本記事の概要
・Geoff Daniell氏作成のフリーの赤変補正GIMP用プラグインを使い、さらに調整を加える褪色補正技法の紹介・各フォトレタッチソフトの赤変ポジに対するホワイトバランス自動補正能力の検証
・GIMPの自動補正-平滑化機能の、赤変ポジ補正への有効性の発見
以前、当ブログで「ここまでできるポジフィルム褪色補正 Vuescan vs. digital ROC vs. マニュアル補正」という記事をアップしました。現在も一定のアクセスがあるようです。その際、主として有料ツールを使った補正を紹介しました。無料のRawTherapeeを使ってRGB別トーンカーブを使ったマニュアル補正も紹介しましたが...
ところで、最近フィルムの取り込みを行おうという方は、デジタル一眼カメラを使ったフィルムデュープを使おうという方が多いのではないかと思います。デジカメによるフィルムデュープの難点は、スキャナだと使えるスキャナ・ドライバによる色補正が使えない点です。
RawTherapeeを使ったトーンカーブ補正はちょっと難易度が高い...、と思われる方は有料ツールを使うしかないか、となる方も多いと思います。そこで、本日の記事ではスキャナ・ドライバや有料ツールを使わず、かつ、なるべく簡単にということで、RawTherapeeのトーンカーブ補正も使わずに、今まで当ブログで紹介してきたフリーのツールを使ってどこまで赤変褪色ポジフィルムが補正できるか、を試行してみたいと思います。
サンプルとなる赤変褪色画像は以前の記事でも引用した筆者手持ちのこちらの画像です。
まず、RawTherapeeによるトーンカーブ補正を使わないとなると、やはり当ブログの以下の記事で紹介したGeoff Daniell氏作成のフリーのGIMP用補正プラグインを使うしかありません。
yasuo-ssi.hatenablog.com これのRestore3を使ってまず補正を掛けます。なお、作者も言っていますが、速度は遅いので、6000 x 4000ピクセルぐらいの大きなファイルだと数分待たされます。その結果が以下の図です。この図も上の記事で紹介しています。
しかし若干赤っぽいので、フリーの現像ソフト darktable に読み込んでホワイトバランス調整に掛けます。掛けた結果がこちらです。
ホワイトバランス調整を掛けると、Geoff Daniell氏のRestore4.pyに掛けた結果とかなり似てきます。Restore4.py自体は、純粋なPythonスクリプトとして作成され、補正結果もRestore3よりベターですが、Jpegしか対応していないという問題点、および大きなピクセルの画像は修正してくれないという問題点を抱えていました。なお、ホワイトバランス調整にGIMPではなくdarktableを使ったのは、GIMPの自動調整よりも良い結果が得られるためです。
この結果を先日紹介した筆者作成のImageJ対応 汎用色チャンネルマスク画像作成ツールに掛けて緑と赤用の補正用マスクを作ります [追記: 現在では、汎用色チャンネルマスク画像作成ツールの代わりに、相対RGB色マスク作成ツールをご利用ください]。なお、バグ修正版を必ずご使用ください。GIMPでホワイトバランス調整済みの画像を読み込み、オリジナル画像のレイヤーを2枚に複写し、それぞれに緑と赤用のマスク画像をマスクとして貼り付けます。
この画像をマスクとして貼り付けたレイヤーには、GreenとRedの値を上昇させ、木や森の緑を黄緑色に近づけていきます。
こちらの画像をマスクとして貼り付けたレイヤーは、Redの値を下げ、赤さびやコンクリート壁の赤みを減らします。
さらにGIMP上で多少明るく補正しました。緑が明るくなると同時に、過剰な赤みが抑えられ、落ち着いた感じになりました。さらに彩度を上げてみたのが下の図です。
筆者作成の、ImageJ対応 汎用色チャンネルマスク画像作成ツールを使うと、かなり柔軟にカラー調整ができることが分かります。もちろん、色域指定を使って調整してもよいのですが、GIMPの場合は色域指定による選択範囲指定に時間がかかるという問題があります。またパラメータで指定できるので、個人的には色域指定より補正範囲の指定がやりやすいように思います。
因みに、Vuescanによる補正結果です。
Vuescanのような有料ツールを使って赤変ポジフィルムの補正を試みたとしても、それだけで完璧な補正は困難で、やはり追加補正が必要となる場合が多いと思います。その意味では無料ツールを使ったとしてもさほど手間に差はないといえるのではないでしょうか。
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因みに、参考までに、Geoff Daniell氏の補正プラグインを通さずに、フォトレタッチソフト等の自動ホワイトバランスを、オリジナルの赤変褪色画像に掛けるとどの程度の結果が得られるかを試してみると...
