先日 X (元 Twitter) を見ていたら、褪色した京浜東北線 205 系の写真をアップされている方がおられました。その写真が以下のリンクにあります。おそらくカラーネガフィルムで撮影されたものと思われますが、ネガカラーフィルム褪色の非常に典型的なケースと思われますので、ちょっと話題として取り上げさせていただきます。
京浜東北線の205を。もうちょっといい具合にスキャンしたい。 pic.twitter.com/dPhsphUCyO
— きたきた (@newx700a507si) 2024年6月7日
京浜東北線には元々 205系 は少なく、それも 209 系の投入で徐々に他線区に転属し、最後までいたのが、1998年ということですので、少なくとも四半世紀経過したネガ、ということになります。
ちょっとアドバイスさせていただきましたが、当ブログで皆様に見ていただいている通り、カラーネガ画像はブルーチャンネルから褪色が始まります。ネガ上ではその補色になりますので、つまりネガのイエロー染料が最も褪色しやすいということです。
この画像の場合、青い帯が緑になっていて、空の青も冴えない一方で、横の保線用機器の黄色の色も冴えません。この画像から判断すると、ネガの褪色に伴い、ブルーチャンネルのダイナミックレンジの幅が狭くなっているためと考えられます。
ひょっとすると、これは褪色が主原因ではない可能性もなくはありません。元々フィルムの R, G, B チャンネルの分布は印画紙に露光させたときに最適になるように調整されていますが、それは CMOS などのイメージセンサーの感度とうまく合いません。それをソフトウェア的に調整しなければなりませんが、その調整がうまくできていない可能性もあります。ただ、概ね、レッド、グリーンのレベルは適正と見られることからやはり褪色が主因のような気がします。同様なケースは、例えば以下のブログにも見られます。
www.backyrd.net これを見ると、ブログ主の方は、20年前に正常にスキャンできた画像を、20年後スキャンすると青が緑になると報告されておられることから、やはり結構良くある典型的な褪色のケースと考えるべきかと思われます。
いずれにせよ、これらの画像は相対的に青い部分はもっとブルー値が高くあるべきである一方、青の補色である、相対的に黄色い部分はブルー値がもっと低くあるべきだということです。また若干マゼンタ被りもあるようです。
フィルムスキャナやフィルム対応フラットヘッドスキャナで取り込む場合は、スキャナドライバーで R, G, B のダイナミックレンジの違いを自動で調整するものがありますので、フィルムスキャナによってはこの程度は問題なく自動的に補正してスキャンできる場合もありますが (但し画像によっては自動調整に失敗する可能性もある)、デジタルカメラを使ったフィルムスキャンではそのような機構はありませんので、自分で調整する必要があります。
カメラでフィルムスキャンを行う場合は、ネガポジ反転の時に係数を調整できるはずですので、それである程度調整しますが、それと反転後のホワイトバランス調整を組み合わせます。ただそれでもうまくいかない場合があります。
それ以外の方法としては、例えば、RGB トーンカーブや色レベル補正を組み合わせて調整することも考えられますが、これらは RGB の相対値ではなく絶対値に基づいて調整するので、調整が難しい場合があります。上の 205 系のケースも単純に RGB カーブや色レベル補正で、Bチャンネルのトーンカーブのコントラストを高めてもうまくいきません。また RGB ヒストグラムの形態を見ても、画像によっては、B チャンネルのダイナミックレンジが下がっていることがよく分からないことがあります。これは絶対値レベルではなく相対値レベルでダイナミックレンジが下がっているためです。
変褪色の原因は、光の問題ではなく、色素の変成のため、色の絶対値ベースではなく、相対値ベースで色を調整することが重要なのだと思われますが、既存の画像処理ソフトでは相対値ベースで色を調整するツールが意外に貧弱です。
例えば、ART の場合、色相を使ったパラメータ指定マスクを使ったカラー/トーン補正が有効です。
上で、画像の青い部分を指定しています。これに以下のようなカラー/トーン補正のカラーホイールによる補正を併用します。
上の青い部分の青みを増やしています。これを黄色い部分にも同様の編集を適用します。
なお、ART の派生元 RawTherapee にもカラートーン補正はあり、同様の編集は一応できるのですが、ART のカラートーン補正はリニア RGB 空間で色変換を行うのに対し、RawTherapee は L*a*b* 空間で行うせいか、ART ほどきれいに補正できません。
さらに、ART に拙作の相対色領域補正 CTL スクリプトを組み合わせて使いますと、このような画像の修復に有効な、相対的に青い部分のブルー値を上昇させ、相対的に黄色い部分のブルー値を下降させるというような補正編集がより簡単に (というのは筆者の主観?) できますので、ご関心のある方はお試しください。
本スクリプトでは、R, G, B の絶対値ではなく、相対値 (相対的にどれほど青い or 黄色いか) に基づいて補正領域を作成しますのでネガフィルム画像の色調補正に非常に便利です。また補正領域の調整も、非常に柔軟にできます。
また、同様の編集を GIMP 等で行うためのマスクを作る以下の様なツールも公開しています。最初に下記のツールを開発し、それを ART に適合するように移植したのが上のツールです。このようなマスクを作るツールを開発しないと、GIMP ではちょっと編集がやりにくいです。というのは、GIMP の既存のツールでは、類似色の選択を使うか、色相・彩度モジュールを使うかということになりますが、色相・彩度モジュールでは色相の変更しかサポートしておらず、また類似色を使った選択範囲は、GIMP に限りませんが画像によってはうまくいかない場合があります*1。
なお、darktable ですと、カラーゾーンモジュールを使いますが、細かくマスクを掛けて制御する必要があり、ART よりは面倒な感じです。
Photoshop の場合は特定色域の選択を使いますが、色域ごとに選択される範囲が固定している点が使いづらいです。拙作の ART 用の相対色領域補正 CTL スクリプト の方がはるかに柔軟な調整ができます。
ちょっと典型的な事例ですので、自分にとっての備忘録を兼ねて紹介させていただきました。
なお、さらに褪色がひどくなると、本ブログで補正方法を解説しているような、青チャンネルが不均等に黄変した画像になることがあります。そのような画像は X で流れてくる鉄道写真にも非常にたくさん見られます。このような現象は、湿度が低く、かつグラシン紙のフィルムスリーブが一般的な欧米ではほとんど見られませんので、ポリエチレン製のフィルムスリーブをグラシン紙のものに変えたり、除湿剤を使うなどの保管対策を行うことが望ましいです。
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[参考記事]
*1:その理由については以下に考察を書きました。