かつて日本のワープロのスタンダードを形成していた、ジャストシステムの一太郎ですが、Dos 末期に Windows の動向を十分読み取ることができず、ジャストウィンドウの開発に資源を注力したり、ロータスとの連携を打ち切り独自の表計算ソフト三四郎の開発にこだわったりと、迷走を繰り返した結果、すっかり凋落してしまいました。隣の韓国、アレアハングルが、現在ハンコムオフィスとして依然韓国オフィス市場でなんとか1位を守っているのと対照的です。
最近一太郎の凋落ぶりを改めて感じさせることがありました。Libre Office で一太郎文書フィルターが使えなくなっていたのです。Microsoft Office は 2010 から一太郎読み込みアドインをなくしてしまいましたが、Open Office, Libre Office では一太郎フィルターがあり読み込むことができていました。
ところが、Libre Office Ver. 7 代になってこれを入れようとしたら、インストールできません。そもそも一太郎フィルター自体が 2009 年に公開されて以降、 Ver. 1.0 のままです。そして、"This extension was not updated recently. It might not work with latest versions of OpenOffice." との警告メッセージが書かれていますが、その通りとなりました。
そもそも地元徳島県は、2011年にそれまで公式ワープロソフトとして使っていた一太郎を Open Office に移行し、2013 年には Libre Office に移行しています*1。そのためか、ジャストシステムも2013年8月に本社機能を東京に移しています*2。
Libre Office の一太郎フィルターが使えなくなってしまったことに対する声も上がらないようですので、いかに一太郎が凋落しているのかが分かります。
一太郎自体も、読み込みは、Word 2010 以降および 2007 以前形式の両方に対応していますが、書き込みは、2007以前にしか対応していません。Microsoft は、Office 2010以降のファイルフォーマットを広く公開しているにもかかわらず...
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ところで、お隣の韓国のワープロ事情はどうでしょうか。現在でも辛うじて韓国ナンバーワンのワープロソフトの地位を保っているハンコムオフィスはどういう戦略を取っているかというと、元々ワープロソフト、アレアハングル (のちハングル) が非常に高いシェアを持っている一方、表計算ソフトに関しては Excel に押されていました。ただ Excel が高いシェアを持っているということは Microsoft Office のライセンスにプラスしてハングルのライセンスを買おうという企業の意欲をそぎます。実際に徐々にシェアを減らしています。
そこで、2016年に登場したハンコムオフィス・ネオ以降、徹底的に Microsoft との互換路線を採ります。ワープロソフトの場合、従来版のハングルと、Ms Office Word との互換性を高めた、ワンワードを搭載しています。また、従来版のハングルは、古ハングルを含んだすべてのハングルの入力できるということで、教育現場や韓国語学界から強い支持を得ています(Microsoft Word およびハンワードでは不可)。
また、表計算ソフトのハンコム版、ハンセルは、2018年に登場したハンセル2018 から VBA もサポートしています。
ちなみにハンコムオフィスの日本語版は、ソースネクストを販売元として、Think Free Office として販売されています。
また軍隊では一般にハンコムオフィスが使われており、Microsoft Office のライセンスは一部隊に 1, 2 台のパソコンに限定されていることから、一般の行政現場でもハンコムオフィスが広く使われているという状況のようです。
またハンコムオフィスはオフィス用と家庭用で価格を変えており、家庭用では日本円で1万円程度で購入することができます。これは正しい戦略なのではないかと思われます。
とはいえ、Microsoft も大学生に対して無料で Office を使える大学向けライセンスを提供するなど (これは日本も同じですが)、攻勢を強めており、予断を許さない状況ではありますが...
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ワープロベースですが、以前検証したように Libre Office でもかなり Microsoft Office との互換性が高まっています。また 表計算ソフトのマクロ機能に関しても、VBA でなく Python を使って外部から操作するということが一般化すれば、Libre Office でもかなり健闘できます。VBA を使わずに Python を使って外部からマクロ操作するという路線はマクロウィルスを避けるうえでも賢明です。
このように、MS Office 2010 以降のファイル形式がデファクトスタンダード化した以上、一太郎の対応が不十分では挽回の可能性は低いでしょう。一太郎ファイル形式が完全にプライベートな規格になってしまった以上、外部とのファイルのやり取りは、編集の必要がなければ PDF 編集の必要があるなら、デファクトスタンダードとなった Offcie 2010形式、あとはオープンドキュメント形式で行う必要があります。一太郎は Office 95/2007形式には対応していますが、Ms Office でも 95/2007形式を現在のバージョンで読み込んでも微妙にレイアウトずれが発生します。それを考えると Office 2010形式での出力をサポートし、ファイル互換性を高めた上で、何らかの特徴を打ち出す必要があるように思います。もっとも現在の一太郎は ATOK のおまけのような存在なのかもしれませんが...