まず、Photoshopです。
次はGIMPです。Photoshopの結果に酷似していますが、若干上より赤みが強いかもしれません。
GIMPの自動ホワイトバランス調整は、今までPhotoshopの自動カラー調整に比べて今一つという印象があったのですが、バージョンの進化と共にホワイトバランス調整も進化しているのか、それともこの写真だけたまたまそうなのか分かりませんが、非常にPhotoshopとの差が少なくなっています。
次はdarktableです。上の二つと傾向が異なります。
最後はRawTherapeeです。darktableより若干明るいようですが、傾向は似ています。
フォトレタッチ系とRaw現像ソフト系で傾向が二分されることが分かりました。赤みの改善という点ではRaw現像ソフト系の方がベターなような気がしますが、必ずしもどちらの方が優れているかとまでは言えないような... やはり、Geoff Daniell氏の補正プラグインを通さないと話になりません....
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と、ここまで書いてきたところ、ふとGIMPの自動補正オプションに[平滑化 (equalize)]というのがあり、それをやっていないのに気づきました。で何気なくやってみたところ、何と...
何と、一発でここまで来ました! 有料のVuescanやDigital ROCに匹敵し、甲乙つけがたい結果です。空のディティールはこちらのほうがよく保たれています。Geoff Daniell氏のプラグイン+darktableのホワイトバランス調整よりベターです。凄すぎます。ひょっとして赤変褪色カラーポジの補正に関しては、GIMPはフリーソフト中最強かも... 今まで見落としていました! これを緑部分がくすんでいるので、汎用色チャンネルマスク作成ツールを使って補正し、さらにRawTherapeeやdarktableで調整を掛けると...
ううーむ。GIMPの平滑化は赤変褪色カラーポジの補正のためにあったのか... この補正に関してはGIMPはPhotoshopをはるかに凌駕します。GIMPの平滑化が赤変褪色ポジの補正にこんなに劇的な効果があったなんて... 今まで誰も書いてないですよね (少なくとも日本語では)?
そして平滑化の説明がこちらにありますが... ここにあるアルゴリズムの説明を読むとまさに赤変褪色ポジ補正のための手法と言っていいと思います。またこのアルゴリズムは、おそらく褪色ネガでも有効なはずです。今まで見落としていました!
※なお、Photoshopにも似た名前の「平均化」という機能がありますが、GIMPの「平滑化」とは機能が異なります。詳しくは続編記事をご覧ください。
追記:
当記事の続編が以下にあります。併せてご覧ください。
※ GIMPの平滑化はヒストグラム平坦化または均等化を指すようです。Photoshop の「平均化」は ヒストグラム平坦化 処理ではありません。
また、imageMagick でもヒストグラム平坦化は実行可能なようです。例えば、以下のサイトに imageMagick での実行例が紹介されています。一般的には、ヒストグラム平坦化は、暗がりなどでコントラストがはっきりしない画像のコントラストをはっきりさせる手法として使われているようです。その場合、r, g, b を独立に平坦化させると色が変わってしまって好ましくないので、imageMagick では r, g, b を連携させて平坦化を実施するのがデフォルトになっているようです。しかし赤変フィルム画像を補正する場合、逆に、色を変えるために、r, g, b を独立に平坦化させる必要があります。
qiita.com また、ヒストグラムを平坦化させる手法ですので、256諧調のヒストグラムを作成してからその分布を平坦化させます。そのため、256諧調以上ある画像は、必然的に、諧調が256諧調に減り、トーンジャンプが発生します。これを多少でも修正したい場合は、ART, RawTherapee, darktable などに一旦読み込み、トーン編集を行うことで、トーンジャンプが緩和されます。
参考サイト
ヒストグラムの拡張・平坦化によるカラー画像の補正 (1/2)|CodeZine(コードジン)