Linux上では、Windows はもちろん Mac OS でもビジネスソフトとしてはデファクトスタンダードになっている Microsoft Office が、Wine を通じて使う以外使えません。しかも Office 2016 以前に限られます。
Linux 上で無料で使える Office ソフトとして、代表的なものに、LibreOffice がまず挙げられますが、他にもいくつかあるようです。LibreOffice の派生元である Apache OpenOffice もありますが、更新頻度、バージョンアップ状況から、LibreOffice に軍配を上げる人が多いようです。
それ以外に中国の Kingsoft による、WPS Office のフリーバージョン (Windowsではフリーバージョンはないようです)、ドイツの SoftMaker による FreeOffice があるようです。
ここでは、LibreOffice、WPS Office および SoftMaker FreeOffice の3つを取り上げ、ワープロ機能を中心に見ていきます。
Ubuntuでもデフォルトでインストールされる Officeソフトです。改めて言及するまでもないと思います。
■ WPS Office
中国の Kingsoft (金山軟件) が Microsoft Office 互換を目指して開発している Office スイートで、Windows 版は広く廉価パソコンにプレインストールされています。Linux ではフリー版が提供されています。Windows版も英語のサイトからなら無料版のダウンロードができるようです。
端末を開き、ダウンロードディレクトリに移動し、
sudo dpkg -i wps-office_11.1.0.11664.XA_amd64.deb
※ wps-office_11.1.0.11664.XA_amd64.deb という部分は、最新版のダウンロードファイルが更新されたらその名前に置き換えてください。
以下の様にパッケージインストーラを選んで、ダウンロードファイルを開いてインストールします。
有償版との違いは以下に出ています。
日本語化に関する情報は以下にありました。
■ SoftMaker FreeOffice
これは今回調べるまで知らなかったのですが、ドイツのソフトウェアメーカーのようです。有料版と無料版があります。日本語のサイトがあり、日本語化も可能です。
インストールの方法は以下にあります。
www.freeoffice.com レポジトリからインストールした方が良いように思われます。日本語化も問題ありません。
有償版との比較は以下にあります。
● 無料でインストールできる Microsoft Fonts
マイクロソフト提供の、Linux でも無料で使える英語の基本フォントがインストールできます。手順は以下です。
○メニュー配置や外見
リボンインターフェース採用以前の Microsoft Office に似ています。Microsoft Office でリボンインターフェース採用時は、なんだかうざったくなったな、と思いましたが、今では逆に慣れ、また、画面が狭い場合は、リボンが隠れるようになって、うざったさも減り、今ではないほうが物足りないように感じるようになりました。アイコンは独自のものになっています。
またリボンインターフェースですが、現在では、[表示] → [ユーザインターフェース] を選んで[タブ] を有効にします。
以下タブを有効にしたところです。
なんだか微妙にバランスが悪く、個人的にはタブを有効にしないほうが良い感じです。
他に、アイコンに関してですが、Microsoft Office に似せるには、[ツール] → [オプション] → [表示] でアイコンスタイルを Colibre に変更します。多少似るという程度でしょうか。
なお、アイコンを Microsoft Office 互換のものに変える拡張機能が公開されていますが、これは LibreOffice 6以下互換のようです。
・SoftMaker FreeOffice
インストール時に色々インターフェースが選べますが、デフォルトのものにしてみました。
メニュー配置は、ほぼ Microsoft Office と一緒で、MS Office に慣れている方は、全く違和感なく使えると思います。
・WPS Office
WPS Office の特徴として、まず、文書ごとにタブ表示が可能な点です。これは Microsoft Office よりも優れているかもしれません。そして各文書ごとのメニューの配置はぼぼ Microsoft Office と一緒ですので、違和感なく使えるかと思います。ただ基本的にモノクロ表示のみです。
○ 日本語入力 (Mozc との相性)
以下、基本的にiBus 上のMozc で検証しています。Fcitx では結果が異なる可能性があります。
しっかりインライン入力が可能です。Windows の Microsoft Word と比べると文節の区切りが表示されないのが難点ですが、これは LibreOffice の問題ではなく Mozc の限界だと思います。
・SoftMaker FreeOffice
インライン入力はできませんが、Wine上のWindowsアプリケーションの場合、日本語候補が、左下に表示され不便なのに比べ、入力しているラインのすぐ下に表示されるので、あまり問題はありません。未確定文字も表示されます。
・WPS Office
日本語入力に関しては、基本的には、FreeOffice と同じですが、未確定文字が一切表示されないので不便です。
○スペル・文法チェック機能
LibreOffice の場合、まず、Hunspell というオープンソースのフリーのスペルチェッカーが内蔵されており、辞書を追加することによって、各国語のスペルチェックに対応します。Hunspell に対応した LibreOffice 用の辞書の一覧は以下にあります。
および
ちなみに Hunspell とはもともとハンガリーで開発がスタートしたオープンソースのスペルチェッカーのプロジェクトのようで (Hungory なので Hunspell) 現在でもハンガリー政府の財団がプロジェクトの支援を行っているようです。残念ながら日本語の辞書は見当たりません。Hunspell 日本語辞書作成コントリビューターがいないためのようです。
それ以外に、拡張機能として、先日紹介した、LanguateTool といった拡張機能として追加可能な文法チェッカーが実装できます。
・SoftMaker FreeOffice
