省型旧形国電の残影を求めて

戦前型旧形国電および鉄道と変褪色フィルム写真を中心とした写真補正編集の話題を扱います。他のサイトでは得られない、筆者独自開発の写真補正ツールや補正技法についても情報提供しています。写真補正技法への質問はコメント欄へどうぞ

ART / RawTherapee 機能紹介 - カラー/トーン補正

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 今回はART / RawTherapeeのカラー/トーン補正について説明します。このモジュールは、色相を調整する機能およびトーンを調整する機能を持ったモジュールです。これは本家にもある機能ですが、本家のカラートーン補正は非常にたくさんの調整用インターフェースが用意されていました。

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RawTherapee5.8の調整方法の選択

 これではどの方法を選べばよいか迷ってしまいます。しかし、ARTでは大幅にインターフェースが整理されました。すなわち、本家のうち[L*a*B*の補正領域]をベースにしたものに一本化されました。以下、本家の[L*a*B*の補正領域]とARTの[標準]調整ダイアログを比較した図を掲示します。

[標準]調整ダイアログ

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ダイアログの比較

 

 ARTでは、カラー/トーン補正はローカル編集タブに移り、マスクが掛けられるようになっていますが、RawTherapee5.8でも、このモジュールのみは、実はすでにマスクが掛けられるようになっていました。なお、ARTにおけるマスク編集の方法については以下のページをご参照ください。

yasuo-ssi.hatenablog.com

 色相を変更するカラーチャートは四角から丸に変更されていますが、これは見た目のみで本質的な変更ではありません。中心点を動かすことでその方向に色相を変化させますが、これも変わりません。但し、カラーチャートの右にある縦のスライダーは彩度(Chroma / 同じ彩度でもSaturationとは異なる)を調整するスライダーです。

 本家の彩度(Saturation)のスライドバーが、ARTでは入力と出力の2本に変更されています。またその下のトーンを調整するスライダーの名称が大幅に変わっていますが、実は名前が変わっただけで、中身はほぼ変わっていないようです。このトーン調整スライダーは、ほぼパラメータ(スライダー)を使ってトーンカーブを調整する機能を担います。露出タブのトーンカーブ・モジュールパラメトリック調整モードに機能的には似ています。但しこちらはトーンカーブ自体を見ることはできませんし、アルゴリズム的には異なるようですが。対応関係は以下の通りです。

 

スロープ(slope) → ハイライト/増幅 (Highlight / Gain)

オフセット(offset) → シャドウ/引上げ (Shadow / Lift)

強化(power) → ミッドトーン/ガンマ (Midtone / Gamma)

 

 オリジナル(RT5.8)の、スロープ、オフセット、強化ではいったい何のことやらさっぱりわかりません。それで私もこのスライダーは使ったことがありませんでした。しかし、名称が分かりやすく変わっています。

 スロープというのはどうやらトーンカーブの傾斜を指すようです。トーンカーブの傾斜が急になると早くハイライトの飽和点に達します。つまり明るさが増し、ハイライトでクリップアウトする範囲も広がります。それで[ハイライト/増幅]と改名されたようです。スライダーを+に動かすと明るく、-に動かすと暗くなります。但し+に動かすと、ハイライトでクリップアウトしてしまうピクセルも増えます。

 オフセットは、最暗点を明るいほうに動かしたり、暗いほうに動かしたりするスライダーでした。ですので、分かりやすく[シャドウ/引上げ]としたようです。やはり+が明るくなる方向、-が暗くなる方向です。

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オフセット(offset) = シャドウ/引上げ

 強化(Power)に関しては以下の式をご覧ください。

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 Outが出力、inが入力で、これらは0~1.0の値を取ります。これに対し、まさにガンマ値(乗数)としてPowerが定義されています。ガンマを乗ずることによって画面全体を明るくしたり、暗くする効果がありますが、その効果はミッドトーン部分に主として及ぶので、[ミッドトーン/ガンマ]と改名されています。Powerが0未満なら明るく、1以上なら暗くなります(もちろんin, outとも0~1.0の値を取ることが前提です)。つまり今までとは反対に、 - が明るい方向、+が暗い方向です。なお、いくら明るくしてもガンマ値なので、今以上にハイライトでクリップアウトすることはありません。

 その下、今度はARTだけにピボット(Pivot)というスライダーがあります。実はARTは上の式が以下のように変わっています*1

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ピボットの式

 結局、このPivotはどういう役割を果たすかというと、Power([ミッドトーン/ガンマ])の効果を強めたり、弱めたりする微調整の役割を果たします。つまり、Pivotを下げるとPowerとは逆方向に出力を動かし、上げると順方向に動かします。いい訳が思いつかなくて「ピボット」のままにしています。

