省型旧形国電の残影を求めて

戦前型旧形国電および鉄道と変褪色フィルム写真を中心とした写真補正編集の話題を扱います。他のサイトでは得られない、筆者独自開発の写真補正ツールや補正技法についても情報提供しています。写真補正技法への質問はコメント欄へどうぞ

GIMP 編集 Tips: Bチャンネル褪色による重度なレベル低下を伴う黄変写真の補正方法

 日本のネガカラーフィルムをスキャンした写真の典型的な褪色は、本サイトでもたびたび扱っている不均等に黄変するケースです。しかし、欧米ではこのような不均等な黄変はほとんど見られません。しかしフィルムのイエロー、マゼンタ、シアン色素中、イエロー色素層が最も褪色しやすいのは変わりがありません。このため、欧米での典型的な褪色は、イエロー色素層の褪色によるレベル低下で、ネガポジ変換したときに全体的に黄色くなってしまうケースです。ネガフィルム上のイエロー色素層が褪色していなければ、ポジ画像の青みがはっきり出ますが、イエロー色素層が褪色でレベル低下すると、逆にポジは黄色くなるものと考えられます。

 因みに欧米で、日本とは異なり、不均等な黄変がほとんど見られないのは、一つはフィルムスリーブが透湿性のあるグラシン紙のスリーブが一般的で、ポリエチレンスリーブがあまり使われないことと、あまり高温多湿でないこと、さらに日本のフィルムメーカ特有の色素や現像薬品成分がかかわっているものと推定されますが、その原因を明確に記した文献は見当たりません。

 本稿ではこのようなBチャンネルのレベル低下に伴う黄変ネガ写真の補正について論じます。なお手持ちの写真で手ごろなBチャンネルレベル低下画像が見当たらないので、人工的にBチャンネルのレベルを低下させた画像を使って例示します。

 まずオリジナル画像をご覧ください。スキャナの癖か、若干マゼンタがかっています。

オリジナル

 次に B チャンネルのレベルをやや低下させて、軽微なダメージのある画像を作ってみました。Bチャンネルのカーブをリニアに若干下げてみました。

軽微な B チャンネルレベル低下

 次に B チャンネルのレベルをかなり下げて、比較的ダメージの大きい画像を再現したものです。

重度な B チャンネルレベル低下

 最後は B チャンネルを完全に欠落させた画像です。Bチャンネルのレベルを 0 (真っ黒) にしています。

B チャンネル欠落

 なお、見た目では、重度なレベル低下と欠落ではそんなに差がないように見えますが、データ上は全く異なりますので、補正方法は大きく異なってきます。このあたりうわべの見た目で判断できません。RGB 分解を行って詳しく分析する必要があります。

 

1) B チャンネルのレベル低下が軽微な場合

軽微な B チャンネルレベル低下

 オリジナルの B チャンネルは以下であるのに対し...

オリジナル B チャンネル

 軽微な低下では以下のように作成しました。

軽微な B チャンネルレベル低下

 ちょっとだけレベルが低下しているだけですが、全体的に淡い黄色に色被りします。このような画像は普通、ホワイトバランスを、ホワイトポイントとブラックポイントの2点をプレビュー画面上で指定して調整すると、かなり補正できます (ホワイトポイントだけでも効果あり)。なお GIMP ではこの調整は、[色] → [レベル] の下にありますが、慣れないと場所が分かりにくいかもしれません。これは Photoshop も同様です。

GIMP レベル補正

ホワイトポイント、ブラックポイントを
調整するスポイトツール

 なお、ホワイトポイント、ブラックポイントを指定するスポイトツールの指定ポイントのサイズを調整したい場合は、レベル調整のツールオプションを表示させなければなりません。デフォルトでは表示されません。その場合、レベルの調整のダイアログが開いている状態で、[ウィンドウ] → [ドッキング可能なダイアログ] → [ツールオプション] を選択すると、左側ドックにツールオプションが表示されます(下図)。そこで、[半径] のサイズを調整することで、スポイトツールの指定ポイントのサイズを調整することができます。

