駅停車は原則としてなく、例外的に一部の区間で通勤列車(トングンヨルチャ)と呼ばれるディーゼルカーによって運行される各駅停車があるだけです。かつて統一(トンイル)号*2という各駅停車がありましたが、KTXが運行開始された2004年に全廃され、その際、各駅停車しか停まらなかった駅は信号所に格下げになっています。なお近年線形改良された線区では、セマウル号ムグンファ号の到達時間にほとんど差はなく、電車で運行され車内設備が良いか、それとも列車運行で車内設備が従来通りか程度の差しかありません。

 本車両は日立が開発した A-train (次世代アルミニウム合金車両) システムを採用することで、車輛のコスト低減と軽量化を図るとともに環境負荷の低減を図っています。台車はボルスタレス KH-221形を採用、ディスクブレーキとヨーダンパを備えており、140 km/h の運転速度を確保しました。

 また低床ホーム、高床ホームの両方の乗客乗降に対応できるよう油圧式リフトを乗降口に備えています。

 編成は McTT'Mc' の4輌編成です。

200551 (江陵車輛事業所所属) 東大邱駅 2023.8

 こちらは第1号車のMc1 で200551号です。

200501 (江陵車輛事業所所属) 東大邱駅 2023.8

 こちらは2号車の T1, 200501 でパンタグラフおよび主変圧器、コンプレッサーはこちらに備えられています。因みに形式・車輛番号は次のように決められています。形式番号が20万番台なのは、幹線用の KTX でない一般列車用という意味で (KTX用は 10万番台、広域電鉄用は30万番台)、3-4桁目は編成番号、5桁目は電動車か否かで、電動車、電動制御車は5, 付随車、制御車は0、そして最後は編成内の位置できまる番号です。

200501 (江陵車輛事業所所属) 東大邱駅 2023.8

 同上です。

200502 (江陵車輛事業所所属) 東大邱駅 2023.8

 こちらは3号車 T2, 200502号です。コンプレッサーと蓄電器箱が設置されています。

200552 (江陵車輛事業所所属) 東大邱駅 2023.8

 そして4号車 Mc2, 200552号です。

 200000系電動車は、8編成、32輌が製造され、その後中部内陸循環列車用として第3編成および第8編成が改造されました。しかし、2014年、太白(テベク)線の列車衝突事故で、第3編成が廃車になり、現在28編成が残っています。

 運行区間は、過去あちらこちらで運行されてきたようですが、現在 (2022.11.5以降) の運行区間は、嶺東(ヨンドン)線 江陵(カンヌン)ー東海(トンヘ)、京釜(キョンブ)線 東大邱(トンテグ)ー釜山、東海(トンヘ)線 東大邱ー太和江 (テファガン 旧 蔚山 ウルサン) 間となっており、車輛所属は現在全車江陵車輛事業所です。但し江陵から離れた京釜線, 東海線の運用に当たる場合は、伽耶(カヤ)線伽耶駅 (釜山車輛事業所の支所的な役割を担っている)の電留線に常駐しそこで、日本で言う仕業検査に相当する検査を受けているようです。また、京釜線の運用は入出区を兼ねた、1往復のみとなっています。

 

 なお、当初本系列によるムグンファ号の全面的置換が予定されていましたが、金融危機に伴う急速な円高の進行による車輛価格の高騰(円建て契約だったため)や日立の協力事業者だったSLS重工業の事実上の倒産 (2010年) などで中断され、実質的な後継は現代ロテムが受注した ITX-セマウル号用の 21万系や ダウォンシスが受注した ITX-マウム号用22, 23万系に受け継がれているといえます。従って、ヌリロ号は、Korailにおける長距離電車の元祖、日本で言えば、80系電車的位置づけと言えるでしょう。因みに 元祖 KTX はプッシュプルトレインで、電車 (分散式電動車) ではありません。KTX-イウムは電車になりましたが...

 なお現在でも多くのムグンファ号が客車のまま運行されています。

 日立製車輛の韓国再上陸は、協力事業者が得られるか、為替変動をどうヘッジするかがカギになると思いますので、なかなか難しいかもしれません。

www.jorsa.or.jp

toyokeizai.net

*1:日本で言う、~系、という言い方は韓国では~号代と表記します。

*2:かつて統一号は急行格の列車名でしたが、各駅停車のピトゥルギ号が廃止されると、各停格の列車の名称に格下げされました。