省型旧形国電の残影を求めて

戦前型旧形国電および鉄道と変褪色フィルム写真を中心とした写真補正編集の話題を扱います。他のサイトでは得られない、筆者独自開発の写真補正ツールや補正技法についても情報提供しています。写真補正技法への質問はコメント欄へどうぞ

ART / RawTherapee 機能紹介 - チャンネルミキサー / 原色補正モード

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 久しぶりの ART 機能紹介です。ARTのチャンネルミキサーには、本家RawTherapeeにない調整モードがあります。それは、原色補正モードです。

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ART チャンネルミキサーのインターフェース

 チャンネルミキサーのデフォルトである、RGBマトリックスモードというのは、RawTherapeeやGIMP, Photoshopにあるチャンネルミキサーと同じです。ARTではこれに原色補正モードが付け加わっています。

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チャンネルミキサー - 原色補正モード

 

 このモードは、R, G, Bの三原色の色相自体を調整して色を変化させようというモードです。例えば以下のヒガンバナ科の花ですが...

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オリジナル

 レッドの原色を変えると以下のようになります。

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オレンジの方向に移動

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ピンクの方向に移動

 ちょうど、R成分自体の色が変わったように全体が変化します。従って赤い部分だけではなく、緑色の部分の色も変化します。ただ、実際に、R, G, Bチャンネルの原色自体が変わったわけではありません。RGB値の変化を見てみます。

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オリジナルのRGB値

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オレンジ方向へ移動

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ピンク方向へ移動

 実際には、ターゲットとなるチャンネル (上の例ではRチャンネル) の値(明度)自体はあまり動かず、主にそれ以外のチャンネルの値が動いて、あたかもターゲットとなるチャンネルの色自体の色相が動いたかのようにエミュレートします。ただ実際にどのように動くのかは、元の色によって動く方向や量が異なりますので、非線形的に色が変わります。なかなか面白いです。

 で、実はこの機能、色相 - Saturation のベクトルスコープを見ると何をやっているか非常に良く分かります。

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ベクトルスコープ

 色相補正のスライダーを動かすと、中心を軸として画素の分布が回転するのです。また、彩度 (Saturation) のスライダーを動かすと細長い画素の分布の長さが長くなったり短くなったりします。

 オリジナル(RGBマトリックスモード)のチャンネルミキサーは、広く画像編集ソフトに採用されている機能ですが、直感的に分かりにくく、使うのが難しいです。実は、チャンネルミキサーが最も効果があるのは、ホワイトバランスで調整しきれない色被りの補正です。例えば、私が開発した不均等黄変ネガ写真の補正法は、原理的には、チャンネルミキシングとローカルマスキングを組み合わせた技法です。不均等黄変ネガ写真の場合、ホワイトバランス的には合っていても、変色が不均等なため、ホワイトバランスツールでは色かぶりが調整できないという問題がおこります。不均等でなくても、ホワイトバランス的には合っていても色かぶりが調整できないというケースは、他にも赤変ポジフィルムなどで発生しえます。

 しかし、例えば、緑チャンネルに赤チャンネル成分を混入するということは、画像が全般的に赤くなる、ということを意味しません。実は赤チャンネルとの間で彩度を減らす、という効果を与えます。しかし、それがどういうことなのか、直感的に頭に思い浮かべることは困難です。従って使うのが難しいのです。

 しかし、原色補正モード、という形にしますと、直感的にどういうことなのか分かりやすくなります。

 よりユーザフレンドリーにという、ARTの方針が反映された、好ましい機能改善だと思います。

 インターフェース的には、Lightroomのカラーミキサーを簡略化したような形ですが、おそらくLightroomのカラーミキサーは色域指定を行って、その色域に対して色相を変更するのに対し、ARTの原色補正モードは、特定の色域ではなく、RGB値と関連して補正を行うという点が異なっていると思います。