省型旧形国電の残影を求めて

戦前型旧形国電および鉄道と変褪色フィルム写真を中心とした写真補正編集の話題を扱います。他のサイトでは得られない、筆者独自開発の写真補正ツールや補正技法についても情報提供しています。写真補正技法への質問はコメント欄へどうぞ

写真の色合いを調整する - ART の基本編集操作

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 写真の色合いを調整するには、大きく分けて次の2つがあります。

・ホワイトバランス調整

・カラーグレーディング

 ホワイトバランスは、写真の色合いがおかしい場合を本来の色合いに合わせる調整です。それに対し、カラーグレーディングとは演出的な色合い調整です。通常はホワイトバランスを調整したあとカラーグレーディング編集を行います。

 ART の場合、次のようなカラー調整ツールがあります。

○ カラータブ

ホワイトバランス

・彩度 / 自然な彩度

チャンネルミキサー

カラーイコライザー

・RGB カーブ

L*a*b* 調整

○ローカル編集タブ

カラー / トーン補正

○特殊効果タブ

フィルムシミュレーション

・霞除去

 

 また、そもそも Raw ファイルを読み込む際にカメラプロファイルを読み込んでおり、そこでカメラ機種ごとにカラーマトリックスをかけて、センサーデータが適切な RGB データになるように変換しています。この時読み込ませるカメラプロファイルを変更すると色が変わります。これはカラータブにあるカラー・マネジメントモジュールから変更することができます。

 

カラーマネジメント

 この時、ART に固有のカメラプロファイルが含まれていれば、それが自動適用されます。この固有のカメラプロファイルは、カメラ内現像になるべく近づけた画作りをするプロファイルです。それがない場合はカメラの標準的プロファイルが適用されます。この標準的プロファイルはAdobe DNG Converter からデータが取られており、基本的には、Adobe が提供する Adobe Standard の DCP プロファイル D65 データと同じと思われます。このプロファイルのデータは、カメラ機種ごとに適用されるデータは異なっていますが、最終的にどのカメラでも同じような色づくりになるように調整されているものと思われます。

 固有プロファイルが含まれていないカメラでカメラ固有の色づくりを再現したい場合は、やはりAdobe DNG Converter に含まれる、Adobe 標準ではない、カメラ固有の色づくりを反映した DCP プロファイルを適用することで、ある程度再現できます。

 

 

■ 基本的なカラー調整

 色調整の基本は、まずホワイトバランスの調整に、ホワイトバランス モジュールを使い、その後カラーグレーディングにカラー/トーン補正 モジュールを使うということで良いと思います。

・ホワイトバランスの調整

 ホワイトバランスモジュールでの調整方法は以下の記事をご覧ください。

yasuo-ssi.hatenablog.com

 ホワイトバランスを使って、適切なカラーバランスが得られたあと、カラーグレーディング編集にカラー/トーン補正 モジュールを使っていきます。

・カラー/トーン補正モジュールによる調整

 現在 カラー/トーン補正 モジュール は ART の中の中核的な色補正モジュールとして位置づけられており、CTL スクリプトを追加すると更に機能 (モード) が増えてきますが、ここでは基本的にベーシックな、標準もしくは知覚的モードでの使い方を案内します。

 まず、カラー/トーン補正 モジュールのダイアログです。

右の ART とあるのが カラー/トーン補正 ダイアログ

 モードはデフォルトの設定では、標準、知覚的、RGBチャンネルを分割、HSL係数、LUT とありますが、CTLスクリプトを使って機能を増やすと、ここから選べるモードが増えます。そしてデフォルト値は [知覚的] となっています。知覚的のほうが標準よりもシャドウ域で効果の変化が小さくなる一方ハイライト域では大きくなります。インターフェースは標準、知覚的で違いはありません。

 色合いを変えたい場合は、色相のシフトとカラーホイールがありますが、基本はカラーホイールを使って、変えたい色の方向に調整スティックを伸ばしていくことになります。

 下は、全体を青い方向に変えていく場合の例示ですが、調整スティックを中心から青い方向に伸ばしています。長さが長くなるほど補正強度が高くなります。

画像を青い方向に変化させる

 赤に変えたい場合は、スティックを赤い方向に向けます。

 また、彩度に関しては、一般に画像ソフトでは、サチュレーションもしくはクロマがあります。サチュレーションは、色の明るさを考慮しない彩度 (RGB 値の最大差で定義される) のに対し、クロマは明るさをも含めた彩度定義です。なお、画像ソフトによっては、サチュレーション、クロマの区別を明確につけずに使っているケースもあるようです。

