省型旧型国電の残影を求めて

戦前型旧型国電および鉄道と変褪色フィルム写真を中心とした写真補正編集の話題を扱います。他のサイトでは得られない、筆者独自開発の写真補正ツールや補正技法についても情報提供しています。写真補正技法への質問はコメント欄へどうぞ

赤く変色したポジフィルムの補正法模索中

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・赤く変褪色したポジフィルムをPhotoshopの自動カラー補正に掛ける際は、色温度を上げてから掛けたほうが、より良好な結果が得られる

Photoshopの自動カラー補正は、単にホワイトバランス調整だけを行っているわけではなく、色かぶり除去には、Nik Collectionなどの他のツールに比べて、より広い範囲で有効性を発揮する可能性が高い

・自動カラー補正を掛けた後も、マスクなどを活用して、遠景と近景で補正の仕方を変えたほうがより効果的に補正できる

 

 とりあえず、不均等黄変のネガフィルム補正法は一段落つきましたので、変褪色したポジフィルムの補正法ちょっと考えてみようかという気になりました。で、1960年代前半のスライドを取り出してきたり、ネットに上がっているポジフィルムの変色したものを探していろいろいじっているところですが、なかなか難しいです。かなり変異の幅がありそうである程度汎用的な手法の開発は困難かもしれません。

 例えば典型的に真っ赤になったポジフィルムは下記のようなものです。こちらはオリジナルはサクラカラーのポジフィルムのようですが(おそらく1960年に発売された内式のさくらカラーリバーサルASA50)、ES-1+Ai Micro-Nikkor 55mm + PK-13を使ってNikonのD5500で取り込んだものです。

 

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 RGB分解してみると、Rが赤カビもあってかなり損傷しているのは明らかです。カビだけではなく、そもそもフィルムが赤っぽくなっているということはRが褪色していることを示します。Gは大丈夫そうですが、Bも結構怪しいです。そもそもフィルムが赤みがかった紫なのでR, Bとも褪色しているとみてよいと思います。

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R (赤) チャンネル

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G (緑) チャンネル

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B (青) チャンネル

 

 これ以外に、別に真っ赤になったフィルムでRGB分解を掛けてみると、Rは極端に褪色しているものの、G, Bは健在そうなフィルムもありました。ところがこれに落とし穴があるのに気づきました。いろいろチャンネル要素を混合させて補正を繰り返しても、モノクロフィルムに薄く単色で色を付けたような感じにしかならないケースがあることが、かなり時間をかけた末、分かりました。

 このようなケースの場合、色のRGB値を測ってみると、Rが異常なのは当然ですが、G, Bの値が極めて近接しているケースが多いことが分かりました。差があっても多くは10未満、差があってもかろうじて10をちょっと超えるかぐらいです。つまり一見まともにみえるBチャンネルですが、ほぼGチャンネルのコピーに近い状態になっているということです。ネガフィルムの損傷の場合RGB分解してみると、どう損傷しているかが一目瞭然なのですが、ポジはその点意外と厄介かもしれません。一方で、カビによる不均等な変異はあるものの、ネガフィルムのような不均等変色は見られません。やはりあの不均等変色はポリエチレンのネガシートの可塑剤が主犯ではないかという気がします。

  その中でも、最大限RGBのそれぞれのチャンネルの差異を最大化しようとすると、とりあえず赤っぽくなった写真の色温度を大幅に引き上げ (つまり原稿が色温度が低い状態として扱う)、それをPhotoshopの自動カラー調整に掛けると、どうも可能な範囲で最大限ましな結果になりそうだということが分かってきました。ちなみにPhotoshopの自動カラー調整は、単純にホワイトバランスの調整をやっているわけではないようで、色かぶり除去対策としては最強そうです。残念ながらこの点でもGIMPは負けるようです*1。Nik CollectionのColor Effex Proの色かぶり除去よりも強力かもしれません。もっともPhotoshopでだめでもNik Collectionだと大丈夫な場合もあるので一概には言えませんが... *2ただ赤みがかっている場合、色温度を変えないと、Photoshopの自動カラー調整を掛けても効果が限定的です。さらに赤みが強いと、ほぼ効果はありません。これは色温度を変えるとRGB色空間のなかの色の分布の位相が大きく変わり、その結果、RGBチャンネル間の多様性が増えるためではないかと推測します。Photoshopの自動カラー調整のアルゴリズムは明らかではありませんが、RGB間の多様性が少ないと効果もあまりないのではないでしょうか?