レベル補正のツールボックスを付加

 あるいはこの程度ですと、ホワイトバランスの自動調整でかなり調整出来てしまうかもしれません。

ホワイトバランスの自動調整

 なお、ここで例示した人工的に黄変させた画像は、Bチャンネルの出力レベルをリニアに減衰させています。一般にリニアに減衰させた画像は簡単にホワイトバランスの調整で復元できます。しかし、実際のフィルムの黄変は元の出力レベルに応じてリニアに褪色 (出力減衰) するとは限りません。それでも出力減衰量が大きくないため、そのズレは、概ね無視できるレベルにとどまります。このため、大体ホワイトバランス調整のみで調整できてしまいます。

2) B チャンネルのレベル低下が重度な場合

重度な B チャンネルレベル低下

 これは B チャンネルのレベル低下がかなり大きい場合です。

B チャンネルのレベル低下重度

 B チャンネルの出力レベルが減衰してかなり暗くなっています。

 この場合でもレベル低下が軽微な場合と同様、ホワイトバランス調整でうまくいく場合もあります。褪色によるレベル減衰が全領域に渡りリニアに近い場合です。しかしもとのレベルに対するレベル減衰に結構ズレ、波があると、ホワイトバランス調整ではうまく行かない場合があります。

 その場合でも、GIMP には [平滑化 (equalize)] という奥の手があります。[色] → [自動補正] → [平滑化] で掛けてください。

GIMP 平滑化

 これはヒストグラム平坦化 (ただしチャンネルごとに調整) というアルゴリズムを使っています。簡単に言うと、R, G, B のヒストグラムの分布の形をならしてコントラストを上げますが、その際、R, G, B のヒストグラムの分布の形も揃えてくれます。要は、褪色で大きく変わった B チャンネルのピクセル分布を他チャンネルの分布に揃えることで、出力レベルが回復するので、色被りが改善されるということです。なお、レベル補正やRGBカーブなどを使って、マニュアルで B チャンネルのヒストグラムの分布の形を他チャンネルの形に近づけても、似たような効果が得られます。これを掛けたあと、気になる部分を色域指定等を使って個別に調整していきます。

 なお Photoshop にも[色調補正]の下に[平均化(イコライズ)]というコマンドがありますが (英語表記では同一)、アルゴリズムが異なっており同様な効果は得られません。また、ヒストグラム平坦化を行う場合、アルゴリズム上トーンジャンプの発生が不可避です。極力 16bit 以上の bit 深度の画像で実行してください。

 またヒストグラム平坦化は、GIMP 以外には、コマンドラインツールになりますが、ImageMagick でも可能です。その場合、R, G, B を個別に調整するオプションを指定して下さい。このオプションを指定しないと、R, G, B のずれを維持したままヒストグラム平坦化を実行するので、色被りが補正されません。

3) B チャンネル情報が欠落している場合

B チャンネル欠落

 最後は、B チャンネル情報が欠落して真っ黒になっている場合です。先にふれたように見た目的には 2) のケースよりちょっと黄色が濃い目程度ですが、上の1), 2) とは完全に戦略を変えなければいけません。というのは 1), 2) はレベルの低下した B チャンネルの出力を伸長させて、レベル復元を試みるのに対し、こちらはB チャンネルの情報が完全に欠落しているので、出力を伸長させようがないからです。これを確認するには一度 RGB 分解してみることが必要です。見た目では分かりません。

 この場合、まず色被りの中和化を図ります。GIMP の場合、まず以下のページを見て、平均色で塗りつぶすためのプラグインスクリプトを導入してください。

yasuo-ssi.hatenablog.com 次にファイルを読み込みレイヤーを複製します。

レイヤーを複製する

 複製したレイヤーを平均色で塗りつぶします。

平均色で塗りつぶす

 塗潰したレイヤーを [諧調の反転] で反転させます

塗潰したレイヤーを反転する

 反転したところで、レイヤーダイアログのレイヤーモードを[標準]から[LCh カラー]モードに変更します。これは LCh カラーを使って上のレイヤーの色情報を下のレイヤーに反映させるモードです。

LChカラーモードに変更

 デフォルトでは、レイヤーの不透明度 100% なので、ただ変えても何も変化がありません。しかし、不透明度を下げていくと...

