Ilya Palopezhentsev 氏による、以下のブログに、RawTherapee とデジタル一眼カメラを使ってフィルムスキャニングを行う方法に関する解説が掲載されています。
なお、 Ilya Palopezhentsev 氏の説明は、2020年の RawTherapee 開発途上版を基に行われており、5.8 リリース版よりも、その時点での開発版のネガフィルムモジュールの方が改善されているので、開発版を使うようにとの注意書きがついています。さらに、RawTherapee は、2022年11月に、Ver. 5.9 の公式リリース (およびそれに先行するリリース候補版の公開) が行われた際にネガフィルム・モジュールの仕様変更が行われ (ARTもその変更を継承)、非 Raw ファイルからもネガポジ転換が可能になりました。そのため、Ilya Palopezhentsev 氏のブログの解説と異なっているところがあります。それも含めて、上記ブログの解説の要点を抜粋してみます。なお、当然ながら以下の説明は、RawTherapee, ART に共通です。
まず Ilya Palopezhentsev 氏が強調しているのは、デジタルカメラでフィルムスキャンを行う際は、撮影セッションごとに、必ずフラットフィールド補正が必要だ、という点です。これは、いくら注意深くライトのセッティングを行っても、完全に均等なライティングは困難なため、撮影セッションごとにフラットフィールド補正用のデータを撮っておいて、RawTherapee (及び ART) で処理する際にフラットフィールド補正を行う必要があるという指摘です。
このフラットフィールド補正データは、当然ながら、同じ撮影セッションで撮られた複数のフィルムに対しては、仮にフィルムの種類が異なっても、共通に使用することができますが、同じ種類のフィルムでも、撮影セッションが異なれば共用できません。
なお、Ilya Palopezhentsev 氏は、撮影の際に、qDslrDashboard というアプリを使用して Nikon のカメラを使用されておられるようです。
また、フィルムベース色を撮影する際はなるべくレンズの中心にかかるようにすべきと述べられていますが、現在 (2022年秋のRT 5.9リリース候補版以降)、RawTherapee および ART のネガフィルム・モジュールからは フィルムベース色を採取する機能がなくなり、ネガ専用のホワイトバランス機能に代替されました。
また、フィルムの RGB 調整係数を取得する際に2か所の無彩色点をピックアップする必要がありますが、なるべく明るさが離れた点を指定するようにと指摘しています。この RGB 調整係数とは、R, G, B に対応するフィルムの染料が形成するコントラストが異なるため、そのコントラストを調整する係数のようで、基準指数は、Gチャンネルのコントラストであり、それに対し、R, B のコントラストを G チャンネルのコントラストに対する比率として指定するようです。この調整係数を、2つの明るさの異なる無彩色点をピックアップすることで、自動的に計算します。このフィルムの RGB 調整係数は同じフィルムロールであれば同じはずなので、あるコマで適切な2点が得られなくても、同じ他のコマで得られれば、その値を他のコマに適用しても OK です。
なお、暗部がマゼンタ / ピンクがかってしまう場合は、RGB 調整係数の Blue の比が低すぎるので、少し上げます。逆に、ハイライトがマゼンタ / ピンクがかってしまう場合は、Blue 比が高すぎるので少し下げるとよいということです。
RGB 調整係数の調整終了後、コマごとにホワイトバランスを調整します。 Ilya Palopezhentsev 氏の解説では、ホワイトバランスモジュールを使って調整していますが、これは拙稿で紹介したように、現在はネガフィルム・モジュール内のホワイトバランス調整項目で調整します。決して通常のホワイトバランスモジュールで指定しないでください。
次に、明るさ、トーンを調整しますが、Ilya Palopezhentsev 氏が強調することは、これを露出、コントラストやブラックポイント補正で行ってはならない、という点です。その代わりにトーンカーブを使います。このとき、ノウハウとしてトーンカーブを2つ使います。
1本目は次のようなトーンカーブを使います。
この時、ヒストグラムの右側を見て、ハイライトがクリップしないよう余裕をもって設定するということです。
そして2本目は次のようなトーンカーブを使います。こちらは通常のデジタルカメラの画像でも見られるパターンのトーンカーブです。
こちらは、場合によってはハイライトがクリップしても構いません。さらにホワイトバランスを必要に応じて調整します。その上で、スポット編集やその他カラー調整を行います。
このように2本のトーンカーブを使うのは、デジタルカメラを使ったフィルムスキャンでは、そのままではダイナミックレンジが限定されるためです。2本のカーブを使うことによってフィルムのミッドトーンの豊かな諧調を引き出すというのが一つのポイントです。
ただ、筆者の経験ではある程度基準指数を引き上げることで、1本目のトーンカーブと同様な効果が得られるように思います。基準指数の調整だけではギャップが埋めきれないような場合にこのノウハウは有効かと思います。
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