トーンイコライザもやはりRawTherapee5.8に登載されていない機能です。因みに、これはdarktableで先行して採用されていて、darktableのシーン参照ワークフローではトーンカーブの代わりに、フィルミックRGBやトーンイコライザを使うことを推奨しています。いわば、直接曲線をいじらずに、パラメータで指定するトーンカーブ調整といったところです。
但し、トーンイコライザがトーンカーブと大きく異なる点は、色相や彩度にほとんど影響を与えない点です。通常のトーンカーブでは、カーブをいじったときに、彩度や色相も影響を受けて変わります。逆にそれが、個人的には、面白いところでもあるのですが。darktable (シーン参照ワークフロー) でトーンカーブの代わりにトーンイコライザを使うよう推奨しているのは、トーン調整と、彩度、色相のコントロールを分離しようという設計思想からくるものだと思います。ただ、その分トーンカーブに比べてコントロールできる量が弱いように感じられるところもあります。darktableは、極端な目を見張る効果よりも、ナチュラルな画像編集を志向していると言えそうです。
ARTでは、トーンイコライザは、露出タブの下にあります。
ARTでは、全体を暗いほうから明るいほうに掛けて、黒、シャドー、ミッドトーン、ハイライト、白の6つのトーン領域に分割しています(darktableでは9つ)。そしてそれぞれのトーン領域の明暗をスライダーで調整します。+に動かすと明るく、-に動かすと暗くなります。これによりトーンカーブで明るさやコントラストを調整するのと同様な効果を生むことができます。
画面上のどの部分がどのトーン領域に属するのかを確認したい場合は、[トーン領域を色で表示]にチェックをつけてください。
なお、この分布はあくまでオリジナルのRawデータの値に基づいて決まります。例えばARTではトーンカーブとトーンイコライザを併用することができますが、トーンカーブを有効にしても、このトーン領域の分布は変わりません。但し、露出補正を掛けたり、Rawタブでホワイトポイント補正を掛けた場合は変わります。これらの調整は現像処理パイプラインの早い段階で行われるからです。
領域間遷移のスムーズ化(Regularization)は、例えばミッドゾーン領域の明るさを変化させた場合、隣接するトーン領域も、ある程度影響を受けてスムーズに移行するようにするのか、それともそうでないかを、を決定します。これはトーンイコライザーで全体のコントラストを圧縮しようとする場合、Regularizationの値を上げることは、ローカルコントラストをより維持する方向に持っていきますが、全体のコントラストを拡大する場合はその反対に働きます*1。
なお、Alberto Agriggio氏は、オンラインディスカッショングループで、このデフォルト値は1が良いのでは、と指摘していますが、現在のARTのバージョンだとデフォルト値は4(もっともスムーズ)になってしまいます。ご注意ください。
因みに、Regularizationは通常「正則化」と訳されますが、これでは何のことかよく分かりません。そこで意訳して、原語を付しました。これは前回の対数トーンマッピングも同じです。Regularizationは機械学習にも、過剰学習(overfittig)を是正する手法の名称として使われますが (その場合は正則化が定訳です)、この言葉の本来の意味は、要はでこぼこしたものを均す、普通にするという意味のようです。
ARTのトーンイコライザは、darktableのトーンイコライザより設定項目が大幅にシンプルになっていますが、その分、分かりやすく使いやすいと思います。またトーン領域の分布を色で表示するという機能はdarktable3.4にない、便利な特徴です。
なお、トーンカーブを使っていて、色相が変わってしまうのが気になるという場合は、トーンイコライザ以外にも、カラータブにあるL*a*b*調整の輝度トーンカーブを使うという手があります。こちらのトーンカーブでは、カーブをいじることによる色相の変化が起こりません (彩度の変化はありうる)。
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Ver. 1.14 で以下の機能追加がありました。
なお、以下の記事執筆後、この機能の翻訳を [トーン領域境界の移動] に改めています。
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下記の活用例記事もご参照ください。
*1:以下のディスカッションを参考。