当記事のポイント
・フリーのRaw現像ソフト、RawTherapeeは色の階調補間に高い効果を持つ
・写真の、よりリアルな補正を追求するために、色の階調をどの程度まで補間して増やせているのかという指標は重要ではないか。ただし色の階調が増えたからと言って必ずしもリアルとは言えない。
以前、赤変褪色ポジの補正の話題の中で、フリーのRaw現像ソフトは、諧調補間効果がある、ということを指摘しました。ところで、黄変写真のBチャンネル再建法による補正を行っていて、補足色調補正の過程でRawTherapeeを使っていて、RawTherapeeが結構色の諧調を補間する効果が高いのに気が付きました。
以下、その補正の事例をお目に掛けます。
固有の色数: 1,314,791色
こちらはオリジナルです。スキャナドライバ(コニカ-ミノルタ Dimage Scan 5400II) の自動補正が掛かっているので、黄変自体の程度は少なくなっていますが、全般にその反作用で青被りになっています。とはいえ、前回ほど青被りはひどくありません。また一部周辺部分のBチャンネル情報抜けも始まっているようです。なお、色数はsRGBに統一して計測しています。
固有の色数のカウントはファイルをGIMPに読み込ませて、[色]→[色立体情報]で、出てくる情報を使っています。なお、色カウントは色空間をsRGBに統一してから計測しています。なおここに画像を掲示するのに、オリジナルファイルからピクセル数を減らしていますが(横幅 800 ~ 1920 pixels)、画像サイズを縮小すると当然ながら画像の色数もさらに減ります。ここでの数値はリサイズ前 (約 7600 x 5000 Pixels) の数値です。
固有の色数: 649,957色
Bチャンネル再建法を適用のみ行いました。ただ当然ながら、BチャンネルをGチャンネルの情報を流用して再建するので、やはり大きく色の多様性が減って、色の諧調は半分程度まで減りました。周辺部のBチャンネル情報抜けの補正も行っています。全般的な青被りも若干よくなりましたが残っています。
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固有の色数: 745,591色
スキャナードライバ(コニカ-ミノルタ Dimage Scan 5400II) の自動補正による青被りを補正するため、GIMP上で、Bチャンネルに対し、トーンカーブでS字補正を掛けるとともに、山や水田の修正しきれていない黄色味を解消するため、黄変透過マスクを使って黄色部分の解消を図りました。やはりこのような追加補正を行うと、色諧調の多様性は多少回復するようで、10万色程度ふえました。でもまだ不自然な感じです。
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固有の色数: 1,397,339色
Bチャンネル再建法によるGとB値が近づくという副作用のため、緑色部分が冴えなくなるのを解消し、より自然な緑表現を回復するため、GIMP上で汎用色チャンネル補正マスク作成ツールを使って作った緑透過マスクをかけ、G, Rチャンネルの値を上昇させました。やはりG値とB値の差をつける補正を行っているせいか、色の多様性はかなり増えて2倍近くになりました。オリジナルを超えています。しかし、まだナチュラルとは言えません。
なお、山の部分、補正1適用後はやや黄色~緑がかっていたのを、補正2で青に戻しました。それが補正3で再び緑がかっているので補正2は無駄だったように思えるかもしれません。しかし補正1では山がやや黄色がかっているのに対し、中間の水田部分がかなり青みがかっていました。それを補正2で両者をほぼ同レベルにしていますので、補正3で山が緑がかったとしても、補正2での修正は無駄ではありません。実際に色数は60万色も増えています。予想以上に劇的な効果です。
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固有の色数: 1,973,609色
GIMP上で、G透過マスク補正レイヤー(補正3)+Y透過マスク補正レイヤー(補正2)+グローバル補正レイヤー(BチャンネルS字補正/補正2)の順に重ねたうえで、一旦GIMPからTIFFファイルに出力し、RawTherapeeを使って補正します。RawTherapee上で、S字トーンカーブを使って、Bチャンネルの明るい部分のB値を上昇させるとともに、緑のニュアンスをより自然なものに改善するために、カラートーン調整を調整方法: L*a*b*の補正領域 を使って、黄緑方向に色相の調整を掛け、さらに全体に明るさを明るくしました。
この補正によって、色の諧調が、Bチャンネル再建法適用後の3倍近くに増えました。RawTherapeeの補正による色の諧調の補間効果もあり補正3より60万色弱も増えました。写真もようやくみられるものになったようです。6月、初夏の雲の多い空で、雲の切れ目から青空がのぞいているニュアンスが何とか表現できるようになり、いい感じで、本来こういう画像だったのではないかと感じられる画像です。雲の隙間から光が差し込んで、それが田の一部に空の青の反映として移っている、という感じも再現できました。この辺りが色の諧調数の各段の増加に反映されているように思えます。リアルな復元補正には、色の階調がどれほど増えているのかという指標は一つの手がかりになるのではないかと思います。
オリジナルの状態を考えるとかなり頑張れたのではないかと思います。因みに手前の水田は、水が抜かれて、一部水が溜まっているような状態、そして背景の山は、そんなに遠方ではなさそうなので、この程度のカラーで適切だと思います。
なおRawTherapeeの調整パラメータは下に図示します。
