省型旧形国電の残影を求めて

戦前型旧形国電および鉄道と変褪色フィルム写真を中心とした写真補正編集の話題を扱います。他のサイトでは得られない、筆者独自開発の写真補正ツールや補正技法についても情報提供しています。写真補正技法への質問はコメント欄へどうぞ

カメラレンズの光学性能の追求より、ソフトウェア補正を追求すべきか?

 最近、DPReviewに、「事実の歪曲? なぜ私たちはレンズのソフト的補正に反対しないのか」と題するちょっと面白い記事が掲載されました。

 

https://www.dpreview.com/articles/2128193923/a-distortion-of-the-truth-here-s-why-we-re-not-against-software-lens-corrections

 

 要点は、題名にあるように、DP Review 編集部として、レンズによるソフト的補正に反対しない理由を述べています。

 過去10年間、カメラ業界は、あくまでレンズの光学性能の追求を行うべきか、それともソフトウェア的補正を追求すべきかで、悩んできたが、今や、ソフトウェア補正もレンズの仕様の一部として割り切る方向に走っていると指摘しています。

 レンズの光学性能の追求に走ると、レンズが重く、レンズの構造も複雑になり、コストも嵩みます。その一方、レンズの歪みとして代表的な色収差は、簡単に数学的に補正可能ですし、幾何学的なひずみも補正可能であると指摘しています。

 さらに、シグマの開発陣による、一つの歪みを光学的に補正しようとすると、別の歪みが発生することが多く、その調整に頭を痛めることになり、むしろソフトウェア的、数学的補正を前提とすることによって、よりレンズがシンプルになるとの指摘を引いてきています。

 問題点としては、すべてのRaw現像ソフトが、レンズメーカー提供のプロファイルデータを使ってくれるとは限らない点だとも指摘されていますが、光学性能の追求よりは、ソフトウェア的補正の併用によるメリットの方が多いと、DP Review は判断しているということです。

 以前当サイトでも、ニコンの NX Studio の色収差補正能力の優秀さについて指摘しましたが、このような傾向がはっきりしてくると、いわゆる大三元レンズにこだわる必要もなくなってくるかもしれません。これは一部のカメラファンにとってうれしくないことかもしれませんが。

 ちなみにフリーの Raw 現像ソフトは lensfun の提供するデータに依存していますが、より多くのメーカーが直接 lensfun に対して、自社のレンズのプロファイルデータを提供することを期待したいと思います。ちなみに SYLKYPIX のような商用ソフトも lensfun に依存しています*1。また ART や RawTherapee は、lensfun データ以外にも、Adobe が作成している lcp ファイルも使えます。

 

 一方で、サードパーティのレンズメーカーを排除したいカメラメーカーは自社の純正現像ソフトやカメラに搭載している画像処理エンジンから、サードパーティメーカーのレンズプロファイルを排除するというような可能性も否定できません。この場合、ユーザは、カメラ出し Jpeg を使わず常にサードパーティの Raw現像ソフトを使うという対策に迫られます。

 なお、マイクロ 4/3 陣営ではこのようなレンズプロファイルデータは直接 Raw ファイルにメタデータとして書き込んでいるようです。これにより同じ陣営の異なるメーカーのカメラとレンズでの組み合わせでも正しくカメラ内現像ができるようにしているようです。そして Adobe のソフトウェアも直接 Raw データからレンズ補正データを読み取っているようです。このため、Adobe から マイクロ 4/3 陣営のレンズプロファイルデータ (lcp ファイル) は公開されていません。しかし、darktable や ART などは、Rawファイルのメーカーが書き込んだメタデータは直接読み書きできないため、マイクロ 4/3 のレンズであっても lensfun のデータに頼っています。

 富士フィルムのカメラも同様のようで、富士フィルムのレンズプロファイルもごく一部しか公開されていません。

 今後、レンズのソフトウェア補正が常識になると、今後発売されるレンズは同様になる可能性があります。これは lensfun データ や lcp ファイルに依存している Raw 現像ソフトには問題になります。ただし、lcp ファイルは DCP ファイル同様、ユーザが作成することができますし*2、lensfun に関してもユーザが画像データを提供することで、プロファイルデータを増やすことができます。

*1: 以下参照。

silkypix.isl.co.jp

*2:以下を参照ください。

helpx.adobe.com

また、実際にレンズプロファイルを作られた方の体験記はこちら。

caciocavallo.jp