1991年5月の連休に、山梨県の上九一色村(当時)で撮影した、富士山と牧場の写真のフィルムスキャンしてみました。上九一色村と言えば、のちにオウム真理教のサティアンで有名になりました。今考えてみると当時、そのそろサティアンが立ち始めていたころのはずですが、その当時はそんなこととはつゆ知らず... いささか絵葉書的な牧歌的写真となりました。
それはともかく、当時、ネガで写真を撮るとともに、必ずラッシュプリントを焼いていました。今回、ネガとラッシュプリントのポジの両方をVuescan + Konica-Minolta Dimage 5400 II でスキャンしてみました。フィルムは、黄変が心配な高感度のフジカラーHG400です。ISO400なのに、粒状性がISO100フィルム並みになって常用フィルムとして使えると宣伝されたフィルムです。当時はISO400のネガカラーフィルムが発売されたから15年が経過していますが*1、変退色具合はどうでしょうか...
まず、こちらはネガをスキャンして出来たTIFFファイルをそのままリサイズしたものです。退色復元、色彩復元は掛けています。軽微ではありますが、果たして中央部を中心にうっすら不均等黄変が始まっています。ただそれ以外は比較的鮮明で、色彩も豊かです。うっすらとした黄変がなければ... という感じです。
こちらはラッシュプリントのポジフィルムをスキャンしてそのままリサイズしたもの。変褪色はほぼなさそうです。スキャンの際の退色復元等のオプションは使っていません。ラッシュのオリジナルよりやや青みがかっている感じです。もちろん、ネガのスキャン出しと比べると、黄変がない点は良いですが、青みがかっているせいか、色は単調な感じがします。
ネガをスキャンしたDNG形式のRawファイルから、黄変を消そうとVuescan上で、富士山の雪あたりにスポット点を取ってホワイトバランス調整を掛けてみました。牧草が妙にみどり、みどりしていて、若干不自然なうえ、黄変は前よりは目立たなくはなりましたが、依然微妙に残っています。ネガスキャン出しの方が、黄変は目立つものの、自然です。
次に、ラッシュから作ったDNGファイルをさらにVuescan上でスポット点を取ってホワイトバランスを調整した上に、さらに、R, G, Bの明るさ調整を行いました。かなりオリジナルのラッシュフィルムに近いイメージに仕上がりました。富士山もかなりいい感じで仕上がっています。しかし、ネガのスキャン出しは、牧草の新緑の新鮮な感じが出ていますが、ラッシュはその新鮮な感じが出ておらず、盛夏の草のようです。
次に作戦を変えて、本格的なRaw現像ソフトである、RawTherapee を使ってネガよりスキャンしたDNGファイルからRaw現像を試みて、マスクを使わない補正で、黄変がどこまで補正可能か見てみます。
最初は読み込んでベースカーブ補正 (ガンマ補正) を掛けただけ、さらにスポットを取ったホワイトバランス調整、そして、最後にトーンカーブで明るさを調整しました。VuescanのRawファイルは、全くガンマ補正がかかっていないので、Adobe DNGコンバーターの Nikon Z7用のプロファイルのガンマ補正のベースカーブだけ流用してガンマ補正を掛けています。なお、ホワイトバランス補正+トーンカーブ調整までやると黄変がかなりごまかせます。若干牧草が鮮やかすぎてやりすぎかもしれません。
さらに、今度はラッシュスキャンしたDNGファイルをRawTherapeeで現像・補正してみます。
図8はネガと同様な方法で、ベースカーブ補正を掛けたもの、図9はそれにスポットを取ってホワイトバランスを取ったものです。ただネガに比べて全般的に青みが強く、牧草の新緑の感じが全く出ていません。ネガスキャン出しでも、多少暗くはありましたが新緑の感じが出ているのに対し、盛夏の牧草のようです。さらにトーンカーブ補正を掛けると(図10)、ラッシュスキャンをVuescanを使ってマニュアルで補正を掛けたもの (図4) に酷似しました。ただこれにトーンカーブを調整して牧草を明るくしようとすると空が全般的に黄色がかります。トーンカーブによる調整に習熟していないだけかもしれませんが... 結局RawTherapeeのチャンネルミキサーで、RとGのレベルを上げるとともに、Bのレベルを下げ、さらにHSVイコライザ-で調整を掛けると、ようやくネガスキャン出しから空の黄色味を除去したイメージに近くなりました(図11)。ですが、牧草は確かに明るくはなったのですが、今一つ新緑の新鮮な感じに欠けます。どうもラッシュスキャンの方が、ネガスキャンより微妙に色の深みがないというか... おそらく、ネガの方がラチチュードが広く、潜在的なダイナミックレンジが高いのに対し、ラッシュではラチチュードが狭く色のダイナミックレンジも狭いのではないか、という印象です。
ネット上の体験談情報でもネガフィルムより印画紙プリントの方が色が残っている、というような記述を見かけますが、同様なことはラッシュにも言えそうです。とはいえ、変褪色のしやすさを除けば、実はネガフィルムの方がポジフィルムより、潜在的な可能性 (情報量) は高いのではないかという気がしてきました。もちろん、今回はネガから作成したラッシュプリントのポジフィルムなのでポジの方が情報量が少ないのは当然です。しかし、そもそもラチチュードが狭い分、やはりポジ (リバーサルフィルム) の方がネガより情報量が少ないのではないでしょうか?ただ、今までは、印画紙のラチチュードが狭いのでネガの情報量の多さに気づかれなかったのでは?多重露光やマルチスキャンを活用すればネガからHDR並みの情報量が取り出せるのではないか、という気がします。デジタル一眼でネガデュープを行う場合は、露出を変えて複数回撮影し、HDR合成すると良いのではないでしょうか?
また、ネガスキャンをした際、やはりRaw形式でファイルを保存しておくことは非常に重要だと改めて感じました。そのためには、Vuescan や Silverfast等のスキャン専用ソフトを使うことが必要です。それによってかなり画像調整の余地が大きく広がることは間違いありません。
それとやはりネガの黄変の始まりは30年前後が目途になりそうです。その前にぜひネガフィルムのデジタル化を強くお勧めします。ただこのフィルム程度の不均等黄変は青空では分かりますが、そうでない場合は気が付かない場合も多いと思います。
*1:世界初の感度400ネガカラーの発売は、1976年のフジカラーF-II 400でした。以下のフジフィルムの社史をご参照ください。
www.fujifilm.co.jpHG400は、F-II 400 → HR400 (1983年発売) → Super HR400 (1986年) と来て、ISO400フィルムの四代目 (1989年発売) です。粒状性が常用フィルムとして遜色のないレベルになった、というのがキャッチフレーズでした。「フジカラー「ズームマスター800」の開発」