不透明度を下げる

 下の色に、上の反転色がブレンドされた画像が現れてきます。黄色い色被りが大体中和されたと思われるところでいったん止めます。

 なお、この色被り中和法は、一般的に成立することが多い、写真画像のすべての色の平均を取るとニュートラルグレーになる筈、という仮定を応用したものです。つまり平均色の反転色をブレンドすることで、すべての色を混ぜた場合にニュートラルグレーにある程度近くなるところまで戻していって、その後の色調調整をやりやすくするということです。

 この後色域指定を使って、個別に各部分のカラー調整を行っていきます。GIMP 上でやってもいいのですが、個人的には ART のカラー調整が使いやすいので、ここで一旦 TIFF ファイルとして出力し、ART に読み込みなおします。

ART で読み込む

 ART のカラー/トーン補正 + 類似色マスクで補正したい場所を指定します。

カラー/トーン補正で類似色を指定する

 かなり細かい範囲指定を繰り返して、以下のように補正してみました。かなり大量の補正レイヤーを重ねていることが分かります。

補正結果

 いわば B チャンネル情報が完全に失われた分、ある意味塗り絵のようなこと、つまり色の創作をしなければならないので、結構手間がかかります。編集作業には最低でも 30分〜1時間以上は、覚悟してください。さらに大雑把な補正ならその程度で済むかもしれませんが、細かいところが気になりだすと何時間かかっても終わらないということがあり得ます。

 

4) 重度な B チャンネルの低下と不均等黄変を併発している場合

 重度な B チャンネルの低下と不均等黄変が併発している場合もあり得ます。全体的に真っ黄色になったとまでは感じない程度であれば、不均等黄変の補正のためにいきなり B チャンネル再建法を適用していただいても構いません。しかし、全体的に真っ黄色に近いと感じられる場合、つまり、重度な B チャンネルのレベル低下以上の場合は、まずホワイトバランス等でおおむね黄色い色被りを除去して、通常の不均等黄変に近い状態にしてから、Bチャンネル再建法を適用したほうが、おおむね良い結果を得られると思われます。

 こうしたほうが良いのには明確な理由があります。全般的に黄色くなっている画像というのは、B チャンネルの出力レベルが他チャンネルより低下しています。B チャンネル再建法アルゴリズムでは、B チャンネルに対する G チャンネル情報のミキシングが含まれているので、このような画像をいきなり補正しても、それっぽい結果は得られます。しかし、B チャンネルのレベル低下の分、補正結果に対する本来の B チャンネル情報の反映量が減ってしまいます。そのため、補正結果はより不正確になってしまうためです。より本来の B チャンネル情報を反映させるためには、B チャンネルのレベルを他チャンネルに合わせてから補正を掛けた方が良いのです。

 

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 なお、以上の補正方法は風景写真など一般的な写真を前提としています。一般的な写真では、R, G, B のピクセル分布が比較的似ていることが多く、ここで紹介している方法はそれを前提としているからです。

 しかし、人工物が大きく写り込んでいる写真、例えば原色の物体が大きく写り込んでいる写真では、元々 R, G, B の分布が大きく異なっていますので以上の前提が成立しません。R, G, B の分布が大きく異なると、すべての色を混ぜるとニュートラルグレーになるという仮定も成立しません。この前提が成り立たないと、自動ホワイトバランス調整なども失敗するので、補正の一般的な原則・方法が適用できません。このような場合は、画像を見ながら完全にケースバイケースで補正するほかなく、難易度が格段に上がります。

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[この記事には以下の続編があります]

yasuo-ssi.hatenablog.com