Lightroomでは2020年の秋ごろから「カラーグレーディング」という機能を搭載しています。それまで明暗別色補正と称していた機能を拡充したもののようです。
因みに同じ補正 (補整と言うべきか) でも correction と grading の違いは、correction が、本来の撮影対象である光景 (シーン) を、なるべく本来見えていた通りに再現するように補正するのに対し、grading は、どうやら編集者が意図的に色調やトーンを変えて画像を補整するという違いがあるようです。例えば grading の例としては、昼間に撮った画像を夕景に見せたり、夏に撮った画像を秋に見せたりというような意図的編集が考えられます。ですので編集の基本としては、まず画像に correction を加えたのちに、grading 作業を行うということになるようです。
実は、このカラーグレーディングは、RawTherapee で以前から可能でした。ただインターフェースが複雑だったり、一般の人には (私も含めて) 用語が分かりにくかったり、そもそもカラーグレーディングを行えるモジュールも、「カラーグレーディング」という名称が使われていたわけではないので、活用できた方は少なかったのではないでしょうか。ART ではインターフェースが整理されましたので、同様なことがより簡単にできるようになっています。
ARTにおけるカラーグレーディングを可能にする機能自体は既に以下の記事で紹介しています。
yasuo-ssi.hatenablog.com このカラー/トーン補正を使えば、カラーグレーディングが簡単に行えます。これをLightroomに対応する形で紹介しなおします。Lightroomのカラーグレーディングのインターフェースの特徴として、シャドウ/中間/ハイライト別のカラーホイールがありますが、これはARTのカラー/トーン補正のHSL係数モードを選べば同様のインターフェースが現れます。
ホイールの意味も同じで、回転させれば色相が、ポイントを円心から外に向かって動かせば彩度(saturation)が増えるのも同じです。そして下のスライダーは明度(Lightness)の調整スライダーです。因みにRawTherapee時代は [S/M/Hでカラーバランス] と称し、カラーホイールではなく、カラースライダーでした。
ないのは、ブレンディングとバランススライダーです。ただこれは若干手間がかかりますが同じことができます。標準モードに戻って (下の図の右)
補正インスタンスを複数作成し、それぞれにマスクを掛け、そしてそのマスクを編集して重なり具合を調整することで、ブレンディングやバランスと同じことが実現できます。とはいえこちらはLightroomの様にワンタッチとはいきません。その代わり、3段階ではなく、もっと多段階で調整することも可能です。また、マスクを掛けないインスタンスを設ければ、グローバルホイール相当になります。また標準モードのホイールの特徴として、彩度(Chroma)の調整もできますが (ホイールの右側の縦のスライダー) これは、Lightroomにはありません。なお、同じ彩度でも Chroma と Saturation の違いについては以下の拙稿をご覧ください。
これ以外に、R, G, Bチャンネルごとに分割して、それぞれの明度 Lightnessを調整することで、カラーグレーディングを行うRGB分割モードもありますが、こちらはLightroomにはないのではないでしょうか。Lightroomでのブレンディングやバランス相当の作業をARTでやろうとするよりは、RGB分割モードを使って同様な効果が得られないか検討したほうが賢明かと思います。また結果としてLightroom以上の効果が得られる場合もあると思います。
以下補正事例です。カラーグレーディングを行って、秋らしさを増すような編集を試みます。
上の写真はカラー/トーン補正をオフにしています。
補正をオンにして、全体的に赤みを増し秋らしさを出してみました。やや赤い方向に色相をシフトさせています。なお、シャドウの彩度(Saturation)をを高くし、そこからハイライトに掛けて、彩度を減らすように補正してみました。これを逆にすると不自然になって、いかにも色被りしています、という感じになってしまいます(下図)。ただ日中の写真を夕焼けの写真にする、という目的には後者の編集も良いかもしれません。