こちらもやはり、Hunspell をスペルチェックエンジンとして採用しているようです。ただ実装形式が LibreOffice とは異なるようで、辞書の拡張子が異なります。おそらく形式も微妙に違っているのでしょう。デフォルトでは英語とドイツ語の辞書が入っているようですが、以下の言語の辞書が追加可能です。
スペルチェックを行う際は予め、言語を選択してから、その言語を入力する必要があります。アジア言語では韓国語のみ対応で、日本語、中国語は非対応です。
なお、有料版だと、プランによりますが、20か国語の言語でより高精度有償辞書を使ったスペルチェックが可能になったり、独語の文法チェックが可能なようです。
・WPS Office
さすがに中国製だけあって、フリーバージョンでも、中国語と英語のスペルチェックに対応しています。Hunspell には日本語同様、中国語の辞書がありませんので、中国語利用者は WPS Office 一択になると思います。スペルチェック可能な言語を増やすことはできないようです。なお有償バージョンだと 41か国語に対応するようです。
なお、WPS Office の Windows および Mac OS版は、日本国内では有償バージョンで永続ライセンス販売がありますが、海外では期間サブスクリプション・ライセンスしかなく、Unix版の有償版も期間サブスクリプションしかありません。追加日本語フォントもないと思います。
○図形
個人的には Microsoft Office のオートシェイプをブログなどで説明を書くときに多用しています。その使い勝手を見ていきます。
どうやらシェイプの種類は Microsoft Office より豊富そうです。しかしデフォルトでは図形で表示されず、文字でしか選択できないので選択しづらいです。
これに関しては、[図形描画機能の表示]で、一番下にツールバーを表示させることげ解決します。
あと、個人的にイライラするのは、吹き出し、特に線吹き出しです。
これは個人的に多用するシェイプなのですが、LibreOffice ではこの線吹き出しの線の位置を自在に編集することができません。したがって例えば上のオリジナルの先の位置を右につけたいと思うばあいは、左右反転に、下につけたいと思えば上下反転にしなければなりません。また線と四角の間隔も調整できません。要は 四角 + 線 で対応すればよいだろうということで手抜きになっていると思いますが... このあたりは、Microsoft Office に比べ不便です。
[追記]
上記の記述は不勉強だったためで MS Office の手順とはことなりますが、調整できます。以下をご覧ください。
・SoftMaker FreeOffice
FreeOffice のオートシェイプのメニューは Microsoft Office と全く同じで迷いません。
ただし、線吹き出しの使い勝手は、LibreOffice と同じでイライラさせられます。
・WPS Office
やはり図形のメニューは Microsoft Office と同じです。
線吹き出しに関しても Microsoft Office と同じように編集できます。オートシェイプの使い勝手の良さは、ベストかと思います。
○ワード文書の読み込み・互換性
まず、お役所の枠線を多用し、フォーマットズレが盛大に起こりそうな文書をいくつか読み込んでみました。サンプルは静岡県公安委員会への申請書類です。
最初は Word です。
Linux 上の Wine + Word 2010でも見てみます。
次は LibreOffice です。
予想外に健闘しています。枠線のズレもほとんど問題にならないようです。ただ「名称」という文字が落ちています。
次は、FreeOffice。
枠線自体のズレはあまりありませんが、縦書きが解除されてしまっているところがあります。また「名称」が落ちているのは同じです。
次はWPS Office。
こちらは結構きれいです。特にフォントのアンチエイリアス表現がきれいで、オリジナルの Word よりも良いです。但し、「名称」という部分がかぶっています。おそらくこれは元原稿に問題があったように思われます。一見見えないけれども隠された文字が入っていたのではないでしょうか。
次からは別の申請書です。和歌山県の労働委員会宛申請書のサンプルです。
まず、Word から。
次は Wine上の Word 2010。
オリジナルです。
次は LibreOffice。
まずまずです。ただ一番下の枠線が消えているようです。
次は、TextMaker。
とりあえず問題ないです。
最後は WPS Office。
表示はきれいで再現性は高いです。やはり日本語フォントのアンチエイリアス表現がきれいで、オリジナルの Word よりもきれいに表現されているのは同じです。
次は Microsoft Word の 日本式履歴書のテンプレート。もともとは Word 2007用のようで、2010以降に採用されている Open XML 形式 (拡張子が .docx となっているもの) ではありません。
まず Word 2019です。
次はWine上の Word 2010
次は LibreOffice。
若干変なところに線が引かれています。またこのキャプチャではわかりませんが、全体的に微妙にずれています。Open XML 形式でないためかもしれません。とはいえ、多少の手直しで使えます。
次はFreeOffice。
縦書きが横書きになっているところがあり、また写真の位置もずれています。ここはおそらくオートシェイプを使っているものと思われますが、オートシェイプの位置取りに難があるようです。全体的な位置のズレも、LibreOffice Writer より悪いです。やはり縦書きがいまいちなのは、ヨーロッパで開発されているためでしょう。日本語利用者も多いとは思えません。
次は、WPS Office。
ズレはなく、表示もオリジナルの Word よりきれいです。さすが、国内プレインストール No. 1 互換ソフトだけあります。
その次はやや複雑なオートシェイプを使った図を読み込んでみます。
まず、オリジナルの Word 2019 です。
次に LibreOffice です。
かなり再現性が高く、完璧に近いです。予想外でした。ちなみに Word上で、LibreOffice の odt 形式に変換するとグズグズに崩れてしまいますので、むしろ Word ファイルを直接 LibreOffice で読んだほうが良いです。
次は、SoftMaker FreeOfficeです。
かなり崩れてしまいました。やはり図形オブジェクトの扱いに難があるようです。
次に WPS Office Document
一部フォント設定を除けば、ほぼ完璧です。もっとも Word との互換性を謳わない LibreOffice でさえ完璧に近いので、この程度でないと困ります。
以上をまとめると、各機能の良い順では...