 上の写真の色温度を引き上げ (NikonのRaw現像ソフトCapture NX-Dでオリジナル光源を電球[3000k]に設定)、さらにPhotoshopの自動カラー調整に掛けた結果が以下です。

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色温度を上げた状態

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その後Photoshopの自動カラー補正に掛けたところ

 かなりましになりました。まず黒のレベルが適正です。あと、おそらくRのレベルは適正のような気がします。ただ緑/マゼンタ, 青/黄がさっぱりで、浮世絵の紅刷りを見ているような感じです。おそらくG, Bチャンネルの中域がダメなのでしょう。この状態から直ちに元の色を推測できるところまでいきません。元の色を推測する選択肢が狭まった程度です。従って、あとは元の色を想像で補うしかないという状況です。なお、オリジナルの状態でPhotoshopの自動カラー補正を掛けても、大して改善されません。

 で、この後いじるとすると、パーツごとに補正レイヤーを作って、それごとにトーンカーブを上げ下げしながら色を再創造するしかなさそうですが、膨大な手間がかかりそうです。因みにここまで褪色が進むとパーツごとに選択範囲を得るということが、また非常に困難です。GIMPの場合ですと、色域選択では全然思うような選択範囲が得られず、ファジー選択でも不十分。やるとすると、一旦自由選択でパーツをやや大きめに切り取って (その際、境界はぼかさない) 部分補正レイヤーを作り、その後、ファジー選択で要らない部分を切り取る、というのがよさそうな気がしています。この点でもPhotoshop はやはり使い勝手がより良く、ツールボックスから選択できる、[クイック選択ツール]が、GIMPのファジー選択よりかなり良い結果を得られるというのが、今のところの感触です。GIMPでもより良い選択方法がないか、今後とも、探ってみるつもりではありますが...

 他の色チャンネルの情報を流用して、損傷した色チャンネルを修復するというアイディアは、これほど損傷がひどいと利用困難です。結局他チャンネルの情報の流用は、色チャンネル間の多様性を減少させる方向に動かしますので、少しでもチャンネルの多様性を確保したい場合は、ネガティブに働いてしまいます。ただその一方で、色チャンネルが2つ健在か、それに近い場合であれば、3つ目の損傷が激しくても、他チャンネル情報の流用で何とか復元可能なのではないかという気がしてきました。

 ポジのほうが褪色した場合の変異の幅が大きすぎて、標準的な補正方法の開発は困難かもしれません。それとすべてフリーソフトで実現するというのも困難そうです。とはいえ後者の目標は、そんなに写真の状態が悪くなければ可能かもしれません。

 ちなみに同じ赤っぽい写真でも、堀内カラーのWebページに出ている写真だとかこちらのページに出ているC55の写真ぐらいは、Photoshopで結構何とかなります。 先ほど述べたように、色温度を上げてからPhotoshopの自動カラー補正に掛け、さらにトーンカーブによる補正を追加してやると、そこそこ行けます。同じように赤っぽく見えても、まだまだ色チャンネルの多様性がかなり残っているので、補正の余地が結構あるのです。ただ、いきなり自動カラー補正に掛けてはいけません。上のC55の写真を紹介しているページではこれが補正の限界だ、とする写真を掲げていますが、これは明らかにPhotoshopの自動カラー調整にいきなり掛けた結果です。色温度を上げて掛けると、もうちょっとましになります。さらに、近景と遠景に分けてトーンカーブ調整をやるとさらにましになります。近景と遠景に分けてカラー調整を行う、というのもミソかもしれません。

 ところで、同時期のフジカラーのポジフィルムですが、そちらはさくらカラーに比べかなり褪色が少ないです(下図、取り込み方法は上と同様で一切補正なし)。保管状態は同じなので、明らかにフィルムの差(あるいは現像技術の差)です。日本初のカラーフィルムの開発はサクラ (小西六) だったのですが (1941年) 技術的にはやはりフジフィルムのほうが進んでいたのでしょうか? あるいはひょっとすると外式の富士カラーリバーサルフィルム (ISO10) かもしれません。富士のフィルムは露光不足気味の写真が目立ちますので。富士は1961年に、小西六に遅れて内式のリバーサルフィルムを発売したようですし... *3

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*1:GIMPのカラー調整はいろいろオプションは多いのですが、ホワイトバランス以外は、不自然になる傾向があり使えません。補正量の調整ができるとまた違うのではないかと思いますが。

*2:Corel社のPaint Shop Proの色あせ補正機能は試していないのでどの程度かわかりません。ただ色あせ補正のケース紹介が次のページにあります。ただこのページの2番目の写真をPhotoshopの自動カラー補正に掛けると、傾向は似ていますが、全般的に白っぽいコントラストの低い結果になります。さらにガンマを上げてやるとPaint Shop Proの結果にさらに似てきますが、Paint Shop Proより若干Gがかった画像になります。Photoshopの自動補正より優秀な可能性もありますが、Paint Shop Proのアルゴリズムで得意な事例を掲げたのかもしれず、何とも言えません。

learn.corel.com

*3:外式のリバーサルフィルムというと、Kodachromeの専売特許と思われるかもしれませんが、実は内式リバーサルフィルムはAgfaが特許を持っていて、その特許が切れる1960年ごろまで他のメーカーは内々に研究開発はしていても、内式リバーサルフィルムを発売することができなかったようです。ですので国産初のリバーサルフィルムは外式だったようです。内式リバーサルフィルムの発売が可能になったことで、国産メーカーは、現像面やフィルム感度面で不利だった外式リバーサルフィルムの発売を取りやめたようです。参考文献: 堀越, 二村, 藤巻, 1992「コニカカラー50年の歴史」

https://www.konicaminolta.jp/about/research/technology_report/1992/pdf/2.pdf