 サチュレーションに関しては、カラーホイールの上の彩度 (Saturation) スライダーで調整します。入力と、出力がありますが、入力画像が極端でない限り、通常は出力スライダーを動かして調整すればよいでしょう。

 一方クロマに関しては、カラーホイール横の縦のスライダーで調整します。

 なお、画像の特定の場所のみ色の変化をつけたい場合は、モジュールの下にあるマスクを併用します。ローカル編集体部に共通なマスクの操作方法については下記をご覧ください。

yasuo-ssi.hatenablog.com

 また、HSL 係数モードを使うと、このカラーホイールを使った調整を、シャドウ、ミッド、ハイライト別に適用することができます。この時動作は [標準] モード相当です。

 

■ カラー/トーン補正を使った RGB レベルの調整

 但し、時々そもそも RGB レベルが大きく崩れている場合があります。特殊な光源が使われていたり、あるいはフィルムをスキャンした画像ではそのような場合が多々見られます。

 例えば一般的な画像の場合、ヒストグラムをとってみると、以下のように、RGB のヒストグラムの形が似ていてかつ、若干ずれています。

 

 ところが、以下はフィルムスキャンした画像の例ですが、RGB のずれが以下のように非常に大きくなっており、RGB のバランスが崩れてしまっています。

 上の場合は赤のレベルが低すぎる一方、青のレベルが高すぎます。そのため全体的に青かぶりの印象を与えます。

 カラー/トーン補正を使ってこのレベルを調整するには以下のように行います。

赤のレベルを引き上げる場合は...

赤のレベルの引き上げ

カラーホイールのスティックを赤の方向に動かすと、そのまま赤のレベルが上のように引き上がります。

 今度は青のレベルを下げてみます。

 補正のインスタンスを + ボタンをクリックして一つ増やし、下の図のように、青の補色である黄色の方向へカラーホイールのスティックを動かします。すると下記のように青のレベルが下がりました。レベルを下げる時は補色の方向に動かす、というのがポイントです。

青のレベル引き下げ

 このような方法で、R, G, B の各チャンネルの出力レベルを調整できます。

 

 なお、カラー/トーン補正の詳しい説明は下記をご覧ください。

yasuo-ssi.hatenablog.com

■チャンネルミキサーを用いた R, G, B レベルの調整

 同様のことは、カラータブのチャンネルミキサーでもできます。単純な R, G, B レベルの調整に関しては、こちらの方が分かりやすいかもしれません。

チャンネルミキサーを使った R, G, B レベルの調整

 レッドチャンネルの R のスライダーを上げるとともに、ブルーチャンネルの B スライダーを下げます。これで上の例と同等の結果が得られます。

 

 因みに、元画像のホワイトバランスが激しく崩れていて、ホワイトバランスモジュールだけではうまく補正しきれない場合は、チャンネルミキサーが大きな効果を発揮しますが、チャンネルミキサーは単純に R, G, B の原色の出力レベルを変える以外は、結果がどうなるか直感的に分かりにくく、使い勝手が悪いです。しかし、ART のチャンネルミキサーには原色補正モードが搭載されており、これを使うと比較的簡単に調整できます。その紹介は下をご覧ください。

yasuo-ssi.hatenablog.com

 また、チャンネルミキサーの使いづらさを改善した拙作のチャンネルミキサー CTL スクリプトもあります。

yasuo-ssi.hatenablog.com チャンネルミキサーの使いづらさは、ミキサーのスライダーを動かすと色がどの方向に変化するかが分かりにくい点です。そこで、このスクリプトでは、RGB の絶対レベルを調整するスライダーと、各チャンネル内で相対的な RGB のミキシング比率を調整するスライダーを設けました。RGB の絶対レベルの調整はユーザにとって色の変化の方向が比較的予測がつきやすいものです。そこで、まず RGB の絶対レベルを調整することで、基本的な色の変化の方向性を決めた上で、各チャンネルの RGB のミックス比 (こちらは色の変化の方向性の予測が難しい) を調整して色のニュアンスを調整する形にして、オリジナルのチャンネルミキサーと同じ調整範囲を確保するとともに、より使いやすくしています。

 

 これ以上さらに専門的なカラー調整を行いたい場合は、他に色々カラー調整モジュールがありますので、それらをお試しください。