入力のしやすさ: LibreOffice > FreeOffice > WPS Office
スペルチェック・文法チェック機能の豊富さ: LibreOffice > FreeOffice > WPS Office
(ただし中国語を使う場合は、WPS Office 一択)
図形の使いやすさ: WPS Office > FreeOffice > LibreOffice
メニュー等の外観: FreeOffice > WPS Office > LibreOffice
Microsoft Word との文書フォーマットの互換性: WPS Office > LibreOffice > FreeOffice
文書の表示の綺麗さ(アンチエイリアス表示): WPS Office > LibreOffice & FreeOffice
というあたりでしょうか。
しかし、LibreOfficeも意外と健闘しています。
FreeOffice はWordとの文書フォーマットの互換性を除けば大体2番手で、文書フォーマットの互換性のみ3番手というあたりです。
入力がいまいちやりにくいという点を我慢するならば、一般的なユーザなら、WPS Office 一択で良いと思います。Wine上で Word を動かしてもどうせ入力がやりにくく、使い勝手がよくありません。WPS Document もあまり入力の使い勝手はよくありませんが、Word よりましなのと、文書のアンチエイリアス表現のきれいさは オリジナルのWindows上のWord をしのぎます。通常の文書作成に限って言えば、わざわざ Wine上で Word を動かす意味はなさそうです。なお画面上でアンチエイリアス表示ができなくても、印刷結果はきれいですのでご心配なく。ご心配なら一旦PDFに出力して確認してみてください。個人的には、入力のしやすさ、外国語入力の利点がありますので、LibreOffice を常用し、WPS Office を仕上げに使うという使い方をしたいところです。
なお、Linux 上で Microsoft Word との互換性を厳密に追求しようと思うと、フォントも同一のものを入れたほうが良いということになります。そうなると浮いている Windows のライセンスなどを使って Windows からフォントだけ取り出して入れるなどの工夫が必要になってきます。特に、公共機関の申請書など、MS明朝やMSゴシックが使われているケースが多いですが、これらは Windows からしか得られません。游明朝、ゴシックに関しては Microsoft が以下で無償で配布しています。
www.microsoft.com また、Windows とデュアルブートにしているケースでは、Windows側のフォントディレクトリに対し、~/.local/share/fonts からリンクを貼るのが良いです。これだとLibreOffice, WPS Office いずれも認識可能です(WPS Office は個別フォントのリンクでも認識できますが、LIbreOfficeはできません)。
しかし、本来ならば、このような公共機関の申請書などは、1ソフトメーカーの配布するフォントに依存すべきでなく、IPA明朝やゴシックが使われるべきかとおもいます(なかにはJS明朝を使っているケースもあり)。また、日本政府も各OSメーカーにIPA明朝やゴシックをプレインストールするよう要請すべきでしょう。
なお、LibreOffice には、この点でフォント置換リストをユーザが設定できるようになっているので、MS 明朝がない場合は、フォント高さが一致するフリーで配布されているBIZ UD明朝に置換するよう設定しておくと良いと思います。
なお、Microsoft Office のオプションフォントに関しては、Microsoft Office を入手しなくても、WPS Office 有償版 (Window & Mac OS)や ThinkFree Office Premium版 (Windows) などでより安価に入手可能です。フォントを使いたいだけならこのようなフォント付きの廉価な Office ソフトの Windows版を購入して、そのフォントを転用するのが良いと思います。
ともかくLinux 上で機能 No. 1 という Libre Office の地位は揺るぎなく、Microsoft Word との互換性も多少の手直しでかなり行けそうです。あとはもうちょっとインターフェースが洗練されればなぁ... 厳密に Word とのレイアウトの互換性を求めるなら WPS Office ということになるかと思います。
[追記]
SoftMaker FreeOffice は、クリップボード機能が制限されていて (画像データがクリップボード経由で貼り付けられない等) ちょっと苦しいです。また これは Wine の問題だと思いますが、Wine で使う Windows アプリケーションもクリップボードに制約があります。
--------------------------
参考情報
LibreOfficeの外観を Microsoft に近づけるための情報
----------------------
関連記事