省型旧形国電の残影を求めて

戦前型旧形国電および鉄道と変褪色フィルム写真を中心とした写真補正編集の話題を扱います。他のサイトでは得られない、筆者独自開発の写真補正ツールや補正技法についても情報提供しています。写真補正技法への質問はコメント欄へどうぞ

Nikon D3200 RawファイルをARTでNX Studioに似せてみる

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 ここのところ、フリーの現像ソフトART (Another Raw Therapee) をいじっていますが、先日報告したように、ARTとRawTherapeeのDCPプロファイルの解釈の仕方が違っていることが分かってきました。そこで、まずARTの現像結果をNikonの純正ソフトであるNX Studioにどれほど近づけることができるか検討してみます。

 なお、ARTにはD3200のカメラプロファイルが付属していないのでAdobe DNGコンバータのカメラ固有プロファイルを流用し準備しておきます。

 まずNX Studioで現像した結果です。比較のためARTに読み込んでいます。ヒストグラムは対数-リニアモードです(通常のヒストグラムよりシャドウ域が伸長され、ハイライト域が圧縮されます)。

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NX Studioデフォルト

 前にも記しましたが、D3200はやや黄色味が強くなる傾向にあります。しかし、この写真はやや影になっていて、B値が元々高い画像ですので、それがあまり目立ちません。バラの花の鮮やかさも目立ちます。

 次に、ARTでNEFファイルを読んだデフォルト状態です。

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ART NEFファイル読み込みデフォルト

 一応カメラ固有プロファイル適用状態ですが、この写真の場合、デフォルト状態では色は冴えません。なおARTでは、少なくともNikonのこのD3200やD5500に関しては、デフォルト状態ではカメラ固有プロファイルを適用しても、標準的プロファイルを適用してもあまり差がないことを確認しています。ベーステーブルは適用されているはずですが、大きな差は出ません。ヒストグラムの形も大きく異なっています。おそらくAdobeの作成したNikon D3200のカメラ固有プロファイルのベーステーブルは、ARTの標準的なベーステーブルとの差が少ない (あるいは固有ベーステーブルが定義されていない?) のだと思われます。

 

 NX Studioの結果に近づけるには、どうしてもルックテーブルとDCPトーンカーブの適用にチェックをつける必要があります。

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ART ルックテーブル&DCPトーンカーブの適用

 見た目は、かなり似てきますが、しかしヒストグラムの形はちょっと違います。さらに基本露出オフセットを適用してみます。

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ART さらに露出オフセット適用

 花の周りのコントラストが高くなるのは間違いありませんが、よりNX Studioの結果に似たかというと微妙です。ヒストグラムの形的にも微妙です。また、NX Studioの方が全般に花の赤の彩度が高く微妙に鮮やかな印象です。この辺りは見ているデバイスによっても印象が大きく変わる可能性があります。

 ARTの場合、DCPトーンカーブの処理は、ARTのトーンカーブと同時に行われ、現像処理プロセスのLinear RGB空間での処理の最後の方にまとめて適用されます。つまりリニア色空間で処理されています。NX Studioはどの色空間で処理されているのか分かりませんが、可能性としてはL*a*b*等、非リニア、知覚的色空間で処理されている可能性が高いように思います。そうだとすれば、かなり似せることはできても同一な結果にはなりようがない、ということになります。それにDCPプロファイル自体もAdobeでエミュレートしているわけですから、かなり似てはいても、同一の結果が得られないのは当然です。

 因みに、参考までにRaw Therapee で ART 同様に処理した結果を示します。なお、比較のため、ARTに現像したものを取り込んだ状態でお示しします。

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RawTherapeeでカメラ固有プロファイル適用

 RawTherapeeで処理した結果は、NS StudioよりARTに似ていますが、ヒストグラムの形は明らかにARTとは異なります。ARTのヒストグラムに比べると、よりNX Studioに近づいていて、NX Studioの結果のダイナミックレンジを狭めたような形になっています。ただダイナミックレンジの幅自体は、ARTに近いです。RawTherapee で、よりシャドー側にダイナミックレンジを拡大できれば、RawTherapeeの方が NX Studioの結果に近づけられそうです。

 何度もこのブログで述べていますが、やはりカメラメーカーの色作りが好きならば、純正ソフトで処理するのが基本だと思います。またNX Studioは色収差補正が優秀だったり、最新のピクチャーコントロールが適用出来たり、コントロールポイント編集を採用するなど、純正ソフトならではのメリットが大きい特徴あるRaw現像ソフトです。Capture NX-Dに比べても32bitプログラムだったのものが、64bit対応となり、処理・反応速度も上がっています。純正ソフトはダメだという思い込みで使っていらっしゃらなかったとしたら (確かにかつては冴えませんでしたが)、もう一回見直されることをお勧めします。

 他社カメラの場合、やはりカメラの色作りが好きなのに、純正ソフトがのろくて仕方なくサードパーティの現像ソフトを使っていらっしゃる方もいらっしゃると思いますが、その場合は、夜間にバッチ処理で一挙に処理するということを考えられても良いのではないでしょうか。

 ただARTは、多くの処理をリニア色空間で行っていますし、編集の自由度は高いRaw現像ソフトです。カメラメーカーの色作りにこだわらず、いろいろとカラーをいじり倒したいというのであればARTを使って処理することは、大きなメリットがあると言えるかと思います。色が冴えないというのもあくまでデフォルトの状態での話です。

 実際、先日書いたように、Lightroomを使っている人でも、アメリカでは、DCPトーンカーブを適用しないほうが編集余地が大きくやりやすいと論じている人がいます。しかし、その記事に出ている事例でも、DCPトーンカーブを適用しない初期状態は、やはり画像が眠くて冴えません。ARTも、デフォルトでは冴えなく見えても、そこから編集したほうがより編集の余地が大きいのではないかと思います。NX Studioに似せることを目指して使うのでは、あまり意味がないように思います。

 但し、出発点がメーカー推奨の色作りだと楽、というのであれば、純正ソフトで16bit TIFFで一旦現像したものを、他のソフトに読み込んで微調整をするというのが正道かと思います。