空の青み (および田の空を反映した部分) が足りないのが、この画像の今一つな点と考え、ハイライト部分のB値を大きく上げました。一方、緑の部分はB値がむしろ高そうなので、緑の部分改善のため低域で押さえ気味としました。
やはり、緑の部分がやや青みがかっているのを修正するために、色相をやや黄緑側に移動させてみました。適用色チャンネルはGチャンネルに限定するよりも全チャンネルに適用する方が良好な結果が得られました。
さらに明るみも足りないので中域を中心に値を上昇させました。上の画像のニュアンスを復元するには、トーンカーブ調整によるハイライト域の青の増強と、中域の明るさの上昇が特に効いているいると思います。
ヒストグラムは以下のようになりました。
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なお、darktableでも補正を行ってみました。主にカラーゾーンモジュールを使い、さらにカラーバランスも併用してみました。もちろん補正により、色の諧調を補間し増加する効果はありますが、RawTherapee ほどではないように思います。もっとも補正結果も異なりますし、私自身まだdarktableの機能を使いこなせてないためかもしれないので何とも言えませんが... ただ、画像のニュアンスの復元も今一つなので、それも反映していると思います。
darktableでは、緑の部分を色相を変えて黄緑色に寄せるのは可能ですが、それと空の青みを増すというのを両立させることが難しく、この程度になってしまいました。マスク編集をさらに併用すればよいのかもしれませんが、そこまでやるならRawTherapeeでもよいか、という話になります。以下のケースの場合、いろいろ試行錯誤してみて、固有の色数: 1,574,288色までになりました。
この画像の場合、ニュアンスを復元するという点で、かなり復元難易度の高い画像だと思います (ですので今まで手つかずでした)。
ヒストグラムはこんな感じです。
ヒストグラム的にはRawThrapeeのものと似てはいるのですがねぇ... 大きな違いはブルーのハイライトのピークがRawTherapeeでは、1本にまとまっているのに darktableは2本に割れ、ピークの突出が弱くなっている点でしょうか。おそらくRawTherapeeの高いブルーの突出が、画像のニュアンスの再現に大きな意味があるような気がしますが、それがうまくdarktableでは作れません。どうも、これだ、という結果になかなかなりません。
どうやら、カラーバランスの崩れがあって、色のトーンバランスを大きく変更するのには、darktableよりもRawTherapeeの方がやりやすいように思います。最後もびしっと決まりやすい感じです。しかも、darktableではトーンカーブによる調整は非推奨になっている上、仮に使うにしても、darktableのトーンカーブ自体、カーブの曲がり方等を考えると、RawTherapeeより使いにくいです。一方、カラーバランスの崩れが少なく微妙な調整で良い場合は、あまりあれこれ考えずに済むので、darktableの方が使いやすいです。自動調整もRawTherapeeより充実しています。darktableの、特にシーン参照ワークフローは、穏当、ナチュラル志向だと思いますが、逆に補正元が崩れていると補正しきれないような印象があります(補正は可能かもしれませんが難易度はRawTherapeeより高くなりそうです)。
もっともこの差は私がまだdarktableをちゃんと使いこなせていないせいかもしれませんが...
またGIMPでの補正はなるべくローカル補正に限り、グローバル補正はできるだけRawTherapee(or Raw現像ソフト)に任せた方が良いかもしれません。そのほうが色数の多様性の補完がしやすい可能性があります。
ここ最近は、個人的にはトーンカーブ調整とフィルムシミュレーションが必要な場合は RawTherapee 、それらが必要なければ darktable という使い分けになっています。特に私が使っているツールの中ではトーンカーブ調整がやりやすいのは断トツでRawTherapeeです。
最近、Bチャンネル再建法+汎用色チャンネル補正マスク作成ツールによる例示をお見せしたときは、最終調整に最初の例にdarktableを使っていました。最終調整に、RawTherapeeを使うか、darktableか、という問題は、GIMP上のホワイトバランス調整でほぼカラーバランス的に許容範囲であるならdarktable、そこでホワイトバランス調整掛けても、ちょっと違うという状態なら RawTherapee かというのが個人的な考えです。要は、補正難易度が高いファイルはRawTherapeeで最終調整、そうでないものはdarktableで、というあたりではないかというのが個人的な考えです。
最後に、上の写真を撮ったのと同時に撮ったもう一枚の写真の補正経過を簡単にお見せします。
固有の色数: 2,156,117色
固有の色数: 1,145,374色
固有の色数: 1,402,034色
固有の色数: 1,662,712色
こちらの方はオリジナルが213万色以上ありましたが、最終補正は166万余りと、オリジナルより劇的に色の諧調が増加するということはありませんでした。もっともBチャンネル再建法適用後の黄色味の残りは感じられませんでいたので、黄色に対する追加補正は行っていません。ただし、Bチャンネル再建法で色数が半分程度に減ったものを、グリーン透過マスクによる補正、そしてRawTherapeeによる補正で、それぞれで約26 万色ずつ増加して166万色余りまで諧調を回復させています。
鉄道写真としてはお見せできるレベルではありませんが、あくまでも変色ネガ写真の補正サンプルとしてご覧ください。
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