ここのところ新しい不均等黄変ネガカラー写真のBチャンネル再建法による標準的な補正手順を考えていました。4月に公表した拙作の汎用色チャンネルマスク作成ツールを使うと、写真を補正する際に、かなり色調を制御可能なことが分かってきたので、これを活用した新しい標準的な補正手順が考えられるのではないかと思ったからです。その結果が、先日記事に書いた、Bチャンネル再建法適用後、汎用色チャンネルマスク作成ツールで作成したマスクによる色の調整、そして最後にフリーの現像ソフトを使った最終調整&ファイル出力という手順です。
その最後の最終調整に使うフリーの現像ソフトに関してですが、RawTherapeeとdarktableを比較してきたところ、もちろん使っている調整モジュールが異なるので同じ結果が出るわけはないのですが、どうも色の多様性をどう確保するかという観点からは、最終結果はRawTherapeeに軍配が上がるようです。
darktable は、RawTherapeeよりも、露出補正やホワイトバランス、そしてフィルミックRGBを使った明るさ・コントラスト調整など使いやすくなっています。一方伝統的なトーンカーブ補正などは非推奨となっており、使いやすさと、あまり大きく画像をいじくりまわすようなことは志向しない、ナチュラルな補正を志向しているようです。
ただ、darktableとRawTherapeeで似たようなところを落としどころとして編集を進めた結果を比較して見ると、いくつか試してみましたが、どうしても色の多様性という点でdarktableがRawTherapeeに負けます。ローカルコンテキストのきめの細かさもどうもRawTherapeeの方が精細感が高いです。逆にdarktableは、かなり細かいレベルでスムージングを掛けるようなことをやっているような気もします。
また、大きく色調が崩れている画像の補正も、darktableのあまり大きく画像をいじくりまわさないという方針ゆえか、RawTherapeeに軍配が上がります。
例えば以下の画像ですが...
オリジナルの黄変した画像ですが、180万色以上あります。なお今回ファイルのカラースペースはsRGBに統一して色数を測っています(オリジナルのスキャンファイルがsRGBだったため)。なぜかsRGBの方がadobeRGBより色数が増えてカウントされるので、adobeRGBと比較するときは注意が必要です。
これにBチャンネル再建法を適用すると半分以下に色数が減ります(図2)。
汎用色チャンネルマスク作成ツールで、緑色部分補正マスクを作成し、それによってGIMP上で、緑色の補正を図り、さらにグローバルにトーンカーブでBチャンネルに対しS字カーブを掛け青被りを補正すると、25万色弱、色数が増えます。
この図3に対し、さらに、RawTherapeeでコントラスト等最終調整を図ると、オリジナルには及びませんが、色数が30万色ほど増えて146万色まで回復します。
一方、darktableで図3の写真を、RawThrerapeeの調整結果に極めて近いところを狙って調整を掛けても、121万色余りまでしか増えません。ごくわずかな色数の増加しかなく、色の増加効果がRawTherapeeより少ないです。
この原因を探るべくこの画像の中央付近の家屋の同一の部分を等倍で比較してみました。するとこのようになりました。
意外にもRawTherapeeの方が粒子が粗いです。どうやら RawTherapeeの方はローカルコントラストを増やすような処理が行われているのか、それとも、darktable のほうに粒子を目立たなくするスムージング処置が行われているのか...
そこでさらに、オリジナルやGIMP上での処理段階のファイルと比較しました。すると...
どうも補正前(図3)により近いのは、darktableの方のようです。どうやら RawTherapee の方はマイクロコントラストを増して精細感を増やすような処理を行っているようです。ただ意外にも粒子自体はちょっと粗いので、なぜ色数がRawTherapeeの方が増えるのかよく分かりません。おそらくRawTherapeeでは、デフォルトで一定程度マイクロコントラストを増やす処理がかかっていると同時に、粒子が荒れる分を補償するため、色の諧調を増やしたり補完するような何か意図的な処理が行われているのではないかと推定します(なお、意図的にマイクロコントラストを増やすような処理はかけていません)。それでdarktableよりもRawTherapeeの方が色数が増えやすいのではないでしょうか。
そしてまたまた意外なのはその前の処理です。オリジナル~汎用色チャンネルマスク作成ツールによるマスクをかけた補正までは、比較的よく粒子の細かさが保たれています。さらに言うとBチャンネル再建法適用でローカルなきめの細かさが若干粗くなるような印象を受けますが、マスクを掛け緑の色を補正すると、むしろきめの細かさが若干回復するような印象を受けます。
ううーん、意外な結果です。ただ、ここまで拡大してみない限りでは、RawTherapeeの方が精細感のある画像が得られやすいとともに、色の多様性も大きい画像が得られる傾向にあるのは間違いありません。
もう一カ所、草の部分も拡大してみます。
画像の順番が上と揃っていなくて恐縮です。こちらもやはり傾向は同様です。意外とオリジナルと、G補正後のファイルの傾向が (色は違うものの) 似ているというのも同様です。またGIMPによるG補正後とdarktableによる補正結果は僅かな差しかありません。darktableによる補正で色数がほとんど増えないのも納得です。RawTherapeeは粒子自体は荒い印象ですが、細部のエッジは強調されています。やはりマイクロコントラスト上昇効果が掛かっており、ある種マイクロレベルでシャープニング効果が出ているようです。また、逆に考えるともともと粒子の粗いフィルム (例えば初期のコダカラー400など) をスキャンした結果をRawTherapeeで処理すると、マイクロコントラスト上昇によって粒子の粗さが目立ってしまう可能性があります。その場合はdarktableで処理した方が無難ということになります。
それと、汎用色チャンネルマスク作成ツールでマスクを作って、それに基づいて色を補正するというやり方が、思った以上に結構正解なのではないかと思わされました。少なくとも、オリジナル画像とG改善補正後の画像の細部を検討してみても、画像の解像度を低下させたり、荒れさせたりする心配はほとんどないように思います。
ところで、Web上の記事を検索してみると、例えば、以下のページで、darktableとRawTherapeeを比較して講評されている方がいらっしゃいます。
bigdaddyphoto.blog.fc2.com この中で、同じデモザイクの方式 (AMaZE) を使っても不思議にRawTherapeeの方が良いと書かれておられますが、私のファイル (フィルムスキャナの3CCDから得たファイルであって、デモザイク処理なし) での結果を見る限り、どうやらそれはデモザイクの方式の問題なのではなく、マイクロコントラスト処理の問題である可能性があると思います。
参考:
RawPedia エッジとマイクロコントラスト
https://rawpedia.rawtherapee.com/Edges_and_Microcontrast/jp