 式を見るとお分かりになると思いますが、Powerが1の時は(つまりガンマ補正がない場合)、Pivotの効果はありません。Powerが1から離れれば離れるほど、Pivotの効果が増します。

・ミッドトーン/ガンマが1.0の時はPivotをいじっても効果なし

・power<0の場合 (ミッドトーン/ガンマ補正で明るく補正した場合)

 pivot 下げると暗くなり、上げると明るくなる

・power>0の場合 (ミッドトーン/ガンマ補正で暗く補正した場合)

 pivot 下げると明るく、上げると暗くなる

 

 なお、このモジュールをトーン調整用のツールとして使うとき、特に[ハイライト/増幅](=slope)を使って明るくする場合は、明るくするとハイライト部がクリップアウトして飛びやすいので要注意です。このような場合はハイライト部の効果を弱めるマスクと併用する必要があります。また、トーンイコライザと異なり、色相や彩度との調整の分離もないと思いますので、個人的には、トーン調整ツールとしては、トーンカーブに比べて必ずしも優位ではないように思いますし、特にトーンカーブパラメトリック調整と比べて機能的にかぶるかと思います。名称が分かりやすくなった分、機能的にかぶることも分かりやすくなったというところでしょうか。ただ単純にトーンを調整するだけですとトーンカーブとの違いが分かりにくいですが、この機能の神髄は、以下に紹介する調整モードで、R, G, Bチャンネルごとに調整出来たり、トーン領域ごとに色相を調整することができるという点にあると思われます。

 なお、色相調整ツールとしては、カラーチャートは直感的に分かりやすいので、RawTherapee時代からちょくちょく使っていました。

[RGBチャンネルを分割]

 RawTherapee5.8の場合、色チャンネルごとに上記の調整が可能でした。

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RT5.8 - 色チャンネルの選択ダイアログ

 それをARTで行うのが、[RGBチャンネルを分割]調整ダイアログです。

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ART - RGBチャンネルを分割ダイアログ

 おおむね自明かと思いますが、レッド、グリーン、ブルーが一覧で見られるように変わっています。このモードは、いわば、RGBカーブをパラメータで調整するような役割になると思います。従ってR, G, Bのスライダーを別々に動かすことで意図的な色相の調整を行うことができます。例えばGIMPの平滑化に似たようなこと、つまりR, G, Bのカーブをある程度揃える、というような調整には便利かと思います。

 [リンクに対応するスライダー]のチェックを入れると、ある色のスライダーを動かすと他の色のスライダーも連動して動きます(→ということは結果は標準モードと一緒になるのではないかと思います)。

 [輝度モード]に関してはよく分からないのですが、これにチェックを入れると、R, G, Bがバラバラに動くのではなく、例えばGの値を動かしたとすると、どうやらその動かしたGの値に応じてRやBも色相を動かさないように連動して動くのではないかと思います。ですので、例えばGのミッドトーン/ガンマを0.8に設定した場合と、Rのそれを0.8に設定した場合ではトーンカーブが異なります。つまり、標準では、RGBを合わせたトーンをいじることが目標になっていますが、こちらの輝度モードでは各チャンネルのトーンをいじることが目標で、それに連動して他チャンネルのヒストグラムも動くのではないかと思います。ただこれは詳しい説明がないので、間違った解釈かもしれません。

 

[HSL係数]

 HSL係数モードのダイアログは、シャドウ域、ミッドトーン域、ハイライト域の3領域ごとにカラーチャートを使って色相を調整することのできるモードです。これもご覧になれば自明かと思います。シャドウ域、ミッドトーン域、ハイライト域毎で良いなら、いちいちマスクを作らなくても良い、ということです。カラーチャートでHue(色相)とSaturation(彩度)をそして、スライダーでLightness(明度)を調整するということかと思います。Lのスライダーの調整方式は標準モードと同じです。

 RawTherapee5.8の[S/M/Hでカラーバランス]モードのインターフェースを変えて(スライダー→カラーチャート)設置したと言えると思います。

 このモードは直感的に分かりやすいので細かい説明は必要ないかと思います。

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ART - HSL係数ダイアログ

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RT5.8 - S/M/Hでカラーバランス ダイアログ

 

*1:以下のディスカッションを参照。

discuss.pixls.us