RawTherapee & ARTの特徴の一つとしてフィルムシミュレーション機能があります。2014年7月のバージョン4.1.49から使えるようになっており、当時無料でフィルムシミュレーション機能が使えるソフトウェアはほとんどありませんでした。Photoshopは 2013年のCS6から3d lut (カラールックアップ) を搭載し、Lightroomでもフィルムシミュレーションを実現するプリセットやDCPプロファイルが存在しますが、いずれも有償ソフトであり、またこれらのプロファイル、プリセットファイルさえも有償であったりしました。このフィルムシミュレーションを無料で使えるというのが、RawTherapeeの一つの特徴でした。今は、darktableもVer. 3から lut 3d を備え、また無償で配布されるプロファイル、プリセットファイルも増え、逆に有償だった Lightroom用のVSCO Film などは販売を停止しているぐらいですが、一応特徴的機能として取り上げます。
RTではカラータブ、ARTでは特殊効果タブにあります。
但し、これを使うには、フィルムシミュレーション用のPNG形式のカラールックアップテーブル(CLUT)データ、つまりHaldCLUTファイルをあらかじめ入手し、環境設定でHaldCLUTファイルの置き場所をあらかじめ指定しておく必要があります。指定しておかないと、選択することができません。このデータは、入力した色をどのように変換するかが指定されています。
フィルムシミュレーション用のHaldCLUTファイルは下記から入手できます。
RawTherapee公式ページ(RawPedia)で配布しているもの
http://rawtherapee.com/shared/HaldCLUT.zip
Stuart Sowerby氏が配布する、Fuji Film Simulation Profiles
G'MICサイトで配布するもの
なお、フジのフィルムシミュレーションファイルは、RT公式サイトのものよりも、Stuart Sowerby氏のものの方が良い結果が得られます。但しStuart Sowerby氏のものを使う時はトーンカーブを一切オフにすることが前提になっています。
これらのファイルをHaldCLUTのあるディレクトリに解凍すれば、使えるようになります。サブディレクトリを作ってそこにおいてもかまいません。
あとはファイルを開いて、適用するシミュレーションファイルを選択し、適用量を定めればすぐに適用できます。
個人的な見解ですが、フィルムシミュレーションは、トーンカーブなどでR, G, Bをいくらいじっても、あちらが立てばこちらが立たずでうまくバランスが取れないといった、色編集の袋小路に入ってしまった場合に、逃げ道として結構有効かと思います。非線形的に色を変換してくれるので、補正したい写真にうまく当てはまるシミュレーションファイルが見つかれば、かなり有効です。私自身、相対RGB色マスク画像作成ツールを考える前は、黄変ネガ写真をBチャンネル再建法で補正した後、カラーを補正しきれない場合、たびたびフィルムシミュレーションで逃げていましたので。
以下適用例です。ARTを使っています。
同じVelviaのシミュレーションでも、RawPedia公式サイトで配布しているものと、Stuart Sowerby氏が配布しているものでは、結構違います。
さらに追加情報です。
ART / RawTherapeeで読み込めるフィルムシミュレーションファイルは、いち早くフィルムシミュレーションに対応したこともあって、HaldCLUT(png形式)のみです。しかし、最近HaldCLUT形式以外で配布されているフィルムシミュレーションファイルも増えており、これらを使いたい場合があると思います。そのようなニーズに対して次のような、ファイルコンバートツールがあります。
1. Batch 3D LUT converter
grossgrade.com 3D Look Up Tableデータのファイル形式を変換する専用ツールで上記リンクから段ロードできます。Windowsのみ対応です。
入力できるLUT形式として、
§Adobe / IRIDAS Cube (*.cube)
§Adobe / IRIDAS Look (*.look)
§Autodesk / ASSIMILATE Scratch 3DL (*.3dl)
§Autodesk Color Management (SynColor) CTF (*.ctf)
§DaVinci Resolve Cube (*.cube)
§Hald CLUT Image (PNG) (*.png)
§Hald CLUT Image (TIFF) (*.tif;*.tiff)
§ICM profiles (*.icm)
§ASC Color Decision List (*.cdl)
§ASC Color Correction Collection (*.ccc)
§ASC Color Correction (*.cc)
§Edit Decision List (EDL) (*.edl)
§Adobe Arbitrary Map AMP (*.amp)
出力できるLUT形式として
§Adobe / IRIDAS Cube (*.cube)
§Adobe / IRIDAS Look (*.look)
§Autodesk / ASSIMILATE Scratch 3DL (*.3dl)
§Autodesk Color Management (SynColor) CTF (*.ctf)
§Rising Sun Research cineSpace (*.csp)
§Academy / ASC Common LUT Format (CLF) (*.clf)
§Digital Vision Nucoda CMS (*.cms)
§DaVinci Resolve Cube (*.cube)
§FilmLight Truelight (*.cub)
§Side Effects Houdini (*.lut)
§DVS Clipster (*.xml)
§Panasonic VariCam (*.vlt)
§Hald CLUT Image (PNG) (*.png)
§Hald CLUT Image (TIFF) (*.tif;*.tiff)
§ICM profiles (*.icm)
が挙げられています。
2. ImageMagik
ImageMagikはLinux, Windows, MacOS, iOS, Android対応の、コマンドラインベースの画像処理ソフトです。
cube形式をHaldCLUT png形式に変換可能です。コマンドは、
magick mogrify -format png *.cube
となります。
2. G'MIC
もともとはGIMPのプラグインソフトとして出発したG'MICですが、今や複数のソフトのプラグインとして動くだけでなく、コマンドラインソフトとしても動きます。公式にはWindowsとLinuxしかサポートしていませんが、MacOS版を私的にコンパイルして配布している方がいます。
G'MICの場合もImageMagikと同様です。コマンドは、
gmic input.cube r 64,64,64,3,3 r 512,512,1,3,-1 o output.png
となります。
以上情報元は、
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yasuo-ssi.hatenablog.com-------------------------
[追記]
ARTのフィルムシミュレーションは、Ver. 1.16 からOpenColorIOに対応したCLF形式の LUTにも対応しました。なお、ARTでは、OCIO対応 LUT は、カラー/トーン補正とフィルムシミュレーションの両方で動作しますが、画像処理パイプライン上の位置が異なります。前者で使うとシーン参照色空間で動作し、後者で使うとディスプレイ参照色空間で動作します。
なお、同時に、カラー/トーン補正で LUT モードが新設され、こちらでも、CLF, PNG 形式の LUT に対応するようになりましたが、カラー/トーン補正で使うと、シーン参照、フィルムシミュレーションで使うと、ディスプレイ参照色空間での適用になりますので、適用結果が多少異なります。