昨年11月に RawTherapee 5.9がリリースされました。その際、ネガカラーをスキャンした画像のネガポジ反転を行うネガフィルムモジュールが大幅に変わりました。それまでは Rawデータモードでしか動かなかったものが、現像済みの TIFF ファイルでも動くようになりました。darktable のネガドクターモジュールを参考にして動作を改訂したようです。
ART も、11月にリリースされた、1.17で RawTherapee で改良されたネガフィルムモジュールを採用しています。このため、それ以前とは動作が変わりました。
そこで TIFF ファイルで試してみた結果を説明します。RawTherapee も新しいモードではおおむね同様です。
まず、ネガフィルムをキャプチャした TIFF ファイルを ART にロードします。キャプチャはに Vuescan を使ったファイルです。
次に、ネガフィルム・モジュールをオンにします。モジュールの位置は前と変わりません。
デフォルトはレッドの指数が高く、ブルーの指数が低くなっています。この画像の場合は全体にピンク~マゼンタがかりました。
次に、レッドとブルーの比率を決定しますが、[無彩色点をピックアップ] ボタンを押し、明るさの異なる無彩色点 (ホワイト、グレーまたはブラック) 2カ所をピックします。
場所が分かりにくい場合は画面拡大をしたほうが良いと思います。その場合、ポインタの位置を移動するには、右側の小さい全体プレビュー画面を使うのが良いと思います。なお、無彩色点はなるべく明るさの差の大きい2カ所の点を選んだほうが良いですが、今読み込んだ画像で適切な点が選べない場合は、同じフィルムストリップの別の画像を選んで調整し、そのパラメータを流用したほうが良いと思います。この値はフィルムの種類によって、あるいはさらに現像仕上げやフィルムを取り込んだ光源によって大きく変わってくると思います。
さらに、かなりダイナミックレンジが狭いですが、これを拡大するのに、基準指数を動かします。
基準指数を上昇させるとダイナミックレンジが広がりました。
また、必要に応じてレッドとブルーの比をマニュアルで微調整して下さい。
なお、ART 1.17以降では、フィルムベース測定機能がなくなり、ホワイトバランス調整に変更されています。
そこで、ホワイトバランスを調整しますが、ホワイトバランスの調整は、ネガフィルムモジュールにおいて行ってください。通常のカラータブのホワイトバランス調整を使うと、色が反対になってしまいます。この点は darktable と同じになりました。
これもホワイトバランス点の指定をクリックし、画像中の白いニュートラル(無彩色)となるべき部分をクリックします。
さらに、出力レベルのスライダーを動かして明るさを調整し、冷たい/温かい、マゼンタ/グリーン スライダーを動かして微調整を行います。
一応下のような感じに調整できました。
因みにカラータブにあるホワイトバランス・モジュールで、点をピックアップして調整すると、以下のように真っ赤になってしまいます。
色温度も、温かいほうに寄せると、逆に冷たく、青くなってしまいます。逆になることを分かっていて調整するならこちらも使えるとは思います。
ここまで終了したら、トーンを調整します。まずトーンイコライザーで基本的な明暗を調整したほうが良いでしょう。
さらに、もうちょっと追い込みたければトーンカーブを併用します。以下はモードをニュートラルにしてトーンカーブをオンにした状態です。
ところが、モードを変えると大きく色調が変わりました。
ニュートラルだと、基本的に色相の変化を抑えるようですが、他のモードだと、その辺りが変わってきます。ネガを取り込んだ結果は、かならずしも「客観的」な結果とは限らないので、むしろ色の変化を活用したほうが良い場合も多いです。
なお、どの程度変化があるかは、元の画像やカーブの作り方によって異なります。モードを変えてもほとんど違いがない場合もあり得ます。
ところで、トーンイコライザーとトーンカーブの違いですが、トーンイコライザーは色相、彩度 / Saturation のずれを起こさずにトーン (明るさ、コントラスト) を変更しますが、トーンカーブは、ズレの発生を考慮しません。ちなみに、トーンイコライザーは、ズレを抑える分、トーンカーブよりも変化量が少なく感じられると思います。ただし ART の場合、トーンカーブをニュートラルモードで使うと色相のずれは抑えるようです。
デジタルカメラによる画像データでは、ある程度データの「客観性」が担保されているので、トーンカーブに代えてなるべくトーンイコライザーを使い、意図的に色相や彩度を変えたい場合は、カラーグレーディング編集 (ART の場合、カラー / トーン補正 モジュールを使用) で編集するというのが、最近の望ましい写真編集のスタンダードです。つまり意図しない色の統合性の崩壊を避ける編集を心掛ける方向になっています。
しかし、フィルムスキャン、とくにネガカラーのスキャンは、ネガフィルムが印画紙に描くように、デジタルセンサーには取り込まれません。というのは印画紙のスペクトラム感度特性とスキャナやデジタルカメラのセンサーの感度特性は大きく異なるからです。そもそもスキャンした時点で基本的に色の統合性が崩れている、と考えられます。従って、トーンカーブを使って積極的に色相や彩度の変更を行い、カラーバランスの回復を考えたほうが良い、というのが私の考えです。
そして最終的に以下のようなカーブを作りました。
なお、ホワイトバランスのみ、効果が反転しますが、それ以外の色調を調整するモジュールは効果が反転することがないようですので、通常の画像と同じように編集できます。このあたりのネガ画像と他の編集とのシームレスなつながりはおおむね維持されています。
全般的に、フィルムベース調整がホワイトバランス調整に変わり、フィルムベースカラーの測定をやらずに済むようになったことでより設定が簡単になったと思います。また darktable より設定項目が少ないのでより調整は簡単です。設定項目が多いからといって、必ずしもより良い結果が得られるとは限りませんので。ただし darktable のシャドウ域とハイライト域でホワイトバランスを変える、というアイディアは秀逸で、画像によっては darktable の方が効果を発揮する場合もあると思います。例えばシャドウ域でマゼンタの過剰が目立つような画像では darktable のほうが良いかもしれません。
なお、RawTherapee 5.9 のネガフィルム・モジュールとの違いですが、RawTherapee では従来と同じRawベースのモードも選べるようになっているのと、調整項目は同じでも調整結果は微妙に異なります。特に基準指数のダイナミックレンジを拡大する効果が RawTherapee はあきらかに小さく、トーンカーブとの併用が必須と言っても良いと思います。
個人的には RawTherapee よりも ART のネガフィルム・モジュールの方が使いやすいと思います。
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